小説内容

□第五話
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 優しげな月明かりが会場を照らしていた。
 みんなは、それぞれ用意してくれたドレスやスーツを着て、その会場に来ていた。

 1時間前の光の城では、みんなにドレス姿のお披露目があった。
 スーツを着こなした男の人たちは、とても格好良く思えた。
 ライがイアルにスーツをみせながら言う。

「少しサイズが小さかったか?」
「いいえ、それぐらいでよいかと…」

 イアルはそういってライの履く靴を手早く拭いて今履いている靴と履き替えるように言った。
 ライは少し煩わしそうに服を眺めつつ、きっちりと着こなしていた。
 その近くではスイルとスカルが服を見せあっている。

「兄さん、そこの裾少し上がってるよ」
「あぁ、ほんとだな…スイル、お前も」
「なんだよ。やっぱり、お前ら双子だよな」
「何言ってるの、リークは。
 やっぱりバカだよね」

 スイルは今更のようなことを言ってくるリークに肩をすくめて言った。
 リークは、なんだとっ…と怒り出しスカルは2人をみて首を横に振った。
 あきれてものも言えないようだ。

 そしてナツミたちはナツミたちでお互いのドレスを見合っていた。
 そばにきてアクセサリーをつけるキリクにナツミは聞く。

「変じゃないかな?」
「よくお似合いですよ、姫君」
「ありがとう、キリク」
 

 えへへ…と照れて笑うナツミにキリクは微笑みを向ける。
 もし従者でなかったら…そんな風に考える時もあるが、今が1番自分の身分を卑しく思う時だった。

 はるがシズカに声をかける。
 

「こういうドレスを着るなんて思わなかったよ」
「うちだって着たくなかった。
 はずかしい」

 ナツミとシズカとはるの3人は高価なドレスに気おくれしてしまいそうになっていた。
 ナツミはチラッとスイルの方に目をやるとスイルと目があい恥ずかしくなってすぐにそらした。
 スイルは中に青のワイシャツを着てその上に白のスーツをきている。
 だんだんと頬が熱くなるのを感じた。
 ナツミは両手で頬をはさんだ。 
 そんなナツミの後ろからスイルがナツミの両手の上に自分の手をあてた。

「ナツミ。どうして、そんなに赤い顔をしているの?
 もしかして、見とれてた?」
「スイル!?」
「びっくりしてる姿もかわいいよ」

 スイルはナツミの頬に手をやって笑って見せた。
 そんなことをスイルがやっていると、シズカとはるのもとにもスカルとリークがやってきた。
 スカルは中に紫のワイシャツで黒のスーツを着ている。

「シズカ、似合ってるな。
 ふんわりしたドレスよりもお前にはそういうスマートな感じの方が似合う」
「そうか?」
「あぁ…いつにもまして、かわいい」

 なにげなく言うスカルの言葉はシズカをドキドキさせるばかりだった。
 そんな2人に比べ、はるたちはほのぼのとしていた。
 黄色のワイシャツを着てスーツは着ることなく手に持っている。

「リーク、スーツ着ないの?」
「ちょっと暑くて」
「そっかぁ。私こういうの初めてで…」
「似合ってるよ」

 リークに突然言われ、はるは頬を赤く染めて嬉しそうにお礼を言った。
 

「次にドレス着る時は花嫁か?」
「リーク、気が早いよ!」

 2人は仲睦まじく笑いあった。
 
 そんな光景をミナミは部屋の隅で見ていた。
 まひろは今、父のはやての手伝いに行っていてそばにはいない。

(うちにはやるべきことがある)

 ミナミは、そう思いつつもやはり1人でいるのは寂しかった。
 いつもは、まひろが一緒にいてくれるため、そういう寂しさを紛らわすことができるのだが今は仕方がない。

 ぼんやりとみんなを見ていると、いつのまにかライが隣に来ていた。

「なに?」
「お前、何を考えていた?」

 ライの言葉には、どこかトゲが含まれているようだ。
 聞いていて、あまりいい気がしない。

「何をたくらんでいるかはしらんが…もし、あいつに危害が及ぶようなら容赦なく俺はお前に刃を突き立てる」

 ライの言葉にミナミは驚くことなく鼻で笑った。
 やはり、ライは侮れない存在だと思った。
 それと同時に自分の目的には少しジャマな存在とも思えた。

「お前から少しリバルの力を感じた。
 別に何もないのなら今の俺の言った言葉は無視すればいい。
 俺はカエデにたくされたあいつを守るだけだ」

 ライの目にうつっているのは笑っている愛娘だけだ。
 カエデのことはミナミはよく知らない。
 どんな人かと思っても想像すらつかない。
 でも、ライはカエデのことを今でも愛しているようだった。

