小説内容
□第四話
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その日、ミナミがリビングに集まるようみんなに告げていた。
ミナミの信用のおける術者を紹介するとのことだった。
その人は書物を読むことにもたけ難しいものでも解読できるとのことだった。
共有スペースである全員が集まるとミナミはその術者という人を連れ部屋に入ってきた。
連れてきた女の子は同い年くらいにみえた。
「私が信頼している術者のまひろ」
ミナミが紹介するとまひろという子は深々と頭を下げた。
目や髪は落ち着いた色で明るい茶色に近かった。
あまりヴァンパイアという感じではなかった。
「私はまひろ。大地の世界の者です。
私の一族は術にたけています。
姫君、よろしくお願いします」
「まっひーって、私は呼んでるよ。
私らと一緒の年齢だから」
ミナミはそういってまひろと顔をあわせる。
2人は仲が良いようだった。
まひろは少し姉のような気質のありそうな人だった。
話し方をきいているとサバサバしたタイプなのだろうと思う。
すごく落ち着いた人だった。
シズカはそんなまひろに明るく話しかける。
「同じ年齢なら、そんなにかたくなることないよ!
よろしくな、まっひー!」
「よろしく、まひろさん!」
「仲間が増えて嬉しいよ!まっひー」
3人が親しげに話すと、まひろは顔をほころばせた。
微笑むまひろは年相応に、やっと見えた。
5人は時間もそんなにかからず打ち解けあっていた。
最初はまひろも姫たちに敬語を使っていたがシズカがそのたびにムッとするので、だんだん敬語を使わなくなった。
「でも、はるはどうして敬語なの?」
まひろが不思議そうにはるの顔をみて言う。
「うーん…なんかどうしてもなっちゃうんだよね。
たまに敬語になって、もどったりする」
「長い間、一緒にいるうちらにでさえ敬語なんだ!」
シズカはわざとらしく大きく息をついてみせた。
そんなシズカにみんなは微笑んでいた。
一方、男性の方ではまひろを観察していた。
「害がないならいいけど…」
「術者だろ?大丈夫だとは思うが…」
スイルとスカルはナツミたちに聞こえぬように話していた。
親しくなることに口をだすつもりはない。
でも、危険かを見極めなければならない。
少し用心しすぎるぐらいがちょうどいいと思った。
大切な者を守るためだから…。
「悪い力は感じないが…」
ライが言いよどんでいるとリークがそばに寄ってきて苦笑気味にライの言おうとしたことを言った。
「術者独特の力を感じるか?」
「あぁ…まぁ、その程度なら俺が抑えられる」
「僕もだよ」
スイルが横から言ってきた。
そしてスイルから力が漏れ出た。
白銀の力は、どの世界の者にも脅威でしかない。
そう考えるとスイルの力はとても心強い。
そして王にえらばれるほどの力を持っている。
「ナツミは、俺にとって大切な子だからちゃんと守る。
安心していいよ、ライ」
「あぁ、ありがとな。スイル」
「どういたしまして」
ライが安心したように顔をほころばせる。
ナツミを守るという面ではライもスイルのことは認めているようだった。
しかし、ライのその顔があまりにも可愛らしげで、その場にいた男たちは一瞬動きを止めて顔を赤らめた。
「んっ?どうかしたのか?」
キョトンとするライは首をかしげてわけがわからないといった表情だ。
すると、リークが鼻血を噴出しスカルは耳まで赤く染めスイルは顔をそらした。
イアルとキリクは顔を赤らめつつ目を閉じている。
闇の魅惑というのは王になると破壊力が半端ないようだった。
リークは鼻をおさえつつキッとライを見つめた。
「あのなぁ…ライ!!俺らは闇なんだよ!」
「えっ?あぁ…今ごろ何言ってるんだ、リーク?」
「だーかーらっ!!俺たちの容姿は人を惑わせるって知ってるだろ!
お前、少し自重しろー!!」
リークの叫びが響き渡りライは納得のいった顔をした。
そして「バカな奴ら」と言って笑い始めた。
スカルは、それをみて内心ホッとしていた。
ライの力が上がり始めているのは気づいていた。
そのせいか最近ライは気が抜けないようで無理をしているように見えた。
だから今、心から笑っているライをみて安心した。
ふとスイルが真剣な表情をしているのが目にとまった。
視線のさきには、まひろと話すナツミの姿がそこにあった。
スイルに声をかけようとするとスイルは歩き出した。
「スイル?」
スイルはナツミのそばに寄ると後ろからギュウッと抱きしめた。
ナツミが驚いているのも気にせず冷たい瞳をまひろに向ける。
「ナツミを傷つけるようなことしたら殺す。
覚悟して」
「おい、スイル」
シズカとはるは、なれたもので深々とため息をつく。
スカルがスイルの肩に手を置くとスイルが振り返った。
その表情をみて凍り付いたように何も言えなくなってしまった。
「だまっていて、兄さん」
スイルの目には正気というものがなかった。
害のあるものは排除する。
そんな心を感じ取っていた。
そしてスイルに触れたとき、わずかに闇の力を感じていた。
闇をすて白銀になったため白銀の力が大幅にスイルを支配しているはずだ。
闇の力は、ほんの少ししかないはずだ。
スイルの目が真剣さをおびる。
「俺にとってナツミは大切だ…。
俺は、まだお前を信じきれてはいない」
スイルの言葉にまひろは動揺することなくスイルの目をみつめた。
そして驚きの言葉を口にする。
「それは当たり前だと思います。
きっとあなた方が言っている方が正しい」
