小説内容

□第一話
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 はるは高校に向かっていることに疑問を感じリークに目をむけた。

「ねぇ、リーク。その人高校生なの?」
「さぁ〜、どうなんだろうな」

 リークは、うーんと唸りながら右に左に首をひねる。
 どうやら、リークもそのヴァンパイアのことをよくはしらないらしい。

 高校に近づくと校門から生徒が多く出てきている。
 シズカがめんどくさそうに頭をかく。

「もう夕方だよ…生徒が帰り始めてる。
 この人数から探すのー?」

 シズカはダルそうに下校する高校生を見ながら言う。
 400人近くいる高校から、どうやってたった1人を探し出すのだろうか…。

 すると、イアルがおもむろに地面に手をあてて目を閉じた。
 はるが気分でも悪いのかと心配し声をかけようとしたところでリークにとめられた。
 

「静かに…。今、イアルの特殊能力でヴァンパイアがどこにいるか調べているから」
「特殊能力…イアルさんのって?」

 はるがイアルの特殊能力がどんなものか聞くとキリクがそばに寄ってきて教えてくれた。

「イアルの特殊能力は相手の場所を探る能力です。
 今回は相手のことを知らないので、僕たち以外のヴァンパイアの気配で探していると思います。
 イアルの能力はどこの世界にいても、いろんな世界を調べられるんです。
 便利ですよ」

 にこやかに言うキリクに、はるは話しやすい人だと思いながらイアルの特殊能力のことを知った。
 キリクの説明が終わるごろにイアルは目を開け、立ち上がるとライに報告を始めた。

「ライ様、見つけました。
 ヴァンパイアは、あの中にいます」

 イアルはそういって高校を指さす。
 ナツミたち3人は息をのんだ。
 高校にもう1人のヴァンパイアがいる。
 居ても立っても居られず、かけだそうとした3人をスカルとスイルがとめる。

「まて…」
「あのさ、まだ準備ができてないのに突っ走られても困るんだ。
 これだから、連れてきたくなかったんだ」

 スイルが苦言をもらすとシズカがスイルに牙をむいた。

「ふざけんなよ!!うちがそいつをひっぱりだす!
 ここにいる人間には関係ないんだ!!
 迷惑をかけたくない」

 シズカがスイルに言うがスイルは、ただ冷たい瞳を向けるだけで動かない。
 シズカが怒りをあらわにして特殊能力の風を自分の周りに出現させる。

「君は救いようのないバカだよね…。
 この俺に勝てると思ってるわけ?」

 スイルの瞳が白銀に輝いたところで、スカルがシズカの肩に手を置いて特殊能力を消すように言った。
 シズカは舌打ちをしたもののスカルの手を自分からどかしながら、しぶしぶ消した。
 スカルはシズカに言い聞かせるように言う。

「俺たちは部外者だ。
 いきなり入っていったら、それこそ混乱のもとだ」

 スカルの言葉にシズカは、ではどうするのかと落ち着かない様子で口早に言うと、スカルはキリクを見て頼むとだけ言った。
 スカルの言葉にキリクは頭を下げると瞳を赤紫色に輝かせた。
 すると、キリクの周りから紫色のガスが出てきた。

「な、なにこれ…」

 はるが不気味がりながら口に手を当てた。
 そんなはるにキリクは、しっかりと説明してくれる。

「これは毒ガスです。僕の特殊能力は毒ですから」
「毒って…」

 はるから血の気が引いた。
 毒なんて言うものを人間に吸わせてしまえば殺してしまうかもしれない。
 そんなはるの顔をみて、キリクは変わらぬ口調で続ける。

「僕はいろんな毒も自由自在なんです。
 人を眠らせるもの、体の神経をマヒさせるもの、そして殺すもの…。
 今回は人を殺すためではなく眠らせるものですから大丈夫ですよ」

 その言葉にホッとしていると生徒たちが眠り始めた。
 ライたちは、それを確認すると高校内へと入っていく。
 昇降口に来るとライは指示を出した。

「2組ずつに分かれろ!
 俺は1人で大丈夫だ。
 イアル、キリク、お前らは2人で行動しろ。
 たぶん、イアルの能力は使えない」
「おおせのままに」

 ライは指示をしおえると1人で走っていった。
 イアルとキリクもライの行く方向とは逆に走っていく。
 そして、ナツミはスイルと、シズカはスカルと、はるはリークと探し始めた。
 
