小説内容

□第三話
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 そのころ、シズカは自分の部屋に戻って休んでいた。
 ずっと、ナツミにつきっきりだったから疲れが体にたまっている。
 休んでいても、シズカの複雑な気持ちは変わらなかった。
 ナツミにとってスイルがどんな存在かはわからない。
 でも、大切なんだろうとは思う。
 起きるたびにパニックをおこし、スイルを殺さないでと叫ぶナツミをみてそう思った。
 そんなナツミを落ち着かせるのは、とても大変で落ち着くとすぐに寝てしまい、また起きてパニックになって寝る…という繰り返しが続いた。

 ナツミにとってスイルが大切なのはわかる。
 でも、スイルはスカルを殺そうとしている。
 スカルは、うちにとってかけがえのない人だ。
 死んで欲しくないと思う。
 ナツミはきっとスイルを守ろうとするだろう。
 そして、スカルを殺そうとするだろう…昨日のように。
 その時、うちはスカルのために友人であるナツミに刃を向けられるだろうか…。

 そんな風に悩んでいると扉をノックする音が聞こえ返事をしてあけると、そこにはスカルが立っていた。
 力なく微笑むスカルに戸惑いながらスカルを、とりあえず部屋に入れた。

「ありがとう、シズカ」
「いいよ。これ、はるが心落ち着かせられるからってくれたお茶。
 今のお前にはピッタリだと思うけど」

 そういってシズカはお茶をいれて、スカルに差し出した。
 シズカの言葉にスカルは苦笑しながら、それを受け取り飲んだ。
 ぼんやりするスカルに気づかわしげにしながら、元気のない理由を聞こうとシズカは口を開いた。

「どうしたの?」
「俺は…スイルを苦しませた。
 正直かなりひどいことをしている。
 まだ幼いあいつを1人にしたんだ。
 きっと生きてくるのに必死だったはずだ」

 スカルはシズカの名前を呼ぶとお茶の入ったコップを手に持ちながら静かに目をやった。
 切なげでどこか強い意志を秘めた目にシズカは一瞬目を奪われてしまった。
 しかし、そこからスカルはとんでもないことを言い出した。

「俺は、あいつが望むならこの命を渡そうと思う」
「はっ…?」
「それでスイルの憎しみが晴れるならいい。
 お前たちには迷惑をかけたくない。
 俺や俺の両親がスイルの心の闇を作ってしまった。
 両親は、もう死に、その責任をとれるのはこの俺だけだ」

 そんなスカルの言葉に言いようのない怒りがシズカの中に沸き起こっていた。
 両親の本当の気持ちを知らないスイルが悪いのに、なぜスカルがそこまでしなければならないのか…。

「本当はスイルを連れ戻そうとしたことがあった。
 ライが正式に王になったとき王族、王族補佐にあたる赤子で力なくして生まれたものでも力が向上する可能性があるとして、力ないものを追放するという定めのようなものはなくなった。
 今までに追放された者たちも戻ってくることを許された。
 でも、スイルは手遅れだった。
 あいつの心に育った闇は想像以上で連れ戻すことはかなわなかった。
 あいつの心の傷を癒せるのは俺の死だけだ」

 シズカが怒りの声をあげようとした。
 そんなことがあるはずないと…スイルだって、もう全員を殺すつもりなのだ。
 あぁなってしまってはスカルの死だけでは、おさまるはずがないと思っていた。
 それを伝えようと椅子から腰を浮かしたところでスカルがいきなり抱きしめてきた。
 茶の入ったカップは落ち割れて、ひいてあるマットを濡らした。
 シズカはいきなりのことで声が出なかった。
 怒りをスカルにぶつけようとしてもできなかった。
 だって、スカルの手が…体がふるえていることに気づいてしまったから。

「ごめん…今だけでいいから、このままで」

 スカルの声もふるえていた。
 スカルが泣いているのだと思った。
 自分への罪の重さに耐えられないのか、それとも大罪を犯してしまったことへの後悔か…スカルは苦しげだった。

 そして、スカルの本音が消え入りそうな声でささやかれる。

「シズカ…死にたくない。
 俺はお前をおいて逝きたくはない。
 でも…でもっ!!俺の家族が犯してしまった罪は消えない…。
 シズカ、俺はどうしたらいいのかわからない。
 やっと、お前と会えたのに…」

 スカルの心の悲痛な叫びが聞こえてくるようだった。
 そんなスカルの背に腕をまわしながら目をふせた。
 自分の心が定まった瞬間だった。
 たとえ、ナツミと刃を交え戦うことになったとしても…スカルと共に戦うことを選んだのだった。
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