小説内容

□第四話
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 ナツミは礼を言うと、その穴の中に入り走っていった。
 2人がやれやれと微笑みあうと真上から血が降ってきた。
 真上を見るとスカルが徐々に元の姿に戻りながら落ちてきていた。
 シズカがスカルを呼ぶとスカルは目を開け、なんとか着地をし、その場に倒れこんだ。

 
「スカル!」
「シズカ…無事か…?」

 血まみれの手でシズカの頬に手をのばした。
 シズカは唇をかみしめた。
 スカルはこんな時でさえ…自分が血だらけになって苦しい時でさえ、うちの心配をする。

「今、うちなんてどっちでもいいんだよ!
 うちなんかより自分の心配をしろよ!」

 スカルはキョトンとした顔をしてから穏やかな笑みを浮かべる。
 そして、シズカが恥ずかしくなるようなことを普通に口にする。

「俺はシズカのいない世界で生きる気はない。
 シズカがいるから、俺はここにいる。
 存在していられる場所があるから…」

 スカルの言葉に何も言えずにいるとリークが走り寄ってきて、傷の手当てを始めた。

 
「かなりやられたみたいだな…傷が深い」
「スイルの奴、本気だから…」
「静かにしてろよ、スカル。俺の力を流し込んで傷の修復の手伝いしてんだから」

 
 リークはスカルに注意をしてスカルの傷に目をやる。
 リークの力を流しているというのに、なかなか傷がふさがらない。
 リークから冷や汗が流れ落ちる。

「くそ…」
「リーク、スカルは大丈夫だよな!?」

 シズカがリークの様子をみて不安がる。
 リークが何も言わないで集中しているとシズカが取り乱し始めた。

「いやだ…いやだ!!
 もうあんな思いしたくないから、うちは…うちは!!スカルから離れてたのに…」
「シズカ落ち着いて静かにしてろ!」

 リークにそう怒られてシズカは我に返った。
 体がふるえる。

「シズカ…」

 スカルがシズカに目だけを向ける。
 大丈夫だと何度もスカルがシズカに言う。
 シズカはスカルのそばに行くとすわりこんだ。
 リークがそんなシズカに言う。

「絶対に大丈夫だ。こんなんで死んだりしない」
「リーク、私も手伝うよ」

 はるは、そういってリークの手伝いを始めた。
 リークに言われたように治療をほどこしていく。
 

 そのころ、ナツミはスイルのもとにたどり着いていた。
 やはり彼は悲しげにそこに立っていた。

「ナツミ、よくこれたね…」
「スイル…やめよ」

 ナツミの言葉にスイルの眼光が鋭くなった。
 そして、憎しみのこもった声で無理だと告げた。

「同じ苦しみを与えるまで俺はやめない」
「そんな体じゃ無理だよ」
「俺の体なんてどうでもいい」

 ナツミはその言葉に涙を流した。
 もう少し自分を大切にしてほしかった。
 憎しみなんて捨ててほしいとさえ思ってしまった。
 それは、スイルにとって難しいことであろうことは知っている…でも、いつまでもとらわれたままでいてほしくない。

「スイル、もうスイルだって分かっているんでしょ?
 こんなことしても無意味だって…。
 憎しみを持っていても辛いだけだって」
「憎しみは辛い…でも、それを与えた奴らに復讐をしてなにがいけないの?
 ずっと俺に憎しみを晴らすことなく背負っていろというの?」

 ナツミは残酷だね…とスイルはつぶやいた。
 悲しげな瞳でスイルが私をみてくる。
 今、スイルから感じるのは深い深い悲しみだった。

「そうじゃない。スイルは気づけないの!?
 あなたを守るためにお父様もお母様もいろんな手をつくしてくれた。
 あなたと離れたくて離れたわけでは…」

 ナツミの言葉を遮るようにしてスイルは口を開いた。
 “家族と離れるくらいなら…俺を殺してほしかった…”と。
 スイルの声は儚く消えてしまった。

「1人で生きるほど…辛いものはない。
 たとえ力がなくても僕には大切なものがあった。
 だから、存在していることができた…それを全て奪うというなら僕には死というものしかない。
 僕を殺してくれればよかったのに…。
 逃げろなんて言わなければよかったのに…。
 僕は、こんな焦げ付くような悲しみを覚えたくはなかった」

 スイルの瞳は輝きをなくし元にもどった。
 もう戦う気はないようだ。
 スイルはナツミを抱きしめた。

「でも、そんな悲しみが俺の心を覆っていても1つだけ大切な者がいたんだ。
 その子を守るためなら…と俺は、この身を白銀の王に捧げ、この力を得た。
 闇の力は、ほとんどなくなってあまり使えなくなった」

 スイルの声がかすれ始めた。
 苦しそうに息をついて力を手に込める。
 そして、ナツミはスイルの背に回した手にじっとりとした生温かい何かを感じていた。
 手を自分の前に持ってくると、それは血だった。
 べっとりと手についている。

