小説内容

□第五話
2ページ/2ページ


 そのころライたちは、はやてと話していた。

「ここには厄介な奴はこないか?」
「たとえば…めんどくさい純血種とか」

 ライの言葉に付け足すようにスイルが厳しい目つきで言う。
 スカルが少し嫌そうな顔をして、はやてを見た。

「少しイヤな気配があるんだ…」

 そんな3人の言葉に、はやてが真剣な顔をしていった。

「大丈夫なはずですが、純血種の方ともなると我々の術を簡単に破る可能性があります」

 はやての言葉に考え込むようにしてからリークはうなずいた。
 純血種の中にも、かなりの力を持ったたちの悪いものがいる。
 はやてを責めても何も変わらない。
 なら自分たちが細心の注意をはらうしかない。
 リークはライに考えを話すことにした。

「なぁ、ライ。話はこのあたりで終わらせて姫たちを追いかけた方がいいかもな」
「あぁ、そうだな。それでは、俺たちもホールに向かうとしよう」

 話し終えるとライたちは足早にナツミたちのもとへ向かった。
 ホールに行って目にしたものは貴族や王族に囲まれているナツミたちの姿だった。
 ライが舌打ちをする。

「くそっ…めんどくせーことに…」
「ナツミにワラワラと蟻のように群がるなんて…殺してあげる」

 スイルが駆けだそうとした瞬間、1人の女性が男性と共に貴族たちの間を割っていった。

「急がないとならなくなったな」
「そのようだね、兄さん」

 スカルにそういってスイルは口元に笑みを浮かべた。
 わずかな血臭を感じ取るとライたちは急いでナツミたちのもとに向かった。

 ナツミは自分の周りの貴族をみながら困ったように声をあげた。

「ちょ…どうしよ〜…」
「あぁ…我らの姫君、この世界にお戻りになられたのですね」
「シズカ様…戻ってこられて…」
「戻った戻った!!だから、そんな寄るなっ!!
 うっとうしい!!」
「も〜、私ももどってきたから…って、全然聞いてないよ…この人たち」

 はるが困ったように声をあげたときだった。
 目の前がひらけ、1人の女性があらわれた。
 ミナミは目を細めると、はるの前に立ちその女を睨んだ。
 わずかな血臭をがあたりをとりまくのと同時に貴族の者たちが静かになった。

「姫たちがお困りになっていますわ…。
 もう少し静かになさらないと…」

 女性は口元に笑みを浮かべた。
 ミナミは舌打ちすると瞳を輝かせた。
 瞳の色をみて、女性は怪訝そうな顔をする。

「挨拶をしにきただけです。
 どいてくださるかしら?
 混血の方」
「あなた、少し血の匂いがする」
「ヴァンパイアなのだから、あたりまえでなくて?」

 唇を舌でなめ、女性は牙を口からのぞかせた。
 ミナミの眉間によるしわが深まったところでライたちが来てくれた。
 ライの鋭い目つきが女性に向けられる。

「何をしている…?」

 ライがそう言い放つと、その場の空気がかたまったように凍り付いた。
 しかし、女性は笑みをたやさず女性の近くにいる男性も黙ったままだ。
 スイルが白銀の力を手にためながら警戒した口調で疑問を投げつける。

「この子たちに何か用?」
「私たちは挨拶をしにきたのです、白銀の王。
 私は光の世界の純血種、セトナと申します。
 光の姫君、よくおもどりになられました」
「…で、そっちは?」

 リークたちのただならぬ雰囲気にナツミたちは心臓が激しく脈打つのを感じた。
 ナツミが加勢をしようとみがまえるとスイルによって止められた。
 男性が静かに口を開く。

「我が名はオレド。純血種」
「へぇ…。もう自己紹介したんだから、とっとと失せてくれる?
 じゃないと、俺の白銀の力で殺す」
「まぁ…白銀の王は冷たいのね…。
 …えぇ、でも」

 ライたちの殺気に気づいているセトナは苦笑し口元に手を添え笑った。
 その笑みは、どこか危険な感じを思わせる笑みだった。

「少し、この場所は避けた方がいいようね。
 オレド、行きましょう」

 オレドは、はるをジッと見ていたがセトナに呼ばれ、その場から離れていった。

 2人が去り、みんなはフッと息をついた。
 張りつめていた空気が少しずつほぐれていくのを感じる。
 ライも息をついて力を抜いた。

「もう大丈夫そうだな」
「はぁ…びっくりしちゃった」

 まひろがホッと胸をなでおろし、ナツミたちもようやく笑うことができた。
 スイルがナツミのそばに行く。

「ナツミ」
「あっ、スイル。なぁに?」
「俺と一曲踊っていただけませんか?」

 胸に手を添えて片方の手を差し出してくるスイルにナツミはドキドキしながらもスイルの手をとった。
 しかし、手をとってからナツミは固まった。

「わ、私、踊れない…」
「いいよ。俺がエスコートする」
「大丈夫かな…」

 足手まといになりそうで心配しつつも、ちょうど音楽が変わったところでスイルに両手をとられた。
 踊ってみるとスイルにひかれるように踊れた。
 足は少しおぼつかないものの穏やかな表情のスイルを見ていたら気にならなかった。

