小説内容

□第一話
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 誰かが何かを言ってる。
 この声は前にもきいたことがある。
 凛とした男の人の声…。
 知らないのに、どこか落ち着く。
 でも、その人が存在するとわかっているのに目にうつすことができない。
 もどかしくて私は手をのばした…。

 ナツミは、手をのばしたところで目を覚ました。
 のばしている手を降ろして、ゆめ…とつぶやいて息を吐き出した。
 最近同じようなゆめを見ることが多くなった。
 誰かは分からない…でも、確かにその人は私に何かを言おうとしている。

「いったい、なんなんだろ…?」

 そういいながら悩んで唸っていると扉をノックする音が聞こえた。
 返事をするのが面倒でナツミは蒲団を顔までかぶった。
 しかし、だれかは扉をあけて入ってくる。
 いつもキリクが起こしにくるから、そうかと思い顔を出すとそこにはライがいた。

 ライは、ナツミと目が合うとナツミの頬に手を添えて微笑みかけた。

「おはよう、ナツミ」

 その美麗な微笑みは、とても845歳には見えない。
 ヴァンパイアって、すごいなぁと感心しているとライがふと顔を近づけた。

「えっ!?」
「あぁ、驚かせたなら悪い。
 娘の顔をよく見たくなった…」

 ライは、そういって笑う。
 父親に顔を近づけられたりとか人間は普通に嫌がるけれど、ヴァンパイアは家族を大切にする気持ちが強い方なので嫌悪感を抱くとかはない。
 それに、ヴァンパイアの世界は血筋のよい純血種を残すために家族婚は普通にあり得る。
 人間だったら、考えたくもないかもしれないがヴァンパイアは人とは違う存在…。
 私もここに戻ってきて初めて知ったから、とても驚いたことを覚えている。

「私、お母様に似てる?」
「さぁ…どうかな」

 ライはクスクスと笑った。
 ライの顔を見ていたら、ふとゆめの中の声について思い出し顔をふせた。
 それに気づいたライが不思議に思いベッドに腰を下ろした。

「どうした?」
「お父様…私…」

 何度も見るゆめのことを話すべきか悩んでいるとライが続きを促してきた。
 

「最近同じゆめをみるの。男の人の声がする。
 私は手をのばして、その人に触ろうとするんだけれど…触れない。
 その人がいるってわかるのに」

 ライは考えて何にか思い当たることがあったようで眉をひそめた。
 ナツミが不安そうな顔をするとライの顔はやわらいだ。

「ナツミは光と闇の2つの力がそなわってる。
 今のナツミは光が表にでている。
 おそらく、その声の主は裏の闇のナツミ」
「もう1人の私?」
「そんな感じだと思う」

 そう聞いて安心するナツミをライは顔には出さないものの複雑な思いで見ていた。
 闇の力を持っているのは分かる。
 しかし力と共にもう1人のナツミが存在しえるということは、それだけ闇の力も強いということだ。
 力が個体化し、もう1人のヴァンパイアとして存在する。
 闇として育てなかった俺とカエデはナツミに闇の心を持っていてほしくなかった。
 俺のようにはなって欲しくない…その思いでいた。
 もし、闇のナツミが殺すことになんのためらいもなくしたら光のナツミは苦しむだろう。
 闇の自分がしたこととはいえ結局、同一人物で同じ体を共有する存在なのだから。

「ナツミ」
「なぁに?」
 

 笑顔で俺をみるナツミを悲しませたくない。
 そう思うとナツミを抱きしめていた。
 いきなりのことにナツミは驚いているがかまわない。
 

「お前を守るから…ずっと笑っていられるように」
 

 ライは、そう強く言いながら心に決めた。
 たとえ自分が死ぬことになったとしても愛する娘が生きていればそれでいい。
 
 ふと、ナツミの首筋に目をやった。
 血をのんでいなかったせいか血に飢えていたようだ。
 ライの息があがったことにナツミは気が付きライの顔をみた。
 ライの瞳が金色に輝いていて血に飢えているのだとわかる。

「お父様、前に血をのんだのはいつ…」

 瞳の輝きが尋常ではないと思いきくと、ライは口元に笑みを浮かべた。

「いつだったかな…」
「お父様、血はのまないと!」

 そういうとライの瞳がナツミをとらえた。
 寝ているナツミの横に手をついて上にくるとライが苦しそうに言う。

「なら…お前が血をくれるのか?」

 ライの瞳が揺らぐ。
 怖がらせるとわかっていた。
 でも、我慢できそうにない。
 いくらそんなに血をのまなくても生きていけるといったって、のまなくていいというわけではない。

