小説内容

□第二話
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 全員が何も言えずにいるとミナミが静かに笑い始めた。

「3人とも、すごく変な顔してるよ」
「だ、だって…まさかミナミが…」

 シズカが信じられないとでも言うようにミナミをマジマジと見つめた。
 自分たちの知っているミナミとは少し雰囲気が違う。
 髪も目も黒だったのに、今は青がかったような色をしている。
 ミナミは困ったように笑う。

「実はヴァンパイアの世界に帰るための術の紙をなくしちゃってさ。
 ここにライたち呼べばいいかなぁって思って」
「手間をかけさせるな」

 ライは苛立ちを隠せずにミナミを睨んだ。
 そんなライを気にすることなくミナミは微笑む。

「早く帰らない?」

 そういいながら、ミナミは起き始めた生徒たちをみていった。
 このままだと見つかってしまうということでライは、イアルにヴァンパイアの世界に戻る道を作るように言った。
 ミナミは、ふとスイルに目をやった。

「…にしても、いつの間にスイルを戻したの?
 なっちたちがヴァンパイアになったのは分かったけど…いつのまにか帰っちゃうしさ」
「お前、そばにいなかっただろ?」

 スカルがミナミに言うとミナミはクラスが違うからと言った。
 

「しかも文化祭だし」
「なんのためにこっちにきてたんだ」

 そんなスカルの言葉を無視してミナミはイアルの作ったヴァンパイアの世界に通じる道にさっさと入っていってしまった。
 女子3人はわけがわからないままライたちのあとについていった。

 人間界から戻ってくると、みんなは1度リビングに集まることになった。
 ライはずっとピリピリしたままでいて、みんなは何も言えず、いつライの感情が爆発するのかと冷や冷やしていた。
 そんなライにおかまいなしにミナミはニコニコと経緯を話す。

「私のヴァンパイアとしての本来の名前をミナミ・ストルームというの。
 私は、3人のことをみているように命令されて人間界にいたんだよ」

 ミナミはナツミたちが人間界に行った時から、ずっとそばで守っていたという。
 ミナミも同い年だが3人を守るために力と知識をたくさん教え込まれたらしい。

「まぁ、その命令をくだしたのは大神様だけど」

 ライの方を一瞥しながらミナミが言った。
 なぜ大神といったところでミナミがライの方を気にしたのかわからず3人は首をかしげた。
 すると、ライから少しずつ闇の力が漏れ始めた。
 そんなライを止めるようにリークが名前を呼ぶ。
 リークに咎められるように名前を呼ばれてライは静かに息を吐くと力をおさえた。
 そして、ミナミのことを3人に教える。

「ミナミは大地の力と海原の力を使える。
 つまり、混血だ」
「私と一緒…」
「そうだ。ミナミの力は強い。
 ただでさえ、2つの力を持っているというのは珍しいというのに…」

 そういいながら、ライはミナミに目をむける。
 大神の存在を知っていながら、なぜ自分たちを呼んだのか…。
 ナツミたちを護衛するように命令をくだしておきながら俺たちにミナミのことを知らせる意味があったのかとさえ思う。

「大、神…」

 その言葉を聞いてからナツミはズキリと頭が痛んでいた。
 記憶が揺さぶられるような感覚が気持ち悪い。
 ナツミが頭を抱えてうめく様子をみてミナミはふぅんと言葉をもらす。

「ナツミ!?」

 スイルがナツミの様子に気が付いて肩を抱いた。
 はるたちも心配そうにナツミをみつめる…。

(頭が…いたい…)

 ナツミの頭の中で砂嵐のような音が鳴りやむことなくしていた。
 そして、昔の記憶が入り乱れている。
 母が血まみれで倒れた…私の記憶を消して。
 そして、私の前に来た人がいる。
 顔がよく見えない…だれかが何かを言ってくる。
 とぎれとぎれに言葉が聞こえてくる。

『…お前を…に…とばす…。
 …俺の………子…』

 もっと、よく思い出そうとして目をつむった。
 すると声がした…昔の記憶を取り戻していた時と同じ声。
 思い出すのは、まだ早い…と。
 もう少し待つように…そう言われて頭の痛みと共にとぎれとぎれの声は消えていった。

「…声」
「声?」

 ナツミの言葉にライが眉を寄せながら訝しそうに見る。

「してなかった?」

 みんなを見回すがみんなは一様に首を横に振る。
 みんなには聞こえていないようだった。
 でも、1人だけ私をみている人がいた。

「ミ…ナミ…?」
「その声の言うこと、ちゃんときいたほうがいいかもよ」
「そうなのかな…」

 不安げにいうナツミにミナミはうなずいてみせた。
 でも、大神という言葉が気になった。
 大神とはなんなのだろう…。

「大神って?」

 ナツミがきくと、はるも気になっていたようで何回も首を縦に振る。

「それ私も気になってたの!」

 2人がそういうとリークはライの方に向いて、どうするのかと目で訴えた。
 ライが好きにしろというとリークは、大神を知らないナツミたちに説明を始めた。
 シズカは、どうでも良さそうだったが聞くだけ聞くらしい。
 

「この世界は知ってのとおり5つに分かれてる。
 でも、あまり知られてないけどもう1つあるんだ。
 そこは俺たちが行くような世界ではないし5つの世界と離れているところにあるから、共有する世界という考えからは外されているんだ。
 それが神と大神の住む“神天世界”」

 リークが言うには、神が3人かいて神の上に君臨するのが大神らしい。
 神天世界には簡単に行くことはできないらしい。
 だからヴァンパイアたちは、だんだん神天世界のことを忘れていったようだ。
 それに神がいる世界ということで神聖なる場所を汚してはならないという考えが広まった。

「神天世界には大神につかえる神が3人いるらしいけど…力は相当強いみたいだ」
「まぁ、僕はナツミを守るためなら神にだってたてつくけどね」

 スイルはリークの言葉を聞いてからサラッととんでもないことを言った。
 ミナミ以外の女子は顔を真っ青にしたが他の男たちも、当たり前とでもいうような顔をしていた。
 ミナミがクスクス笑ってスイルに目をやる。

「でもさ、スイル。なっちの方がスイルより強いから、スイルは足手まといだと思うよ」

 みんなから血の気が引いた。
 そんなこと言ったらスイルは絶対に怒る。
 そして、案の定スイルの目つきは半端なく鋭くなり白銀の粒子がスイルの周囲に浮かんだ。
 ナツミが慌ててスイルに落ち着くように言うとスイルは言われた通り力を消した。

「チッ…お前の首、いつかへしおってやるから覚悟しといて」
「スイルが私の首をへしおる前に私がスイルの首をおるかもね」
「君、どこまでも癇に障るやつだね…」

 スイルとミナミが険悪ムードになる中スカルとリークは困ったというように小さく息をついた。
 はるとシズカが慌てて2人の間に入る。
 部屋で暴れられては困る。

「ミナミさん、落ち着いて!!」
「というか、スイルも挑発にのるなよ!」

 シズカとはるが2人をけん制する中ナツミはスイルの後ろに近づいた。

「スイル…」
「んっ?なに?」

 スイルの不機嫌そうな顔が一瞬で優しげな微笑みに変わる。
 それを見た瞬間、シズカとはるはゲッソリしてしまった。
 そして、シズカが「まったく、なんなんだ…」と1人つぶやいていた。
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