小説内容
□第一話
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リビングに行くと、みんなはもう集まっていた。
「おはよう、なつみん!ふわぁ〜…私眠いよぉ」
「なれてないだけ」
「そうかなぁ。 あれ?なつみん?」
ぼんやりしていると、はるが不思議そうに名前を呼んできた。
ハッとして、なんでもないとつげるとスカルに目をやった。
やはり、ゆめにでてきた人とスカルの雰囲気が似ていると思った。
「なんだ?」
「あっ…あのさ、スカル。実は今日ゆめにスカルに似た人が出てきたんだよね」
そういうと、はるとシズカ以外のその場にいた人の雰囲気がピリピリしたような雰囲気に変わり体に突き刺さるようだった。
「スカル、どうした?」
スカルの雰囲気がいつもとは比べ物にならない程トゲトゲしいもので、シズカは声をかけずにはいられなかった。
そんなシズカの言葉は耳に入っていなかったようで苦言をもらす。
「チッ…そこまで出てきたのか」
「ナツミ、そいつがスカルに似ていて当たり前だ」
ライが冷静に言っても意味を理解していないナツミたち3人には分からないようだった。
スカルが目をそらして言いにくそうに教えてくる。
「それは、俺の双子の弟のスイルだ」
「お、お前、双子だったの!?」
「シズカさんも知らなかったんだぁ…。
でも、スカルさんみたいな人がもう1人かぁ」
はるの言葉に怒る訳でもなくスカルは悲しげに微笑んでみせた。
そして、はるの言葉を静かに否定した。
「俺とスイルは似ているのかもしれないが、雰囲気は全然違うんだ」
「向こうの方がトゲトゲしいよな」
リークは会った事があるのか遠い目をして思い出しているようだった。
でも、あんまりハッキリとは覚えていないようだった。
「仕方ないんだ…リーク。過去が過去だから」
「スカル…。そういえばさ、スカルはスイルの考えている事わかる?」
重苦しくなってきた空気を変えるようとリークは少し話題をそらした。
リークの問いにスカルは考えるようにしてからうなずいてみせた。
リークは目をキラキラと輝かせた。
「すごいな…双子って分からない事がいっぱいあるから、そういう話きけて楽しい」
「そうか…一卵性だからな。もとは同じ卵な訳だしあたりまえじゃないのか?
まぁ、そのせいでアイツに辛い思いさせたんだけどな」
暗くなったスカルをみてリークが地雷を踏んでしまったというような顔をしたので、はるが慌てて取り繕うようにライの方を見た。
「なんだ?」
「ライさんには兄妹っているんですか?」
一瞬の沈黙の後、ライは引きつった顔をしていた。
部屋がイヤな空気に包まれる。
ライの周囲を異様な気配が漂った。
「俺には兄貴がいる…だが、アイツは許せない」
きつい目つきになったと思うとライの周りには、いくつもの闇の力を凝縮した球が浮かびだした。
「まずいな…」
スカルがそう言うとはるがリークをみた。
はるの顔には動揺がにじみでていた。
「私なんか変な事言っちゃった?」
「そんなことない。だけど、さがってろ!!」
リークが、はるをかばうように前へでるとスカルもシズカの前に出た。
ナツミが困ったようにキョロキョロしているとイアルとキリクがそばに寄って来た。
キリクが早口に言ってくる。
「姫君!!ライ様の名前をお呼びください!」
「はぁっ!?」
「ライ様は、お兄様に対して憎悪があるのです!
それは、お兄様がいけないと我々も思いますが…今は、その怒りをここにぶつけるべきではないのです!
ライ様の心を戻す為にも名前をお呼びください!!」
イアルが叫ぶ中ライの周りを雷が這い出した。
ライの特殊能力である雷までもでてきてしまっていた。
このままだと危険だと思うとナツミは急いでライの名前を呼んだ。
しばらくして、ライの目に光が戻って来て周りのイヤな気配が消えた。
「…俺は…すまない」
「兄貴の話しをしたから」
スカルにそう言われるとライは頭をかかえて、ため息をついた。
そして、もう一度その場にいる者たちに謝った。
「び、びびったぁ…」
シズカが胸をなでおろしながら言うと、はるも長く息を吐き出した。
「死んじゃうかと思った」
「死にはしないよ、ちゃんと俺が守るから」
リークの言葉にはるは、顔を赤らめつつうつむいた。
ナツミは少し考えるようにしてライに話しかけた。
それは、ライの力をみて自分たちも力を使えるようにしたいということだった。
そう言うとライは眉根を寄せてリークとスカルに目をやる。
「力か…戻せない事は無い」
スカルがライとアイコンタクトをとった後、いろいろと考えてから言った。
力とは、そんなに危ないものなのだろうか…。
「俺たちが解放させてやれば使えるようになる。
ナツミは一瞬、力をおさえていた術がはずれかかって1回力を使ったがな」
「お父様、私もどしてほしい」
たとえ、危なくても守りたい人を守る為ならば使いこなしてみせる。
シズカとはるに、どうするか尋ねると2人はニッコリ笑って「もちろん!」と言った。
3人の思っている事は、ほとんど同じだった。
これ以上、自分を守ってくれている人を傷つけないように…そう思っていた。
自分の身ぐらいは守らないとっ…と。
3人の決意が固いものだとライは分かり力を戻す事にした。
そして、3人に外に出るように言った。
3人がうなずき合って外に出て行くとライも続いて外に出ようとしたが目の前にキリクがきて跪いた。
「なんだ、キリク」
「ライ様、3人の力を1度に戻す事は大変なことです。
僕はおかしてはならないことをしました。
