小説内容

□第三話
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 ついに、この時がきたのだとそう思った。
 ただ刃を向けてくるのが弟ではなくナツミに変わったぐらいだった。
 主の命令は絶対…きかないことはできない。

「許さない」
「なつみん!だめ!」
「おい」

 ライが前に立つとナツミは苛立たしげに刃先をライに向けた。
 ライは、それに動じることなくナツミをみつめた。

「やめるんだ、ナツミ」
「お父様、どいてください」
「ライ!いいから」

 スカルは、ナツミの前に立つライに言った。
 ライにまで迷惑をかけるわけにはいかない。
 ライはしぶしぶという感じでナツミの前からどいた。
 シズカがスカルに逃げるように言うがスカルは、その場から動かない。
 ナツミが走り出す中、シズカはやめてと叫んでいた。

 スカルに氷の刃が刺さりそうになった瞬間、ナツミの腕は止められていた。
 驚いて手を止めている人をみると、その人はスイルだった。

「騒がしいと思ったら…ナツミ、何をやってるの?」
「スイル…」
「あの人がスイルさん」

 はるは、初めてみるスイルをみてつぶやいた。
 シズカもスイルを見て確かにスカルと似ていると思った。

「あぁ、兄さん。久しぶりです」
「スイル、お前」
「誤解しないでよ?僕はナツミに手を汚してほしくないから止めただけ。
 兄さんを助けるためではないから」

 スイルは、そういって鼻で笑ってからナツミに目を向ける。
 ナツミは顔をそらして下唇をかんだ。

「ナツミ、だめだよ…君の手を汚してはいけない」
「でも…」

 言いよどむナツミに微笑む。
 そして、兄のスカルに冷たい視線をやった。

「兄さん。俺には必要なものなんてない。
 家族も双子の兄も他の奴らも…でも、ナツミだけは俺に必要なんだ。他の奴らは許さない。
 他世界であろうと殺す。
 ここにいる奴ら全員!!!」

 その場にいる者は全員身構え、はるがプロテクションをはった。
 スイルは、クスクスと笑うと首を横にふった。

「まだ戦わない。ナツミが疲れているから休ませてあげてよ。
 2日後、またこの場所でやりあおう。
 逃げるなんてできないからね。
 じゃあ、バイバイ。兄さん」

 スイルは冷たい瞳と共に微笑みながら手を振った。
 自分の後ろで座り込んでしまっているナツミの前に片膝をついて目線を合わせると自分の肩にナツミをよせた。

「僕のためになんか動かないで…。僕は君が大切なんだ…すごく。
 失いたくない…」

 スイルの言葉にナツミは泣き出した。
 自分はスイルに何もできていないのに…スイルは、どうしてこんなふうに言ってくれるんだろう。
 スイルはナツミの頭を撫でて立ち上がると姿を消した。
 スイルが消えると、はるがプロテクションを消して駆け寄ってきた。
 泣いているナツミをみて、はるは慌てる。

「な、なつみん!?大丈夫!?」

 シズカもそばによってきた。
 スカルのことで一言言おうと思っていたが泣いているナツミをみて、そんなこと言っている場合ではないと思った。
 
 はるもシズカも泣いている理由がわからずオロオロするばかりで、どうしたらいいのかわからないでいた。

「あ、あのさ…なにがあったかわからないけど、ナツミが無事でよかったよ」
「そうだよ、なつみん!」
「はる、シズカ、少しそっとしといてやってくれ。なっ?」
「でも、リーク。なつみんが…」
「泣きっぱなしだし、そのままって言ったってさ」

 はるもシズカも、そのままにするということに抵抗を感じ困っているとライがナツミに近づき額に手をやるとナツミを寝かせてしまった。

「ライさん…」
「寝かせただけだ。帰るぞ」

 ライはナツミを抱き上げると無言で城へと帰り始めた。
 イアル、キリクはライについていきスカルもリークもうなずき合うとシズカとはるの手を引いた。

(ナツミ、憎しみにのまれたらダメだ)

 ライは自分の腕のなかで眠るナツミに心の中で言った。

 私が目を覚ましたのは自分のベッドの上だった。
 お父様が私のベッドの横に椅子を置き座って寝ていた。
 どれくらい寝ていたのかわからない。
 酷い悪夢をみていた気がする。
 ぼんやりとお父様を見ているとうっすらと目があいた。
 ライは、立ち上がるとナツミの頬に手をやった。
 顔色は悪くないしずいぶんと落ち着けているようだった。

「起きたのか…。大丈夫か?」
「大丈夫」
「ならいい。あれから丸1日たった。
 お前は起きるたびにパニック状態でシズカもはるも今の今までつきっきりだった。
 やっと落ち着いたな」

 安心したように笑みを浮かべるライを見ながらナツミは小さく謝っていた。
 ライは、そんな娘を見ながら頭に手をやって撫でた。
 

「もう少し寝た方がいい」

 ライの言葉に素直にうなずくと目を閉じて眠りに落ちた。
 そんなナツミをライは心配そうに揺らぐ目で見つめていた。
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