小説内容

□第五話
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 ヴァンパイアの世界のことを教えて貰うためにナツミたち3人は、リビングに戻ってきていた。
 ライは全員が揃ってから、気まずそうにシズカをみた。
 スカルもシズカの表情を伺っている。
 

「あのさ、うちの顔になんかついてんの?スカル」
「いや…」
「言い忘れてた。うちはライを憎んだりしない…別に、うちは親のこと好きじゃなかったから」

 シズカの言葉にライもスカルも少し驚いた様子でみていた。
 リークは、シズカの考えがわかったようで笑みを浮かべて状況を見守っている。

「だから、いちいちライにオドオドされるのは嫌だ。
 うちは、海原の世界をおさめられるようになりたい。
 ライ、しっかり教えてよね」

 シズカがライに微笑むと、ライは安心したようなどこかホッとしたような表情になり、うなずいた。
 

「じゃあ、しずも光の世界にいるってこと?」
「あぁ、お世話になるからナツミ」
「やったぁ〜!!」

 しずの言葉に嬉しそうにとびはねるナツミを置いておいて、シズカは眉間にしわを寄せてライをみた。
 ライは、いきなりシズカが不機嫌になった理由が分からず、シズカをみつめる。
 シズカは、イアルを指差して言う。

「もう少し、従者のシツケしといてくれない…」

 その言葉にイアルが明らかに怒った顔をしてシズカを睨み据えた。
 シズカは、フンと鼻をならした。

「わかった。しっかりと言い聞かせておく」
「ライ様…」

 イアルの不機嫌な声がしたが、ライはイアルの方をみないで話しを続けた。
 真剣な顔になったライをみて、3人はふざけることなくライの言葉に耳をかたむけた。

「お前らも記憶を戻して分かったと思うが、この世界は5つに分かれている。
 闇・光・大地・海原・白銀の5つにな。
 その世界を行き来するには道をつなげる必要がある。
 どの世界にもその道をつくれる一族がいる。
 闇で言うイアルのように。」

 3人がイアルの方を向くとイアルは礼をした。
 リークは3人が同時にイアルを見たのが面白かったのか声を押し殺して笑った。
 その様子を見ていたライは眉根を寄せてみていたが咳払いをして話を続けた。

「この世界も人間界と同様に陽の光があり朝がある。
 世界によって、陽の光を受けても大丈夫な世界と陽の光を受けて体力が減っていってしまう世界がある」

 陽の光をうけても活動できる昼派は、光と大地の世界。
 陽の光をうけると体力が減っていってしまう夜派は、闇と海原の世界。
 昼派でも夜派でもないのが白銀の世界とライは言った。
 昼派は、朝に活動することが多く夜派は夜に活動することが多い。
 どちらでもない白銀の世界の人たちは、昼でも夜でも活動するようようだった。
 その話を聞いて、シズカが「はぁっ?!」と声をあげた。

「どうした、シズカ?」
「そしたら、うちはナツミとはるが動く時間にお寝んねしてろってか?」

 シズカの嘆きにナツミとはるは顔を見合わせて苦笑する。
 ライも苦笑気味でシズカをみていう。

「心配するな…別に動けないわけじゃない。
 最初は少しダルイかもしれないが慣れれば、気にならなくなる」
「そうか…よかった」

 心底ホッとするシズカにナツミとはるがそれぞれ声をかけた。
 スカルが、ただ…と言ってナツミに目を向けるとナツミの顔が引きつった。

「ここは光の世界だから闇以外に害はない。
 だがナツミは闇の血も混ざっているから少し体力の減りがあるはずだ」

 スカルに言われて、自分の体が少しダルく感じるのはそのせいだとわかった。
 あまり大したことではなく安心した。
 ライは、スカルの話が終わるとヴァンパイアのことについて説明し始めた。

「人間界でのヴァンパイアの概念はほとんど違ってたりする。
 まぁ、あっているのもあるが…傷の治りは人間界よりも遥かに早い。
 治癒力が消耗されてしまうと治りにくくはなるがな」

 治癒力といわれて3人は自分の手を見た。
 人間のころとあまり変わっていないようでも、そういう部分は変わってしまっているのだとしみじみ思った。
 
 ライは、そのまま話をすすめる。

「あとは…ヴァンパイアの世界は位があって、上から王族・貴族・平民・レヴァントとなっている」
「レヴァント?」

 聞きなれない言葉に3人は頭の中でぐるぐると考えてしまった。

「レヴァントは元人間だ」

 リークは3人に教えた。
 レヴァントは元人間のことで、純血種にかまれると血に飢えるヴァンパイアになるようだった。
 人間は、始めは理性を保てていることができるらしい…だけど、時間を経ていくと理性が消え血だけを求める化け物に変貌するという。
 そうなってしまった人間は助けられない。