 
 イアルは走りながら1度感じた気配を追っていたが顔をしかめてキリクにつげる。

「目標が動いている…。
 しかも、多数に増えて…これでは、俺の能力も役にたたない」
「そいつ、なにかの力を使って偽の情報をイアルにやってるんだ」

 イアルは腹立たしげに舌打ちをすると急いで走り出した。
 キリクもそれに続くように加速した。


「それにしても…」

 はるは、周囲を気にしながら口を開いた。
 そして疑問に感じていたことを口にする。

「キリクさんの能力って私たちには無害だけど…」
「それは、人間にしかきかないようにしているからだよ。
 さっきもキリク言ってたろ?
 自由自在って」
「言ってたけど…まさか、毒がきく人ときかない人を分けられるなんて…」

 はるとリークは教室の中をみていないことを確認した。
 すると、教室の中に1枚の葉が落ちていることにはるが気が付いて駆け寄った。

「はる?」
 

 リークがはるのそばに駆け寄ると、はるの驚いた声がした。
 自分に驚いたのかと思い謝ろうとして、はるの手が斬れていることに気づいた。

「どうした!?」
「この葉っぱに触って切れたの…」

 よくみると、その葉は側面が刃のようになっていた。
 リークは、相手のヴァンパイアの仕業だと思いながら、そのヴァンパイアが大地の世界のものだと思った。
 リークはそれをはるには言わず、はるの手をとった。

「リーク?」
「少し我慢して」

 そういうと、はるの手から流れた血を舐めた。
 昔もはるがけがをすると、リークがこうやって舐めとってくれた。
 血を舐め終えるとリークは、はるを立ち上がらせた。

「たぶん、この葉でイアルの能力を分散させてるな…。
 少し力を感じるし。
 だから、2人1組にして探させたのか」
「ライさん、すごい」

 はるがそういうとリークはボソリと「ライはライでいろいろなことを抱えている」といった。
 はるが「えっ?」と声をあげるとなんでもないと言い探すのを再開した。

 走っているスカルを追うようにしてシズカは走っていた。
 スカルは何も言わない…。
 すごく警戒心を働かせている。

「シズカ」
「えっ?!」

 いきなり声をかけられて驚いた。
 今まで無言だったから話さないのかと思っていた。
 そして、そのままスカルはシズカを驚かすようなことを言う。

「なにがあっても守る。
 お前は俺の命にかえても…」
「はぁっ!?なにいってんの…」

 そんなことをしてもらわなくてもいいとシズカは言って歩き出すとスカルに引き寄せられたと思ったら壁におしつけられていた。

「本気だ」

 スカルは、ただその一言を強く言った。
 感情的になっているからだろう…スカルの目は赤紫色に輝いている。
 その瞳に吸い込まれてしまいそうで、シズカは目をそらした。
 

「俺には、シズカだけが…」

 その続きを言わせないためにシズカは声をあげた。
 今、その続きの言葉をきいたらやらなければならないヴァンパイア探しができなくなる。
 きまずくなりたくなかったし何より自分がどうしたらいいのかわからない。

「な、なぁ!!スカルって、大人っぽいよな…。
 それに、なんかドキドキするし…。
 アハハ…」

 話しを途中でとめられ不快そうな顔をするスカルだったがシズカの話しに合わせてくれた。

「大人っぽいのは生きている時間が違うからだ。
 俺は207歳だからな」

 生きている時間が違う…その言葉は離れていた分の時間を思い出させられて苦しくなった。

「それと…たぶん…」

 スカルが急に頬を赤く染めて目線をそらした。
 そんなスカルを見ていたら胸の苦しみは消え頬がスカルにつられて熱くなるのを感じた。

「俺たち闇は…なんというか、相手を魅了させるフェロモンみたいなものがでてて…。
 だから、たぶん…それでドキドキするんだ。
 ごめん…」

 スカルは、真剣に言ってきた。
 それは元からの性質だから悪くないのに謝ってきた。
 スカルの憂い顔をみていると変にドキドキして苦しくなる。
 ついに我慢の限界になったシズカはスカルから逃げるようにして走り出した。

