小説内容
□第五話
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体が鉛のように重い。
目をあければ、いつか失ってしまった温もりが心に広がっていた。
「温かい…」
スイルから一筋の涙がこぼれていた。
もう2度と感じることはないと思っていたのに…今、間違いなく感じている。
失ってしまったと思っていた心が温かく切なげに心をしめつける。
嬉しさからなのかはわからない。
でも確かに幸せを感じていた。
ノックをする音が聞こえ返事をするとリークとスカルが入ってきた。
「おっ、起きたんだな。傷をみるから少し起きあがれるか?」
「起きれるよ…。治癒力も戻ったし、傷はもう大丈夫だとは思う」
「了解」
リークは、そういってからスイルに上の服を脱ぐように言う。
スイルは服を脱ぎ、きちんとたたんで横に置いた。
「どうぞ」
スイルが準備ができたというがリークはジッとスイルの体をみたまま動かない。
スカルもスイルも口を出さなかったのだが、あまりにも長いためスイルが眉をピクピクとさせながらイラッとしたように言う。
「ねぇ、兄さん…こいつなに?」
「リーク」
「いや、それは分かってるって…兄さん馬鹿になっちゃったの?
僕は、こいつが変態で男好きなんじゃないかって思ってるんだけど…僕、そういう趣味ない」
真面目に答えた兄に呆然としつつスイルは引き気味の顔でリークに目をやる。
スカルはリークといる時間が長いせいで、きっと感覚がずれているのだとかわいそうに思っていた。
そんなスイルにリークはボカッと一発殴った。
「俺が男好きなわけあるか!!」
「いったいな!!僕は病人なんだ!
っていうか、人の体ジロジロ見といて変態以外のなんだっていうんだ!!」
そんな言い合う2人をみながら、スカルはコホンと小さく咳払いをして困っていた。
少しそっとしておこうと、スカルはとばっちりを受けないように離れてみていた。
しかし、ついにスイルとリークの堪忍袋の緒が切れた。
「君にはおしおきが必要だね…リーク」
「あぁ?やる気か…病人のスイルさんよぉ」
「僕はバリバリ動けるよ…君の体、粒子の雪だるまにしてあげる」
「なら、俺はお前を包帯ぐるぐる巻きの包帯男にしてやる!」
2人からゴゴゴ…という音が聞こえてきそうなほどに燃えているとスカルがため息をわざとらしくついた。
リークとスイルがハッとしてスカルの方を見るとスカルの冷たく鋭い瞳が2人を見ていた。
「早く診察しろ、してもらえ」
2人は、はい…と小さく言うと診察を始めた。
「結局なんでみてたんだ?」
スカルがリークの隣に来て言うとリークは聴診器を耳から外してスカルとスイルを見比べてから言った。
「やっぱり…。スカルと比べてスイルは細すぎる。
しかも、スカルとスイルは白いし」
「ヴァンパイアなんだから少しは白いよ。
リークだって白いほうでしょ」
スイルは、そうやっていうがスカルは心配そうに弟を見た。
確かにスイルは細い…簡単に折れてしまいそうだ。
「健康面には気を付けろよ。まぁ医者の俺もいるけどな」
リークは、ニッと笑うとバンバンとスイルの背を叩いた。
スイルが迷惑そうにリークをみながらスカルに目をやる。
少し戸惑いながら兄と接していた。
どんな風に話したらいいのか悩んだりもしていた。
「傷は完治だな。たぶん、まだ少しダルイだろうからゆっくりしていろよ?