「お父様が辛いなら…どうぞ」

 少し顔をこわばらせながら言うナツミにライは苦笑してバカだと言うとナツミの首筋を舐めてから牙をうめた。
 血が体からでていくのを感じる。
 口の隙間から漏れた血がシーツを赤く染める。

 その時、バタバタとせわしない足音が聞こえたと思うと思いきり扉があき、はるが息をきらせて入ってきた。
 

「ライさん!なつみん…って…えっ」

 はるが呆気にとられているとライが瞳を輝かせたまま、はるに目をやった。
 はるは蛇に睨まれた蛙のようにかたまってしまった。
 ライは、仕方ないというように血をのむのをやめた。

「ありがとな、ナツミ」
「シーツどうしたらいい?」

 ナツミは起き上がり立ち上がるとシーツに目をやった。
 血でしみてしまったシーツを見ていると素早く城のメイドがきてシーツだけをとっていった。

「は、はやわざ…」
「俺が床とかタイルにヒビをいれてもすぐに直してくれるんだ」
「だから、次に行ったときには直ってるんだね」

 ナツミは感心しながらうなずく。
 城のメイドも執事もよく働いてくれる。
 そう思っているとライがはるの前に行くと手をパンとうちあわせた。
 はるがハッとしてライを見る。

「お前、なにやってるんだ」
「あ…びっくりしちゃって」
「そうか…で、どうしたんだ?」
「あっーーー!!そうでした!!
 じ、実は…スカルさんが人間界からヴァンパイアの気配を感じたって…」

 その言葉にナツミはライの方に驚いて目をやった。
 ライも難しそうに考え込んでいる。
 前回、人間界に行ったときはそんな気配など感じなかった。
 なのに今更感じるというのはおかしいと思った。

「はる、それは本当か?」
「はい!スカルさんが急に驚いたように声をあげたんです。
 そうしたら、リークもマズイって言って。
 それでライさんを急いで呼んでくるようにって」

 ライは、はるの言葉にうなずくと先に行くと言って、その場から消えてしまった。
 残されたはるはナツミに向き直った。

「なつみん?」

 ぼんやりとするナツミにはるが声をかけると、ごめんといって謝った。
 頭をおさえるナツミに、はるは調子が悪いのかと聞いたがナツミは少し辛そうにしながら微笑み首を横に振った。

 声が聞こえていた…前よりもハッキリと。
 でも、はるを心配させるわけにもいかず私はすぐに着替えはると共にみんなのもとへ急いだ。
 
 部屋に行くとライたちは人間界への道の前にいた。

「ナツミ、はる!遅い!!」

 シズカはそういいながらナツミとはるのそばに来た。
 ナツミとはるはシズカに謝りつつライたちの方に向いた。
 ライがそれに気づいた。

「俺たちだけで行こうかと考えている」

 シズカがムッとしてなぜかと聞くとスイルがシズカを一瞥してからナツミに目をむけて優しげな口調で言った。

「ナツミたちは、もとは人間界にいたから辛いと思って…。
 僕たちは大切な人が悲しむのを見たくない」

 ナツミはドキリと心臓がはねるのを感じた。
 頬がだんだんと熱くなっていく。

 スイルは真剣だった。
 スイルだけではない、その場にいるリークやスカル、ライも真剣なまなざしでシズカたちを見ていた。

「はる、しず…」

 ナツミが2人の名前を言うとシズカはやれやれとでも言うように肩をすくめ、はるはもちろんと言ってうなずいてみせる。
 ナツミはスイルたちに言い切る。

「もう大丈夫。私たちは過去を思い出したから平気。
 自分がヴァンパイアだってことも」
「うち、そんな弱くないしな」

 シズカはニヤッと口元に不敵な笑みを浮かべる。
 はるもシズカに続くように口を開く。

「確かに辛いかもしれないけれど逃げてばかりもいられない。
 ヴァンパイアが人間界に行っているなら、迷惑をかけるわけにもいかない」

 しっかりとした口調と意思をもち、はるは強く言った。
 ライたちは驚いていたが3人の顔を見てから意を決したように3人を引き連れ人間界へ繋がる道に足を踏み入れた。

 少しの間、真っ暗な道を歩いた。
 ただ光る1つの扉に向かって足を進め、その扉をあけると強い光がみんなを覆った。
 まぶしくて目を閉じた。
 ライが目を開けていいと言うので目を開けると、そこには懐かしい高校があった。
 高校を見た途端、胸がしめつけられるような痛みがはしる。
 いろんなことがあった…この人間界で。
 でも、この人間界であったことは決して嫌なことばかりではなかった。
 たくさんのものを得て大切なことも教わった。
 だから、マイナスばかりではない。
 …だからこそ…苦しい。

 3人は、それぞれの思いを胸にライたちについていった。
 
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