小説内容

□第三話
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 ぼんやりと月があがってくるのをシズカはみていた。
 はるがミナミを部屋に案内しに行った後、スカルがうちに言ってきたことがあった。

『シズカ、スイルはナツ…いや、姫君に神にたてついてでも守ると言っていた。
 俺も何かあれば、この命をかけてお前を守る。
 真剣だ…』

 シズカはスカルに言われたことを思い出し心が痛むのを感じた。
 離れていた時が長かったからかスカルに心を許しきれていない自分がいる。
 悩んでいると扉をノックする音が聞こえ返事をして開けた。
 すると、そこにスカルがいた。
 スカルのことを考えていたせいか気まずい。

「シズカ…」
「えっ?どうしたの?」

 スカルの様子がいつもと違うことに気づいてシズカは気まずさを忘れそう聞いていた。
 スカルは少しためらいながらもシズカに断りを得ることなく部屋に入っていった。

「えっーー!?」
「シズカ、ごめん…その言いにくいから」

 ふりむいたスカルの瞳をスカルの言ったことを理解した。
 瞳の色が変わり血を欲しているのがわかる。

「ごめん…」

 スカルは申し訳なさそうに目に手をやった。
 目を覆うようにしていた手に、ほんの少し力がこもったようにも見えた。
 ため息をつくスカルは本当に申し訳なさそうだった。
 ヴァンパイアである以上、血を求めることからは逃れられない。
 それがわかっている。
 だから、シズカはスカルが自分を引き寄せて首に顔をうずめても抵抗しなかった。
 牙が刺さっていく感覚が首から体全体に広がっていく。

「スカ…ルっ」

 体から力が抜け自分で立っているのも辛くなった。
 足に力が入らず座り込みそうになるシズカをスカルは抱きとめていた。

「シズカ、お前何を考えていた?」

 口のまわりについた血をぬぐいながらスカルはシズカに赤紫色に輝く瞳を向けきいた。
 シズカの顔に緊張がはしるのをスカルは見逃さなかった。
 

「血をのむと相手の感情がわかる…。
 シズカの気持ち、すごく不安定だ」
「そんなこと…」
「嘘ついてもわかる」

 シズカはスカルから逃げるように顔をそらした。
 なにもかも見透かされてしまいそうで怖かった。

「シズカ。俺はお前を守りたい。
 この命にかえても…」

 シズカは顔をあげるとスカルを扉の所まで押しやった。
 スカルを扉まで押しやると顔を伏せつつ「そういうのいいから…」と言って扉を閉めた。
 スカルは悲しげに目を伏せて冷たい扉に手をあてた。

 ダメだった。どうしても、受けいれられない自分がいる。
 あぁやっていうのはスカルの優しさだ。
 でも、今はそれがすごく苦しい。
 離れていた時間があまりにも長くシズカの決意は固くゆるぎないものだった。
 守られてばかりはイヤだ…もうスカルを傷つけたくない…その思いが今もシズカの心の奥底に根付いていた。

 
 扉に額をあてながらスカルはシズカのことを考えていた。
 シズカの気持ちが不安定だった。
 それは、たぶん自分の言ったことでということはスカルにもわかっていた。
 扉を閉める直前、ほんの少しみえたシズカの顔は自分を責めているようにも、どこか安心しているようにもみえた。
 ただ瞳は潤みシズカの心の中での葛藤が激しいものだと思った。
 なにもできない自分がもどかしかった。
 でも、これはシズカの問題だ。
 シズカが自分自身の中で答えを決めるまで待っていようと思った。
 少し心苦しくはあった。
 しかしシズカのためならと思うと自分の苦しみなどどうでもよかった。
 前髪をかきあげつつ細く息を吐くと自分の部屋に戻った。