「きこえてたの?」
「はい。でも悪く思わなくても大丈夫です。
今言ったように、あなた方の方が正しいと思いますから」
まひろの目は嘘をついているようなものでなかった。
スイルにもそれは分かったが過去が過去のため、すぐに信じるということはできなかった。
「そう。でも俺が決めるから。
ライたちがどう判断しようとね」
スイルは冷たく言い放つとナツミから腕を離し部屋から出ていった。
ナツミが困ったように、まひろとスイルの出ていった扉を交互に見ているとまひろが優しげに笑った。
「気にしなくていいよ。
でも、ナツミって本当にスイルに愛されているね」
とんでもないとでもいうようにナツミは首をブンブンと横にふった。
ナツミの顔があまりにも赤いため、まひろはとうとう堪え切れなくなったのか声を出して笑った。
ナツミは顔を赤らめてうつむいたが、だんだん思い悩む表情になっていった。
それに気づいたみんなは笑うのをやめた。
少し言いにくそうにしつつもナツミは口を開いた。
「スイルが私のことを好きなんてこと…ないよ」
スカルはその言葉を聞いて目を開けると、うつむいているナツミに目をやった。
あれだけ好きと言われているようなものなのに気づいていないのか、それともスイルのことが嫌いなのか…わからなかった。
だからスカルはナツミの前にいき、どうしてそう思うのかと聞いた。
「なんで、そう思う?」
スカルの問いにナツミは顔をふせる。
「私はかわいくないし、全然ダメで…考え込んじゃうし…」
こんな私、好きになるなんてことない…。
スカルはナツミの両肩をつかんだ。
ナツミが顔をあげ目から涙がこぼれ落ちた。
「姫君を部屋に連れていく。
まひろ、ゆっくりしていくといい。
俺は、お前をそこまで警戒はしない。
シズカが傷つかなければいい」
まひろが頭をさげるのを視界の隅にいれるとナツミを連れ部屋から出ていった。
子どものようにしゃくりあげながら涙があとからあとから出てくるナツミをスカルは何も言えず見ていた。
共有スペースであるリビングではリークがシズカのもとへ歩み寄っていた。
頬をかきながらリークは言いにくそうに言葉を発する。
「あ、あのさシズカ。
ナツミは闇の姫君だから、王の補佐であるスカルは…」
「そんなん気にしてなくていいよ」
シズカが微笑むとリークは安心したように笑って見せた。
「それにナツミはスイルにとって大切な人。
それはスカルからしてもそうなのかもって…。
自分の主としてお前もそうだろ?」
「あぁ。はるとは、また違う…大切な主だよ」
シズカは満足げだった。
自分にとってナツミは大切な友人だ。
それは、はるも同じ。
自分にとって大切な友人が、また違う意味での大切な人に思われている。
守ってくれている。
特別な存在にならなくてもいい。
ただ同じ気持ちでいてほしい。
仲間のために頑張れる…そんな人たちでいてほしい。
そして、スカルも今、仲間のため…主のためにそばについている。
今のナツミに話すことができるのはスイルの双子であるスカルだけだ。
(スカル、ナツミを頼むよ)
シズカは強くそう思った。
そのころ、スカルはナツミをベッドの上に座らせていた。
床に片膝をつくとナツミの頬へと手をのばした。
「姫君、私なんてという言葉を言うな。
その言葉は自分をおとしめるだけだ」
そういうと、幼い子のようにナツミは泣きながらスカルを見つめた。
年齢に見合わないと思いつつスカルはナツミの頭を撫でた。
「俺にはスイルの気持ちがわかる。
双子だから。
お前が自分のことを嫌っていようがかまわない。
でも、スイルは本気でお前を大切に思っているし命をお前のためになら落としてもいいと思っている」
それだけは忘れないでくれとスカルは告げた。
スイルの苦しみを和らげることができるのはナツミぐらいだ。
他の奴らにはできない。
双子である俺でさえも…。
ナツミのことになるとスイルは理性的ではいられなくなる。
それがスイルの怖いところでもあった。
強い意志が、たぶんスイルにそうさせている。
「スカル」
「どうした?」
「ありがとう」
ニコリとナツミが微笑みスカルもホッと息をついた。
人間界でなにがあったかはわからない。
ナツミは恋におびえているようにみえた。
でも俺たちは人間のように薄情ではない。
本来なら心に傷をつくった奴らをいっそうしてしまいたいがそうはさせてくれないだろう。
なら命令に従うまでだ。
王の補佐という役に縛られつつもスカルはシズカのことを考え出していた。
主のために命を捧げるのとは、また別でシズカを守るためならと思う気持ちの方が強かった。
「ねぇ、スカル」
ナツミは自分に背を向け窓の向こうにある月に目をやっていた。
俺が返事をすると振り返るなり優しげな光を目にたたえ言った。
「私のことはかまわない。
主だとしても命を差し出す必要はない。
シズカを守ってあげて。
私の大切な大切な友人なの」
顔は笑っていたが真剣だということが分かった。
まさかシズカをあだ名で呼ばずに本来の名前で呼ぶとは思っていなかった。
それだけ真面目な話ということだ。
「だが、お前を守るのが俺たちの役目…」
「私は…もう1人の私が守ってくれるから」
その言葉の意味がスカルには、その時分からなかった。
スカルだけではない。その場にいない者たちにも…。
ライにでさえナツミのもう1つの力がある決意をしているということがわからなかった。
ナツミは自分の中にあるもう1人の存在を感じながら月光をあび目を閉じた。