だいぶ、傷を治すまでにかかったからな」
リークがそういってスイルを寝かせ蒲団をかける。
今まで人に気遣われたことなんて、ほんの少ししかない。
だから、なんとも思えない気持ちが心を満たしていた。
今、ありふれた幸せがここにあった。
「どうした、スイル?」
「なんでもないよ」
スイルが、なぜか嬉しそうに微笑んだ。
そんなスイルを見ながら表情には出さなかったがスカルは嬉しく思っていた。
リークが思い出したようにスイルに目をやった。
「スイル、お前が闇だったら憎しみの心をもって、それをバネにして力をあげればよかったけど今は白銀が主だからいらないと思うんだ」
リークの言葉にスイルは真剣にうなずく。
今、兄とのわだかまりがなくなったとはいえ白銀の力を消せるわけではない。
それに、今白銀の王は自分だ。
だから、たとえ消せても消すわけにはいかなかった。
そうなると今のこの憎しみは邪魔でしかなかった。
だいぶ薄らいだとはいえ、やはりすぐに消えるものではない。
このせいで兄とも少し接っしにくいと言ったらウソではない。
だから、消せるのならこの憎しみを消してしまいたい。
この幸せのために、また新たな一歩を踏み出したい…そう思っていた。
「ナツミが、その憎しみを浄化したいと言っていた」
スカルがそういうとスイルはナツミという言葉に反応した。
リークが光の力かぁ…と声を漏らす。
スカルはスイルに明日行うと言うとリークと共に部屋を出ていこうとした。
スイルは出ていきそうになる兄に声をかける。
「どうした?」
「終わってから…父様と母様の墓参りに行きたい。
いいかな…?」
スイルがそういったことにも驚きながらもスカルは喜んでうなずいた。
憎んでいた父と母の墓参りをしたいと言い出してくれたことが嬉しかった。
それから、スカルは部屋から出ていった。
スカルがでていくのを見届けると小さく息をついて目を閉じた。
そのころ、ナツミは庭に出て術の準備をしていた。
イアルとキリクが教えてくれていたため使ったことのない陣でも書くことができた。
シズカとはるが外に出てきて陣をみると感嘆の声をあげた。
「でっけぇ…」
「なつみん、明日がんばってね」
「うん、がんばるよ。スイルのために」
するとシズカがニヤニヤしだした。
「な、なによ。しず…」
「スイルのためねぇ」
そういうつもりではなかったから、そういわれて恥ずかしくなってきた。
逃げるシズカを追いかけるナツミをみながら、はるはイアルとキリクの存在に気が付いていた。
ふと、イアルとキリクから警戒心が漏れていることに気づいた。
「イアルさん、キリクさん?」
「大地の姫君、どうされました?」
イアルがそういいながらナツミからはるに視線をうつす。
はるは2人に警戒しつつ近づいた。
そして、どうしてそんなに警戒しているのかを聞いた。
そんなはるの問いにイアルとキリクは一瞬眉間にしわをよせたが、すぐに平常心に戻りいつもの表情に戻る。
「我々にとって、ナツミ様は次の主になられるお方…失うわけにはいかないのです」
キリクの思いが強く伝わってくるようだった。
キリクはイアルと違ってナツミと幼馴染という関係でもある。
はるにとって、リークと緑木が大切な幼馴染であるのと同じように…。
はるは、ニッコリといきなり微笑むとキリクの手をとった。
「ですよね!!」
「はい?」
「やっぱり、幼馴染は大切ですよね〜。
うんうん、私その気持ち分かります!!」
はるがいきなり言い出したことにキリクは、はぁ…と力なくうなずくしかない。
イアルもはるの勢いに押されて、何も言えないでいる。
「安心してください!!私もシズカさんもなつみんのサポートしっかりしますから!!
あっ、ちゃんと守りもしますから安心してくださいね〜」
そういうと、ナツミとシズカのもとに走っていった。
イアルとキリクは呆然とはるを見送った。
「困ったね、イアル」
「あぁ…俺たちは、シズカ様にもはる様にも警戒しているというのにな」
イアルはそういいながら息を吐き出す。
キリクは困ったように笑いながら頭に手をやった。
「まぁ…ナツミを守ってくれるなら僕は手を出さないよ」
キリクは、そういって身を翻し戻っていく。
そんなキリクをみながらイアルはキリクに続くように部屋に戻っていった。
もうすぐ、太陽が昇る。
はるは、少し陽の光を浴びてから寝ると言って外に残った。
ナツミとシズカは眠気がさしてきて部屋に戻った。
ナツミは自分の部屋に戻ると明日の予習をしてから寝ることにした。
「自分の手首に牙を埋めて…血を陣に流す。
そして術をとなえて…」
そう1人でつぶやいていると頭に鋭い痛みがはしって、その場に座り込んだ。
遠くで誰かの声が響いている。
『さっさと……せ』
それは男の人の声だった。
なにかを言っているようだったが、よく聞き取れない。
その声はそのうち聞こえなくなり頭の痛みも引いていった。
不思議に思いつつ明日のために、もう1度勉強を始めた。
ナツミが勉強しているとき、はるは陽の光をあびていた。
久々の太陽の光は気持ちがいい。
周りに妖精たちが集まってくる。
キラキラと植物たちや妖精が輝いて、はるの目にはとてもきれいな光景が広がっていた。
そんな中はるは空気をいっぱい吸うようにして大きくのびをした。
そんな様子を眩しそうに自室の窓からリークは見ていた。
はるは、光をあびてキラキラと輝いている。
美しいその光景を見ながらリークは、はるには太陽が似合うと思っていた。