 ライが自分のそばから去っていく中でミナミはボソリと言った。

「ライ、あんたの力また上がり始めてる。
 このままだと、あんたがあの子を殺す」

 その言葉にライは一瞬足を止めた。
 少し振り向いて知っているとだけ言うと歩みをまた始めた。

「なんて間抜けな声で言うんだろうね…ライ」
 

 ミナミの顔は少し悲しさで揺らいだ。
 そして、もう1人のことを思い浮かべた。

「ライ、あんたと同じような人を知っている、私は…。
 どうして、あんたたちは自分を犠牲にしてまで頑張るの?
 なっちのためにさ…」

 ミナミの心は荒立つばかりで一向に落ち着く気配はなかった。
 そんな自分の心に少し苛立ちつつ幸せそうに笑うナツミとシズカとはるを見た。

「なにもしらないって…幸せだよね」

 グッと手に力を込めて自分の気持ちを落ち着かせた。
 ほんの少し羨ましかった、あの3人が…。
 守られているだけで現実を知らない、あの姫たちが…。

「犠牲のうえで、あんたたちの幸せが成り立っているというのにね…」

 ミナミは吐き捨てるように静かに言って部屋から出ていった。
 その様子をスイルは横目で見ていた。

 そしてキリクがライに全員準備が整ったことを知らせ今の会場に至っている。
 主催者に挨拶をするということで全員そろって、まひろの父・はやてに会いに行った。
 はやてがライたちを見るたびに頭をさげて口上をのべた。

「ようこそおいでくださいました。
 我が君…」
「みんなついたんだね!」
「今日は世話になる。娘のナツミだ」

 ライはそういって、はやてにナツミを紹介する。

「混血の姫君、なにかとお苦労が多いかもしれませんが私はあなた様の味方です。
 どうか、お忘れなきよう…」
「ありがとう、まひろのお父様」

 ナツミが嬉しそうに言うと、はやてがカエデ様に似ていると穏やかな表情で言った。
 ライがシズカの紹介を、はやてにした。
 

「こっちは、見ればわかるが海原の姫のシズカだ」
「シズカだ…。今日は招いてくれて感謝してる」
「楽しんでいってください、シズカ様」

 ライがはるの紹介をしようとしたところで、はやてが微笑んで首をゆるく横に振った。

「はる様…ですよね?」
「えっ?はい!!でも、どうして?」
「私は大地の世界の者ですから」
「そうだったね〜」

 はるがはやてとニコニコと話す。
 やはり同じ世界の者同士、馬が合うようだった。

「さて、紹介も済んだしナツミたちは外に出て会場の方に行ってろ」
「では、まひろに案内させます。
 まひろ、姫君たちを案内しなさい。
 くれぐれも失礼のないように…」

 それぞれの親に言われ部屋からでた。
 ライたちは少し話があると言って子どもの私たちは会場のホールに案内されていった。
 女子4人をまひろは案内し説明してくれる。

「ここは私の家の別荘。
 夜会用に建てられたから少し大きめでしょ」
「迷子になりそ〜」

 はるが周りを見ながら言う。
 そんなはるの言葉にシズカもうなずいて確かにと言った。
 長い廊下を抜けるとホールについた。
 ホールには、たくさんのヴァンパイアがドレスをきてパーティーを楽しんでいた。
 ナツミが緊張した面持ちでそんな会場を見回した。

「たくさんいる…」
「緊張?」

 ミナミがナツミの横に来て言うとナツミは何度もうなずいた。
 胸に手を当て大きく呼吸を繰り返すナツミにまひろは笑っていった。

「大丈夫!!大丈夫!!さっ、いこ!
 あそこには、たくさんおいしいものがあるから」

 まひろの言葉に促されるようにして4人は歩きテーブルにつくと、それぞれ飲み物の入ったグラスを手に取った。

「これワイン?」

 シズカが中に入っている液体をみながら言った。
 ミナミがうなずく。

「大丈夫だよ。飲んでもシズカならこれくらいのアルコールで酔わないと思う。
 ちなみに3人の歳をヴァンパイアの年齢に戻すと、ワインも飲める年齢だから」
「そうか…。
 でも酔わないか心配だ」

 半信半疑になりつつも少し味見をするようにグラスを傾けた。
 そして、そこまでアルコールが強くないとわかると、ゆっくりと飲み干した。

「おいしい!」
「でしょ?」

 ミナミの問いかけにシズカは嬉しそうにうなずいてみせた。
 
 みんなが飲食を楽しんでいると、いつのまにか会場にいたヴァンパイアに囲まれていた。
 あまりの多さにナツミ、シズカ、はるの3人は身を寄せ合っていた。
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