 ナツミが踊っているとき、シズカは2階からホールを見下ろしていた。

「ナツミ、踊れてんじゃん」

 笑いながら見ていると隣にグラスを持った人が来ていた。
 その人をみて、シズカは目をそらす。

「スカルはいかないのか?」
「俺は見ている方がいい…。
 スイル、楽しそうだな」

 手すりに肘をついて下で踊るスイルに目をやって笑う。
 シズカは、もう1度2人を見下ろす。

「なぁ、スカル。女の人、いっぱいいるし誘って…」
「俺が踊りたいと思うのは1人だけだ」

 スカルは、そういってグラスを傾けてワインを飲んだ。
 シズカに踊る気はないということを知っているスカルは無理に頼んだりしなかった。
 

「ごめんな…スカル」
「気にしなくていい…少し飲みすぎたようだ」

 グラスをおいて目頭をおさえるとスカルは大きく息をついた。
 大丈夫かといって近くによると抱きしめられた。

「お前!?」
「確かに飲みすぎたが…俺は、こんなことで倒れない」
「ったく…」
「だが、少しシズカが足りない。
 しばらくはこうしていて」

 そのまま動かないスカルを見ながらシズカはため息をつきつつ、たまにはいいかと思いそのままでいた。 


 一方はるは、たくさんのケーキに目を輝かせていた。
 どれもおいしそうで悩んでいるとリークがお皿を差し出してきた。
 その上にはいくつかのケーキがのっている。

「これは…?それにリーク、そのかっこう?」
「似合ってるだろ?ウェイトレス姿」

 リークはどこかの執事のようなかっこうだった。
 いったい何をしているのだろう…。

「このケーキ、俺がつくってみた」

 もらったお皿の上を見てみると机の上にないケーキばかりが並んでいた。
 驚いてリークに目をやる。

「食べていいの?」
「どうぞ。そのためにつくったんだから」

 そういわれてケーキを食べてみると、すごくおいしくてびっくりした。
 リークが心配そうにはるの顔をのぞいた。

「どう?」
「おいしい!」
「そっか、よかったぁ…」

 心から安心するリークにはるは、ありがとうと言った。
 

 そうして、いろいろなことがあった夜会は終わっていった。

 ダンスをしたり、おいしい食事を食べたり…夜会は楽しかった。
 ただ、夜会は楽しいことばかりではなかった。
 純血種という強い力をもったヴァンパイアの中にもライたちが警戒するヴァンパイアがいるということ。
 理由は分からなかったが、あまりいい存在ではないということがわかった。

 光の城に戻ると、みんなは夜会の疲れもあり、すぐに自室へと戻っていった。

「今日は…いろいろあって…」

 ナツミはぼんやりと沈みかける月を見ながら言った。
 セトナのことを思い出すと身震いをした。
 あの人は言いようのない恐怖感を与えてくる人だった。
 もう1人の私が警告をしたのは、こういうことだったのだろうか…。

 よくわからずにいると扉があく音がして、扉のほうに目をやるとそこにはスイルが立っていた。

「スイル?…ノックしてくれないから」

 びっくりしたと言おうとしたところで、スイルに引き寄せられていた。
 かすかにスイルから闇の力を感じる。

「スイル?どうしたの?」

 スイルが何かをつぶやいた。
 でも、聞きとることができず聞き直そうとして首筋に痛みを感じた。

「ス…イ…」

 小さい声をあげるとスイルは首筋から牙を離した。
 白銀の瞳は、まるで自分の体を射抜くような鋭さがあり恐ろしくなった。
 口のまわりは血で汚れ獣のように息が上がっている。

「ナツミ…俺は、やっぱり闇でしかない」
「どういうこと…」
「苦しいんだ…」

 そういわれて、自分が取り除けなかった闇の心がスイルを苦しめているのかと思った。
 でも、それはどうすることもできなくて…ナツミはスイルを抱きしめることしかできない。

「ごめん…ナツミ」

 スイルは、ただそう謝っていた。
 その言葉にナツミはうなずくことしかできなかった。

 そのころシズカはベッドに寝転がり天井を見ていた。

「うちは強くならないといけない…スカルにこれ以上」

 そうスカルにこれ以上、無理をさせるわけにはいかない。
 自分のせいで傷つく姿なんてものはみたくない。
 夜会の時だって、スカルはうちをかばうように立っていた。
 いつまでも、あんな姿を見ていたくない。

 シズカは強く心の中で決意していた。
 絶対に強くなると…。

 そしてシズカが強く心に誓ったようにミナミもまた強く心の中で思っていることがあった。

(私が必ず助ける…。たとえ、みんなを裏切ることになっても…)

 少し胸が痛むのを感じながら自分の目的意識をハッキリともち、その日は深い眠りについた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