小説内容

□第五話
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 そのころ、はるはシズカの部屋の入り口にきていた。

 少し声をかけるか戸惑っていたが、意を決したように扉に向き合うとノックをしてドアノブに手をかけた。

「シズカさん、入るね」

 扉を開けると、そこは真っ暗でシズカはベッドの上で丸くなっていた。
 そばに寄っていき、はるはベッドの上に腰を下ろし静かに話しかけた。

「シズカさんは、スカルさんの事大切に思っているんだね」
「スカルは…うちが小さい頃からうちのせいで危ない目にあってきたんだ。
 もしかしたら死んでたかもってほどのキズを負ってた事もあった。
 でも、そんな風になってもあいつは笑ってうちに大丈夫かって聞いてきたんだよ。
 もう…そんなのイヤだ。あいつが苦しそうになるの耐えられない。
 しかもうちのせいでなんて…」
「だから、スカルさんを遠ざけてるの?守らなくても良いようにって」

 感情的に話していたシズカだったがその質問には小さくうなずくだけだった。
 そして、ポツリポツリと少しずつ言葉を紡ぎ始めた。

「でも、そんな事したらスカルに触れられるのが苦手になってた…。
 スカルだけじゃなくて男自体苦手になった。
 触られたり甘い言葉をささやかれるのもイヤになった。
 本当はショックなんだ」

 シズカはふとんに顔を埋めて話を続けた。

「スカルが離れていくのを少し怖く感じる。
 こんなうち幻滅されると思う。
 うちは自分で男が苦手になったのに…スカルに触れないのが少し…うぅん、かなり苦しかった。
 もう言ってる事もやってる事も矛盾だらけ」

 そう言って静かに笑う顔はとても痛々しげだった。
 そしてシズカは小さく肩を揺らし泣き始めた。
 声を出さず、嗚咽さえおさえて、はるにさえ顔を見せる事なく1人で泣いていた。

 そんなシズカをはるは強いと思った。
 自分ならシズカのように苦しくなった時、1人でなんていられないよ思った。
 誰にも泣き顔を見せないなんて事出来ないと、そう思った。

 シズカの背をそっとなでながら、はるはシズカの心の痛みが少しでも和らぐようにと願っていた。


 ちょうどその頃、ナツミは自分の部屋についていた。
 部屋まで送ってくれたリークの方を見るとお礼を言った。

「礼なんていらないよ。それよりナツミ」
「なに?リーク」
「お前から感じる力…いや何でもない。
 力を使ったんだ。ゆっくり休めよ」

 ナツミの髪の毛を撫でるとリークは部屋を出て行きそうになった。
 しかし、ナツミが思い出したように声を上げたのでリークはふと立ち止まり振り返った。

「どうした?」
「やっぱり、私たちの歳が気になって」
「お前達はここで7年過ごしたんだ…けど8歳からは向こうだから…
 てか今何歳?」
「17…なはず」
「じゃあ 17だな。
 お前達は人として生活していたから今はヴァンパイアとしての時間で年を取る事になるな。
 人間の1年はヴァンパイアで言うと10年だから」
「難しい…」
「まっ、気にするな。ほら、早く寝なさい!」

 リークの物言いがまるで親のようで笑ってしまった。
 リークは不思議そうにしていたがすぐに「おやすみ」といって扉を閉めた。

 扉が閉まり、リークはため息をついた。
 そして、横に来ているスカルに目をやった。

「リーク」
「やっぱり光の力の陰に闇の力を感じる。
 ものすごく強力な力だ」
「ナツミに…か。参ったな」
「俺らの新しい王はまた厄介っぽいな」
「しかも、あいつの結婚相手の候補に俺の弟も名を挙げてる」

 スカルが辛そうに目を伏せるとリークはとりあえず部屋に行きながら話をしようと言った。

「双子の弟だっけ?名前は確か…うーんと」

 リークが悩んでいるとスカルは重々しく口を開き自分の弟の名は“スイル”だと告げた。
 そして、自分のせいで今は憎しみにのまれているだろうと言った。
 その言葉にリークが疑問そうにスカルを見た。

「俺のせいなんだよ。
 あいつが闇の世界を追い出されたのは…。
 小さい頃だったな…大人になってから1度だけあった事があるがあいつは、ほとんど闇の力をなくして白銀の力に染まってた。
 とても冷たい目で俺を見てきた」
「でも、お前のせいでスイルが追い出された訳じゃないんだから、そんなに自分を責めるなよ?
 うーん。しかし白銀かぁ…戦うとなると、ちょっと厄介だな」

 リークは腕組みをして考え込み始めた。
 白銀の世界以外は対になる世界がありその世界どうしが弱点になったりするのだが、白銀だけは異質な世界として存在している。
 どの世界の弱点にもなる白銀の世界は脅威でしかなかった。

「まぁ、俺たちもかなり強力だけどな」

 リークは瞳を赤紫色に輝かせてニヤリと笑った。
 その言葉を制するようにスカルが「スイルは俺が止める」といった。


 「この世界は5つだけじゃない」ライはリビングでそうつぶやいていた。
 そして沈みかけている月を眺めた。

(この世界には 大地・海原・光・闇・白銀がある。
 そして、もう一つの“神天世界”…大神と神のいる世界)

 ライは神の世界を考えると目つきが険しくなり力のせいで部屋のあちこちに亀裂が走った。

(何が神だ…俺は、あいつらの考えが大嫌いだ…)

 怒りを抑えるように深呼吸をするとバルコニーへと足を進めた。
 冷たい夜風がすり抜けていく。

「もうすぐ冬か…」

 ポツリとつぶやいた言葉は闇に解け消えるように無くなっていった。

「俺はあいつの幸せな未来の為に…」

 この命に代えてでも…そう強く心の中で決めていた。
 カエデとの約束の為にライは、ずっと自分が力にのみ込まれた日からそう考えていた。
 手すりに身体を寄せかけカエデとつぶやいた。
 今でも目を閉じればカエデの微笑みが浮かんでくる。
 あの微笑みを消してしまったのはまぎれもなく自分のせいだ。
 ライは自分を責めながら、今は亡きカエデに謝った。

 届くはずの無い言葉で…
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