小説内容
□第三話
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シズカの部屋に訪れようとしていたはるだったがスカルが入っていくのがみえて、はるはシズカの部屋に行くことを後にしていた。
「スカルさん、表情かたかったなぁ。
…大丈夫かなぁ」
ボソリと独り言をつぶやきつつ城の外にある庭園へと訪れていた。
花が、たくさん咲き乱れ妖精たちが飛び交っている。
はるは、不思議そうに眺めていた。
大地の世界だけに存在する妖精がなぜこんなところにいるのだろう…。
そう思って声をかけてみることにした。
「あの…ここ光の世界なのに、どうして」
妖精たちは顔をあげるとペコリと頭を下げた。
羽を小さくふるわせ浮いている。
「あなたは大地の姫君。
我らは大地の世界と光の世界の交友の証として、ここへ送られました。
もとは大地の世界のものですから、こうして妖精…つまり我らが花木から誕生しました。
花木が育つとその植物の生命力の分、妖精が誕生するんですよ」
はるは、妖精をそれぞれみてみんなに違いがあることに気づいた。
花の種類や色によって異なっているようだ。
幼いころに人間界に行ってしまったせいか、いまいちよくわかっていない。
妖精たちと話し終え近くにあるベンチに腰を下ろした。
空には星が瞬いている。
そんな空を見上げて、そっとため息をついた。
今の状況があまり思わしくないように思えて仕方ない。
なつみんは、きっとスイルさんの味方をする…スカルさんにでさえ刃を向けたのだから。
でも、シズカさんはスカルさんを殺させるようなことはしないと思う。
スカルさんが死にたがってもシズカさんはまっすぐな人だから、間違っていると思ったら絶対にとめる。
だとしたら、2人はきっと対峙することになる。
そうしたら、今の私ができることって何なのか…そう考えると思い悩んでしまった。
はるが悩んでいると隣に誰かが座ってきた。
悩み事をしていたせいで全く気付かず、その人に目を向けるとリークだった。
「よぅ、はる」
リークはにこりと微笑んではるを見た。
はるがリークに言葉を返そうとして、はたと気づいたことがあった。
それは、闇の人が植物に触ると枯れてしまうことだ。
リークの足元に目をやると、やはり少し枯れていた。
リークもはるの目線に気が付いて下に目を向けてため息をつく。
「これでも、闇の力をおさえてるんだけどな…」
「リーク」
「闇は陽の光を遮る。植物は闇の中だけでは生きていけない。
あっ、でも1つだけ」
そういって、リークは1輪のバラを取り出した。
真っ黒なバラで、はるが触れると枯れてしまった。
「相容れないよ…。お前と俺は生きる世界が違う。
俺は光の届かぬ場所で…お前は光のあふれる場所で。
俺が触れたら、はるも花のように枯れちゃうのかな…」
リークが切なげに目を伏せた。
はるは、少し驚いていた。
いつも元気でトラブルがあっても真面目に対応するリークは落ち込むことなどないような人だと思っていた。
でも、今のリークはそんな時とは別で辛そうだった。
そして、記憶を戻された時のことを思い出した。
昔からリークが自分に触れるのを躊躇っていたことを…。
おそるおそる手をのばして、いつも途中でやめてしまったこと。
それから、何事もなく笑う彼をみるのが心苦しかった。
昔もリークに触れた。
リークはびっくりして困っていたけど、私は花のように枯れてしまったりはしない…だから。
リークの頬に手で触れる。
「な、なにやって…」
「リーク、大丈夫だよ。
私がリークに触れても私はなんにもならない。
だから、そんな辛そうな顔しないで」
はるの言葉にリークは一瞬目を見開いて驚いた。
しかし、すぐに涙で目をうるませると頬にあてられているはるの手に恐々と触れて、はるの手にすり寄った。
リークは実感する…。
はるのおかげで、どれだけ自分が救われているか…そして、はるのことが好きな自分がいるということも…。
「はる、ごめんな」
いろんな意味をこめて、はるに謝る。
はるは、笑って大丈夫だと言ってきた。
「いつも、助けられる」
「そんなことない。リークは私のことになるとシビアになるんだよ」
「あたりまえだろ…大切な子なんだから」
リークの顔がすごく近くにある。
子どものころは、なんとも思わなかったのに今はなぜか恥ずかしく思う。
でも、ふと緑木の顔が浮かんでリークから目をそらした。
「緑木?」
はるが目をそらした理由を言い当てるようにリークはそういった。
はるの目の瞳孔が揺らぎリークは、はるの手から逃れるように顔をそらした。
「ごめん、はる。俺、自分のことばかりになってた」
「私こそ、ごめんね」
はるの言葉にリークは何を言うこともなく辛そうに目をふせた。
そんな様子をライは共有スペースのリビングの窓から見ていた。
リークに潜む心の闇とスカルの心の中での葛藤が自分に伝わってくる。
手に取るようにわかってしまうのも長い年月を共に行動してきたからだろう。
ナツミは眠っている。
明日になればスイルとの戦いになる。
その時に何が起こってもナツミを止めなければならない。
「イアル、キリク」
2人の名前を呼ぶとすぐに現れた。
「すまないがナツミを頼む」
「ライ様のご命令とあらば…」
「おおせのままに」
イアルとキリクがライの前に跪き左胸に手を添えた。
ライにはスカルやリークのようにイアルとキリクの気持ちが感じられない。
こうやって、跪く2人がどう思っているのかわからない。
だから、時々不安になる。
本当は守ることなど嫌で自分の思うように生きたいと思っているのではないかと…。
そう思わずにはいられなかった。
時はうつろいゆくもの…どんな明日であれ必ず日々は過ぎていく。
たとえ、次の日が戦いになろうとも…。
スイルと戦う日となった。
夜になると同時にライたちは2日前スイルと出会った場所に向かっていた。
それぞれの思いを抱えて…。
「私は、どうしたら…」
どうしたらいいのかはるには、まだわかっていなかった。
なつみんを止めるべきかシズカさんを止めるべきか…私は2人に戦ってほしくない。
「はる」
リークがはるに話しかけてきた。
はるは、ぼんやりとした表情でリークを見た。
「はるは自分のしたいようにするんだ。
誰も決めたりしない。
好きなようにすれば、きっとその悩みもとれるんじゃないか?」
「リーク…うん!」
はるにはわからなかった…正しい選択が。
でも、だれも正しい選択なんてしらない。
だから、みんな悩んで悩みぬいた末に自分が正しいと思った選択をするんだ。
はるは、自分の正しいと思う選択をすることにした。
そして、スイルと出会った場所についた。
そこには、もうスイルの姿があった。
前には感じられなかった禍々しい力が感じられた。
「僕は、許さない。兄さんを殺す。
そして、お前たちも…。ナツミ。
ナツミは僕の気持ちわかってくれるよね?」
スイルが私に目を向けてきた。
潤んだその瞳からは、なぜか憎しみよりももっと強い悲しみが感じられた。
彼の気持ちは悲しみでできた憎しみでしかないと、その時気づいてしまった。
私は、その気持ちに気づきたくはなかった。