「シズカ!?」
「は、早く探そう!!」

 心臓が変にドキドキ言うのはスカルの容姿の性質でスカルのことを気にしているからではない…とシズカは自分に言い聞かせながら走った。


 そのころ、ナツミは自分の教室に来ていた。
 そこにはもう自分の使っていた机も椅子もない。
 どこか寂しさを覚えていると後ろからスイルが抱きしめてきた。
 驚いて声をあげてしまった。

「ナツミ、辛いって顔してる…僕には、わかる。
 ずっと、苦しい思いをしてきたからかもね」

 ギュッとスイルの腕の力が強くなる。
 ナツミはスイルの腕から逃れて少し歩いた。

「スイル、私は大丈夫だよ。
 それに…」
「なぁに?」
「ここではいいことばかりではなかったから」

 ナツミが振り返って悲しげに笑う。
 こんな時でさえ、僕の前で強がって笑う…泣きたいなら泣けばいいのに…。

「しずとはるにいっぱい迷惑をかけちゃったの…。
 子どもみたいに、いっぱい泣いちゃって2人を困らせたこともあって」

 バカだよねとナツミは笑った。
 抱きしめていないとどこかへ消えてしまいそうでスイルはナツミのもとに行って、もう1度抱きしめた。
 気づけば自分の口から、大丈夫だから…と言葉が出ていた。
 ナツミも少し驚いているけれどかまわない。

「周りは敵だらけじゃない。
 必ず味方がいるから…不安なら言えばいい。
 だから、お願いだからそんなに辛そうな顔しないで…」
 

 ナツミがスイルの腕の中で小さくうなずく。
 今度はスイルの腕から逃げることなく、そのままでいた。

「大丈夫…ナツミには俺と同じような思いはさせない」
 

 スイルは強い意志を目に宿していた。
 絶対にそんなことはさせない…スイルの強い思いは心の中で定まっていった。

「さぁ、ナツミ探そうか」
「うん、ごめんね。行こうか!!」

 自分の教室だった部屋に背を向けて走り出す。
 少しの心の痛みを感じつつ今するべきことをしようと心に決めて…。


 1人で行動していたライは、ある教室で1人の生徒と対峙していた。

「お前か」

 ライは闇の力を球にして自分の周りに浮遊させた。
 その生徒はライの方に向くと口元に笑みを浮かべて、水の球をライにとばしてきた。
 水の球はライに当たりはじけた。

「っ…これは、海水。
 お前、海原の世界の者か…」

 ライは1度そういったがその生徒を見て軽く鼻で笑った。
 生徒の目は、青紫色に光輝いている。
 周りには、水の球と葉が浮いている。

「混血か。しかも、海原と大地の…」

 生徒は攻撃を休むことなく繰り出してくる。
 多くの葉がとんでくる…それは、さきほどはるが見つけた葉と同じだった。
 葉がライの頬や手足に切り傷をつくっていく。

「いい気にるなよ!!」

 ライの目が金色に輝くと教室中に亀裂が走り椅子が浮かび上がると生徒に向かって勢いよく迫った。

「俺はオールマイティなんでな…。
 闇の力と特殊能力、それにプラスして他のものも使えるんだよ」

 ライと生徒が攻防を繰り返していると、みんなが集まってきた。
 イアルとキリクが素早く間に入り生徒の首元に剣を突きつけた。
 

 遅れてナツミとシズカとはるが入ってきた。
 そして、入ってくるなり3人が生徒を見て驚いて声をあげる。

「み、ミナミ!?」
「なんでミナミがいんだよ?!」
「まさかミナミさん、ヴァンパイアだったの!?」

 その生徒…ミナミは3人が人だったころの友だちだった。
 ミナミは3人をみると、久しぶりと言って微笑んだ。
 ライ以外の人が言葉を失っている中、ライだけはため息をついて、やはりなとつぶやいていた。
 シズカがイアルとキリクに剣をおさめるように言った。
 2人は、しぶしぶ剣を鞘におさめる。

 
「ありがと、シズカ」

 ミナミはニッコリと微笑んでいた。
 
 人間界から感じたヴァンパイアの気配は3人の友人であるミナミのものだった。
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