 そして、はるもまた悩みを抱えていた。
 なかなか起きようという気になれない。
 天井をあおぎみて2人の幼馴染のことを考える。

 緑木とあったのは3歳の頃だった。
 王の補佐をする一族として緑木も王に会いに来ていた。
 そこで私が紹介され緑木も紹介された。
 年齢が同じということもあり、よく一緒に遊んだ。
 親たちは親睦を深めてほしいという思いだった。
 
 それから1年後、ライが補佐を引き連れ自分の父親に会いに来た。
 その時も緑木と遊んでいた。
 妖精たちと戯れていると1人の男の子が歩いてきた。
 緑木が自分をかばうように前に出たのを覚えている。
 その男の子はそれを見て少し手前で止まった。
 緑木が警戒しながら男の子に尋ねる。

『お前、誰だ?』
『俺…リーク。闇の王につかえる補佐。
 親に挨拶してこいって言われたから』

 その時のリークは、とても冷たい人のように思えた。
 それを裏付けるように、その時のリークは今のように和やかな雰囲気などなかった。
 とても張りつめた緊張感のようなものが周囲にうずまいていた。

 でも、緑木もおびえたりはしなかった。
 同じ役をもつものだと知ると、すぐに警戒を解いて親しげに話し始めた。
 リークは、それに驚いているようだった。
 きっと他の人が緑木をみたら、おいおいと注意するだろうがそこは緑木のいいところでもあった。
 緑木のあたたかさで正義に満ち溢れた心は、どこか冷たいリークを少しずつ変えていった。
 天然さを持つ緑木は空気を優しげなものへと変えた。

 他世界との交流も必要だということで緑木付き添いのもと3人は設けられた場所で遊ぶようになっていた。
 大人は交流とかわからないことを言うけれど3人はそんなものはどうでもよかった。
 ただ幸せな時間であればいいと思っていた。

 ただ遊ぶたびに前にみせた悲しげな表情をリークは時折みせるようになっていた。
 少しでも触れた植物は枯れだし、リークはそのたびに悲しそうな顔をした。
 そして、ふと初めて会ったときの張りつめた雰囲気をかもしだした。
 植物を枯らしてしまわないようにすごく気にかけていた。

 そんな記憶がはるの中で思い出されていた。
 この記憶を呼び戻すきっかけになったのは、たぶんスイルと戦う前悩んでいた時にリークが話しかけてきたときのことだろう。
 リークが歩いた場所は力をおさえているのに枯れ、黒いバラしか触れない姿を見た。
 あの光景が昔の記憶と結びついたのかもしれない。

「リーク…緑木…」

 今、緑木はここにいない。
 でも、リークがいる。
 なのに、心が痛むのはなぜだろう。
 それはたぶん3人で幼馴染という関係だからだろう。
 たった1人かけるだけでも、なぜか幼馴染という言葉が不似合いに感じた。
 ずっと、3人でいた。
 それは、これからもずっと変わってほしくないと思っていた。

 いつか緑木を起こして…そう思って途中でリークの言葉を思い出した。
 人間界に私をとばすときに言われた言葉“俺と緑木が、お前を好きだからだよ”
 その言葉を思い出して、私もだよと言えばよかったと思った。
 2人のことが好きだ。
 恋とかそういう意味ではなくて…。
 だから、緑木が起きて3人がそろったら言おうと、はるは決めた。

 けれど、はるはどこかでこのままの関係ではいられないと感じていた。
 私たちは、もう子どもではないのだ。
 大人になって世界のことを考えるようになって、そして相手への気持ちも変わりだす。
 全てが変わってしまうかもしれない。
 それがとてつもなく怖かった。
 変わらない…そう思おうとしてリークが愛しそうに自分の手にすり寄ったことを思い出した。
 顔の距離がとても近くて…。
 そこまで考えて思い込みだと強くそう思った。
 いくらなんでも、これではまるで…恋をしているかのようだ。
 そんなことがあるわけない。
 変わりたくない。
 そう思って、はるは蒲団に顔をうずめた。
 強く自分の中で何かを否定しながら…。
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