小説内容

□第二話
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 シズカが思いつめるスカルの名前を呼んだ。
 シズカをみるとスカルはいつものように微笑む。

「大丈夫だ」
「スカル、お前王族に殺されかけたんだろ?
 変なこと言っちゃうけど、どうやって助かったんだ?
 それに、そんなことあったのにどうして王族につかえているんだよ…」

 シズカが矢継ぎ早に質問をしてきた。
 スカルは、とりあえずシズカに落ち着くように言った。

「俺を助けてくれたのはライだった…」
「えっ!?」
「まだ王になるかならないか…そんな感じだったんだがライは俺に気づいて王族をけちらしてくれた」

 ライは正しい道を導いてくれる…ライと関わっていく中で分かったことだった。
 ライに助けられた後、家には誰の姿もなかった。
 ただ、両親の服だけが寂しそうに風に吹かれていて…両親が死んだのだと、その時悟った。
 ライは、その光景を見て強い口調で言ったんだ。
 俺がこの世界を変えてみせる…と。
 だから、俺は周りになんといわれてもライの補佐になることを決めた。
 周りからの非難の言葉は、すべてライの力と権威で封じられた。
 俺は、ライに助けられてばかりだったんだ。

 そうスカルは穏やかな笑みで、みんなに言った。
 ライは照れくさそうに咳払いをする。
 

「じゃあ、ナツミを探すか!」

 シズカがスカルをみていった。
 スカルがうなずくと、はるもリークの方をみてナツミを探そうといった。


 そのころ、スイルはスカルの知らない過去をナツミに話そうとしていた。

「話すのもいいけど、俺の血でナツミの忘れている過去の1つをよみがえらせる」
「スイル…」
「大丈夫。寝ていて…何もしないって約束するから」

 スイルが自分の腕に傷を作り血を流す。
 血が出るのを見た瞬間ナツミの瞳は輝きスイルの腕をとった。
 しかし、ナツミは血をのむことをためらいうめいた。

「舐めて…なにも怖くない。ほんの数分眠るだけだから。
 俺は自ら自分の希望を消すようなことはしない。
 安心して本能に身を委ねていい」

 スイルの言葉に心を落ち着かせながら血を舐めた。
 血が体内に流れ込んでいくのと同時に記憶が少しずつよみがえってきた。

 幼いころ私はスイルに会っていた。
 ライが白銀の世界に行った時だった。
 他世界をみるのも勉強になると言われ連れて行かれたのだ。
 ただ王同士の話には参加を許されず従者であるイアルもキリクも白銀の世界には来ていなかったため外へと1人遊びに出ていた。
 森の中へと足を踏み入れて歩いていると、そこにはうずくまっている青年がいた。
 
 その光景をみている私はその青年がスイルだとわかった。

『君、だれ…?』

 スイルは幼い私の足音に気が付くと顔をあげ睨んできた。
 しかし、そんな風に睨まれても幼い私は何とも思わず、そばに寄っていった。

『ねぇ、なにしてるの〜?』
『君は…光いや闇か?』
『りょーほー!!私、ナツミ〜!』
『混血か…僕の元婚約者か』

 スイルがなぜか目を伏せた。
 その時の私には理由がわからなかった。
 分からなくてスイルの頬に手をやった。
 スイルは驚いて顔をあげたが、その顔には憎しみではなく深い悲しみがあった。

『悲しいことあったの〜?そんな顔してたらいいこと、い〜っぱい逃げちゃうよ〜』
『いいことなんて…』
『笑って笑って』

 ナツミはニコニコしながら言う。
 スイルはそんなナツミをみて胸が苦しくなった。

『かえって…ここにきたらダメ。
 俺は…悪い子だから。生きてたらいけないんだ』

 スイルの目から涙がこぼれた。
 言葉に出したとたんに、現実が迫ってくるようだった。
 胸がはちきれそうに苦しい。
 頬にそえられた手に力がこもったのがわかった。
 なにかと思いナツミに目をやると顔を真っ赤にして頬を膨らませていた。