 純血のヴァンパイアは、同じ世界で同じ血脈をもつヴァンパイアが交わって生まれるもののことだった。
 それは、ほとんど王族で貴族以下は人間と交わって生まれたものが多い。
 混血種というナツミのような存在もごく少数だがいるらしい。
 ただ、どちらかの血の力にかたよることが多くナツミのように均等に力が存在しているのはいなく、ナツミぐらいだという。

 ライは、話を変えヴァンパイアの食するものを教えてくれた。
 

「俺たちの動力は血だ。
 大体喉が渇き始めたら血をえるようにしろ…ただし…」

 ライの瞳が鋭くなりシズカを見た。
 シズカはばつが悪そうに目をそらした。

「自分の血を飲んだって飢えは満たされないからな」

 その言葉にシズカはぐっと拳に力を込めた。
 スカルは、その手に自分の手を重ねた。
 シズカが驚いて目を向けると、スカルは優しげな目でシズカを見つめていた。

「うちは…」

 シズカは顔を下に向けて目を強くつむった。
 はるとナツミが心配そうにシズカの名を口々に呼んだ。

「うちは、これ以上スカルをキズつけたくないんだ!!
 もう、あんな思いをするのはイヤだ!!」

 そう言い放つといきなり立ち上がり部屋を出て行った。
 スカルが驚いてシズカの名前を呼んだ。

「シズカっ!?」
「やれやれだな、そこまで傷を作る訳ではないのにな」

 ライの言葉に、はるは立ち上がってライに切なげな目をむけた。

「ライさんにとって小さな傷だとしても、シズカさんは大きな傷になるんです…。
 シズカさんはきっとこの中で誰よりも大切な人が傷つくのは耐えられないんです」

 そう言って、シズカの後を追うように部屋を出ようとすると目の前にイアルが現れ剣先を突きつけてきた。
 はるは一瞬驚いたが、すぐにイアルを睨みつけた。

「大地の世界の姫君、少し口が過ぎたようだ。
 ライ様に向かってそのようなことを言われるのであれば俺は許さない」
「イアルっ!」

 リークの静止も聞かずイアルは、はるを射抜くように見た。
 そんなイアルを止めるようとライが口を開きかけたときだった。
 ナツミがイアルの方を向いた。
 そして…

「剣をおさめて、イアル」

 瞳が赤く輝き、空間が冷えわたった。
 イアルは渋々というように剣をおさめ脇に退いた。
 そしてはるは急いで静かの後を追っていった。

 静かになった空間に口笛が響き渡り、そちらを向くとリークが微笑んでいた。
 しかし目が笑っていない。

「さすが俺らの姫君、自分が力を使った事も分かっていないようだ」
「はっ?」
「本当に分かってないのか」

 スカルがため息をつくとキリクがナツミの横に来て黒いバラを1本差し出した。
 ナツミは意味が分からずそれを受け取ると花とは思えない冷たさに驚き花を落としてしまった。
 バラは、ガラスが割れるかのように音をたてて砕け散った。
 キリクは、ナツミの前に来るとバラに目をやって口をひらく。

「姫君、これはあなたの特殊能力です。
 物をこおらせてしまう事が出来る力。
 今は無意識に使われたようですが。」
「無意識…今はただはるが危ないと思ってて」

 ナツミは考えるように額に手をやった
 自分にそんな力が合ったとは思わなかった。

「貴族以上は全員特殊能力を持っております。
 あと自分の世界の力も…。
 姫君は光と闇ですから、きっとどちらもお使いになれるはずです。
 力に関しては、この世界になれてからはる様とシズカ様とともに練習いたしましょう。」

 キリクの言葉は説得力があり、ナツミはうなずいた。

「イアルの事はお許しください。
 僕もイアルもライ様に命を救われたのです。」
「キリク、やめろ」

 キリクは苦しそうに胸をおさえた。そしてとぎれとぎれに話を続ける。

「僕は、してはならない事を犯しました。
 許されない…罪を」
「よせと言っているだろ」

 ライの言葉にキリクは口をつぐんだ。
 よほど苦しい過去なのだろうか。
 キリクからは冷や汗がにじみ出ている。

 その場の空気があまり良くなく沈黙が続いていたが、いきなりリークが立ち上がりナツミを立ち上がらせた。

「リーク?」
「かた苦しい話はまた今度。ナツミ、部屋に送る」
「でも、はるたちが」
「大丈夫だよ」

 ナツミが渋々うなずくとリークに引っ張られるようにして部屋を出た。
 ライは2人を見送ってから大きなため息をつきスカルはただ黙って目を閉じていた。
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