でも、その力を使えばライ様が苦しむ必要はありません」
「だから…」と話しを続けようとしたがライは、それを許可する事なく部屋を出て行ってしまった。
キリクが強く目をつぶるとイアルが行くぞとキリクを急かし部屋を出た。
外に出るとライが自分の手を傷つけ自分の血で陣を書いた。
「これは…」
「お前たちに力を戻す為の陣だ。
その五芒星に3人とも入れ…スカル、リーク、キリク、イアルは俺の力の手伝いを」
みんなは、それぞれに返事をすると言われた位置に移動した。
「さぁ、やるぞ」
ライの瞳が金色になった瞬間、全員のもとへライの力が流れ込んだ。
五芒星の頂点にそれぞれ4人は歯をくいしばり両手をあわせた。
中心にいるナツミ・シズカ・はるは流れ始めた力に翻弄されつつも自分の中にある力が誘発され徐々に目覚め始めている事に気づいていた。
その中でライの口元から血が流れ出している事に気づき叫んでいた。
その声で目を閉じ集中していたリークがはじかれるように顔をあげてライを見た。
そして、血が流れている事に気づいた。
「ライっ!!」
リークがライに向かっていきそうになるとライがその場にとどまるように叫んでいた。
「この陣形…崩れれば他の奴らにも危害が及ぶ。
俺のことはいい」
「主…」
キリクが心配そうに目を潤ませた。
イアルがすぐにライの状態を目で確認して焦りだした。
「力の使い過ぎだ…このままでは」
イアルがそう言った瞬間キリクからたくさんの力がライに加勢するように流れた。
そのおかげでライにかかっていた苦痛が和らいだ。
それに気づくとスカルもリークも同じように力をあげライの援護をした。
五芒星が輝きだすと3人にかかっていた力を封じていた力を解くようにライが何かをつぶやいた。
そして、それらの出来事は一瞬だったかのように終わりナツミたちは呆気にとられていた。
「はる、終わったぞ」
汗にまみれたリークが、はるに言った。
はるは少し間をおいてから驚きの声をあげた。
「大丈夫?」
ナツミは気遣わしげにライに話しかけた。
ライは手の甲で口から流れ出た血を拭うと短い返事で答えた。
その反応にホッとしていると頭に激痛がはしった。
そして、それが起こると誰かの声が聞こえた。
『ナツミ…おいで。…そして、祠に来て…』
少し懐かしい声だった。
どこまでも優しい声で落ち着くようなそんな声だった。
「ほこ…ら…?」
『そう…我が愛しい者よ…』
ナツミの様子がおかしい事に気づいたスカルが話しかけて来た。
「大丈夫か?」
「声が…」
スカルが訝しげに上の空のナツミをみてから風邪でもひいたのかと思い額に手をやったときだった。
ナツミにだけ聞こえていた声が優しげな口調から怒りを含んだ口調に変わったのは…。
『俺のものに触るな…』
ナツミは、目を見開くと自分の背後から力の波がおしよせるのを感じた。
すぐに逃げるように周りに叫んだ。
叫んだのと同時に背後の森から白銀の粒子が襲って来た。
「あっ!」
「姫君っ!!」
スカルは咄嗟にナツミを抱きかかえると空へと舞い上がった。
しかし、白銀の粒子は消えることなく蛇のようにうねりながら、みんながいる所へと迫って来た。
はるが咄嗟に力を使っていた。
目の前に土の壁を作り上げ自分たちの周りにプロテクションという薄いまくをはった。
「なにこれ…?」
シズカが薄いまくをみながらうぶやくと、はるがシズカに微笑んでいった。
「プロテクションだよ」
「薄くね?」
「大丈夫!人間界で言うバリアみたいなものだよ。
薄いまくで出来てるんだよ」
取り戻した記憶の中に力を使う練習をしていたものがあり、なんとか今でも使えたという感じだ。
「それにしても…あの銀色のなんだよ、スカル」
「スイルの仕業だ」
はるが作った土の壁が音をたてて崩れ粒子がプロテクションに向かってとんできた。
はるがプロテクションが壊れないように手をかざすが限界を感じていた。
「これ以上は…」
「なら俺がやる」
ライは瞳を輝かせて白銀の粒子を見た。
すると、真っ暗な空間が広がり白銀の粒子をのみこんで消えた。
はるが荒い息をしつつプロテクションを消し座り込んだ。
そんなはるにリークが駆け寄っていく。
「はるっ…」
「大丈夫。疲れただけ…でも」
宙に浮く粒子をみやると泣きたくなった。
まだ、たくさんの粒子が浮いていて暗いはずの空が銀色に染まって見える。
これを防ぎきる自信がなかった。
すると、リークが前に出て瞳を赤紫色に変えると周囲に闇の刃を漂わせた。
「はる、大丈夫。…守ってみせる」
後ろを振り向いて不安そうにしているはるに安心させるような笑みをむける。
リークの赤紫色の瞳が自分にむけられている。
なぜかドキッとしていた。
「リーク」
「顔赤い…熱でてるかもしれないから後で診察する」
リークは、医者で闇の世界でも有名だった。
他の世界からも病気を見てほしいという依頼がきたりするほどだった。
ヴァンパイアでも万能と言うわけではないので風邪をひいてしまったり重い病気にかかったりすることもある。
風邪をひいたのかもしれないと心配されて一応診察して貰うように頼もうとした時だった。
ナツミの悲鳴が響き渡り、みんながそっちをむくといつのまにか白銀の粒子がナツミの周囲をとりまいていた。
ライが力を使って粒子を排除しようとしたが粒子はナツミを包み込むようにしてナツミ事消えてしまった。
「なっ…ナツミ!?ナツミ!!!」
ライから血の気が失せてしまった。
ライの力が暴走しないようにスカルとリークが駆け寄っていく。
はるもシズカも躊躇する事なく粒子が来た方向にある森の中へと走っていった。