 
 
『えっ…』
『生きていちゃいけない人なんていないもん!!
 だれかがあなたのこと生きてたらいけないって言うなら私が怒るもん!!
 だから、そんなこといっちゃダメ!』

 
 ナツミは幼いながら必死にスイルに言っていた。
 小さいながらもスイルの心の悲鳴が聞こえたようで辛くなっていた。

『でもっ!』

 スイルは涙を堪えきれずたくさんの涙をこぼした。
 今まで心にたまっていた全ての痛みに誘われるかのように…。

『僕が触ったら君は汚れてしまう…。
 さぁ、もどって。きっと君の親が探し始める。
 こんなに汚れた手で君には触れられない…。
 優しい心の持ち主には』
『そんなことないよ!だってね、今触ってもなんにもないもん!』

 
 ナツミが微笑むとスイルは少し戸惑いがちに頭に手をやって、ありがとうといいながら撫でた。

 すると、ナツミの名前を呼びながらライが近づいてきた。

『とーさま!』
『ここにいたのか…んっ?』
『…元我が主。僕は必ずその子を迎えに行きます。
 この闇の力を全て捨てて多大なる白銀の力を手に入れて』

 自分に生きていいと言ってくれた唯一の子…僕は彼女を手に入れてみせる。
 それからスイルはライとナツミの前から姿を消した。

 そうして、私は目を覚ました。
 目を開けると、そこにはスイルがいた。

 
「ナツミ、お前の友人が探している。もどろう」
「ま、まって」

 不安げにスイルの袖をひっぱるとスイルは微笑んで抱きしめてきた。
 たとえ、敵だとしてもスイルの痛みを知っているのは私だけだった。
 もし、自分がスイルを突き放してしまったらスイルはどうなるんだろう。
 そんなことは怖くて考えられなかった。

「安心して。僕も強くなれた。君のおかげで。
 でも、今はもどるべきだよ」

 ナツミがうなずくとスイルは術をとなえ、ナツミをライたちのもとにとばした。

「ナツミ〜〜!!」
「なつみん、どこー!」

 
 シズカとはるは、ナツミの名前を呼びながら森を探し回っていた。
 森の開けた場所にみんなは1度集まった。

「どうしよう、どうしよう…このまま」
「はる、そんなこと言うなよ」
「シズカさん…」

 でも…と、はるが言いかけた時だった。
 スカルが誰より早く何かに反応するとシズカを抱き上げ、その場から離れた。

「な、なにすんのさ!」
「おい、はる!」

 シズカの言葉には答えずにスカルは、はるに向かって叫んでいた。

「なんですか?」
「そこにいると危ないぞ」

 スカルの言葉の意味が分からずに、はるは首をかしげていた。
 すると、真上から悲鳴が聞こえてきて見上げるとナツミが落ちてきていた。

「キャ〜〜〜〜!!なんで、私落ちてるの〜〜!?」
「えぇっ!?なつみん!?ど、どうしよう。
 なつみーん!そのまま落ちてきて大丈夫…じゃなーい!!!
 私がつぶされる〜!!!」

 はるが慌てているとリークが飛び出し、はるを抱えライが舌打ちをし飛びあがった。
 そして、ナツミを抱きとめると地面に着地をした。
 はるがリークの腕の中で大きく息をつく。

「び、びっくりしたぁ」
「ナツミ、無事でよかった!」

 スカルに抱えられたままのシズカは、そういって安堵した。
 けれど、スカルとリークは2人を抱えたまま動かなかった。
 ライはナツミを降ろし何かを言っているようだがナツミは顔色1つ変えない。
 そして、特殊能力である氷を刃にして出し手に持った。

「シズカ、お前逃げられるな?」
「はっ?スカル?」
「聞いたんだな…スイルの過去を」

 スカルはシズカを降ろしナツミに問う。
 ナツミが顔をあげると瞳は赤く輝き氷の刃を手にスカルの方へと足を進める。
 そんなナツミの姿をシズカは血の気のひく思いで見ていた。
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