「血っ!?」

 スイルはナツミの手についた血をみて力なく笑う。

 
「ハハ…さっき少し攻撃があたったんだ。
 大丈夫…こんなものすぐに治るから。
 でも、兄さんってホントに強いよね…。
 同じ双子のかたわれなのに…」

 スイルが悲しそうに言うのを耳元で聞いていた。
 スイルはスカルのことを嫌いになったわけではなかった…今でも。
 ただ悲しみをわかってほしかったんじゃないか…今なら、そう思える。

 だから、スイルの記憶の中で垣間見たことを話すことにした。
 今ならスイルに私の言葉が届くような気がするから。

「スイル。あなたのお父様もお母様も捨てたくて捨てたわけではないの。
 あなたのためにいろんな手をつくしていた」
「わかってた…全てわかってたんだ。
 でも、気づくのが遅かったみたい。
 ごめんね、ナツミ…」

 自分に迫る嫌な気配を感じながら、スイルはナツミを抱きしめる。
 ありがとう…ナツミ。
 
 スイルの言葉が終わるのと同時にライが上空に現れた。
 ライはスイルの名前を怒りに任せて呼ぶ。
 娘を危険な目にあわせていることが許せないようだった。
 空から闇の刃を多数とばしてきた。
 スイルは微笑み何もすることなく目を閉じた。
 攻撃をそのまま受けようとしているようだった。

「やめて…お父様!」

 その言葉はライには届かなかった。
 迫りくる闇の刃をどうにかしようとしても、スイルが私を離してくれなかった。
 ナツミが困っていると聞きなれた声がした。

「仕方ないなぁ…」
「しず!!」

 シズカはナツミの前にきてニコッと笑う。
 シズカのひとみが青く輝き風が吹き荒れた。
 その風をライがとばしてきた闇の刃に向けて放つ。

「うちの力、なめんなよ!!」

 闇の刃をシズカは風で押し返した。
 ライがイラッとしたようにシズカに向かって声を荒げる。

「シズカ、なにすんだ!!!」

 シズカもまたイラッとしたようで眉間にしわをよせた。
 負けず嫌いなシズカにとってライに一方的に言われるのが気に食わないらしい。

「何すんだは、こっちのセリフだ!!!
 ナツミまで巻き込むつもりかよ!!」
「ちゃんとスイルだけに当たるように考えている!
 実の娘を傷つけるわけがないだろう!」
「スイルにこれ以上傷をおわせなくていいだろ!」

 ライとシズカの言い合いがひどくなる中、ナツミは今のシズカの一言に驚いた。
 すぐにナツミのもとにはるたちがよってくる。

「なつみん!スカルさんの傷治したよ!
 スイルさんの手当は?」
「えっ…はる…」
「スイルさんは悪いことしたけど…でも、スカルさんの弟さんだよね」

 
 ナツミはうなずきながらも、はるの言いたいことがよくわかっていなかった。
 スイルの傷の手当はしてほしいけれど、いきなりのことに頭がついていかない。

「戦いの中でスイルさんに迷いが生じていることに気づいたの。
 それで、リークにスイルさんの憎しみがなんなのか調べてもらったの」

 はるの言葉に続くように途中で言い合いをやめたシズカが口を開く。

「スイルの憎しみって悲しみからなったもんなんだろ?
 ってか、これライに言ってなくて勝手に怒ってスイルを殺そうとしてたけど」

 憎しみは悲しみでできたもの…それを知っているのは自分だけだと思っていた。
 スイルの過去をみた自分にしかわからないことだと思っていた。
 でも今は、みんながスイルのことをわかってくれている。
 スイルの孤独をわかってくれた。

 
「ありがとう…みんな」

 ナツミが言うとはるとシズカは優しい笑みを浮かべた。
 スイルがうめきつつスカルを見上げた。
 傷口が痛むせいか苦しそうにあえいでいる。

「兄さん…僕を殺してください」
「なんで、スイル」
「ナツミ、僕は今も憎しみがある。
 どんなに戦ってもはれることはない。
 だって、過去は変えられないだろ?
 僕が1人だったという事実は消えない。
 そして、憎しみを兄に向け傷をおわせたことも…だから、ナツミごめん」

 スイルは自分のした罪を受け入れていた。
 もう戦う力も残っていないんだろう…。
 ただ目を閉じて殺されるのを待っている。
 ナツミはスカルにやめるように何度も言った。
 スカルはため息をつくと剣を鞘から抜き放った。
 
 シズカとはるとリークにライは口を出すことなく見守っていた。
 ナツミが邪魔しないようにスカルはイアルとキリクにナツミをおさえているように言った。

「やめてっ…」

 ナツミのそんな言葉を無視しスカルは剣をふるいスイルの心臓に刺した。
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