小説内容

□第四話
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 神聖樹の枝がみんなにむけて枝をのばす。
 スイルは舌打ちをした…どう考えても今出している精一杯の白銀の刃では防ぐことは不可能だ。
 みんなが枝の攻撃を受ける瞬間「ストップ」と凛とした声が辺りに響き、神聖樹は動きを止めた。

「いいこだなぁ」

 はるが、その声に目を開けるとそこには緑の髪をサワサワと揺らした。
 懐かしい人がそこに立っていた。

「緑木…」
「はる〜、久しぶり」

 緑木は昔のようにニッコリと笑う。
 どこか抜けているのは、どうやら変わっていないようだった。
 
「にしても…みんな、どうしてそんなにボロボロなの?」

 緑木は首をかしげている。 
 全員して開いた口がふさがらない。
 スイルがイライラした様子で緑木に目をやる。
 しかも、緑木は神聖樹の枝を撫でている。

「な、なぁ」

 リークが声をかけると緑木は目を輝かせてリークの顔をみた。

「リーク〜!!ひさしぶりだぁ!!」
「あ、あぁ…ひさしぶり…。それよりも、お前神聖樹を…」

 リークの問いに緑木はニコニコとした笑みをうかべて、とんでもないことを口にした。

「なんか気に入られちゃってさ!仲良くなった!!」

 その言葉に全員が驚きの言葉を漏らした。
 そんな、みんなを気にすることなく緑木は言葉をつづける。

「起きようと何回かしたんだけどさ…そのたびに神聖樹にとめられちゃったんだよね」

 みんなは、もう呆れてものも言えなかった。
 緑木の言うには、神聖樹で体を癒している間、少しずつ仲良くなったらしい。
 神聖樹は緑木を気に入り傷を癒している間とまるはずだった身長ものばしてくれたようだった。
 気に入られたのはよかったのだが起きようとするたびに拒まれたようだった。
 10年前には起きられていたはずなのだが、ずいぶんと寝坊をしてしまったと緑木は笑いながら言った。
 そんな様子をリークはワナワナと拳をふるわせながら聞いていた。

「ってことなんだよ。ごめんなぁ…僕のせいで」
「緑〜〜〜木〜〜〜」
「こ、こわいよ…リーク」

 緑木はブルブルと体をふるわした。
 はるは、そんなやり取りをみていて全然変わっていないと思った。

「さわがせやがって〜〜!!!」
「だ、だってさぁ…」

 緑木が涙目になってリークを見る。
 まだ、緑木には幼さが残っているようだった。
 しかしライがきた瞬間、緑木の顔に緊張がはしり顔がこわばった。

「ライ…」
「緑木、すまなかった」

 ライの言葉が意外だったのか緑木は、少し目をみひらいてライを見ている。
 ライが申し訳なさそうな顔をしているとリークも緑木をみた。
 そこには幼馴染としてのリークではなく闇の王・ライにつかえる従者としてのリークがいた。

「緑木、俺からも謝る。俺の王を許してやってくれ。ライもなりたくてなったんじゃないんだ」

 リークは緑木に頭をさげる。
 その様子を他のみんなは静かにみていた。
 緑木は少しの間だまっていた。
 リークは緑木の様子をうかがおうと顔をあげると緑木と目があった。
 すると、緑木はいつものように笑みを浮かべた。

「はるちゃんが無事ならいい!」
「緑木、ありがとな」

 リークがお礼を言うと緑木はお礼なんていいといった。
 優しさを目にたたえていて、嘘をついているわけでもなさそうだった。
 緑木は、それからはるのそばに歩み寄ると、はるの傷を見た。

「だいぶ治ったね」
「えへへ…やっぱり、足手まといになっちゃった」

 はるが辛さを隠すように笑うと緑木は困ったように笑った。
 はるが辛いということは緑木にもわかる。
 でも、はるが戦う力を持っていたら無茶しかねない。
 だから緑木は、はるがあまり力を持っていなくてよかったと思っている。

「はるには、はるの役目がある。それができればいいよ…無理に戦おうとしないで」

 緑木は、はるを傷つけないようにうまく言葉を考えて口にした。
 あまりはるに自分のことで失望させたくなかった。

「そうだね…。あっ、緑木…緑木を助けてくれたの、なつみんだよ」
「なつみん?」
「私の友だち」

 そういってニコっと笑うとナツミの方に目を向けた。
 ナツミをみて、緑木の顔がこわばる。

「混血…しかも…」

 緑木はナツミの中に闇の力を感じていた。
 それも多大なほどの…。
 そして悟る…自分の力が及ばないであろうことに。
 
 緑木の目つきが険しくなる。
 ナツミも何かを感じ取ったのか緑木に近づこうとしない。
 ナツミが黒妖剣を手にしていることを知ると緑木は手に力をためこんだ。
 それに気づくと、スカル・スイル・リークが2人の間にわって入った。
 スカルが警戒するように忠告する。

「緑木、その力おさえろ」

 スカルの言葉にスイルは不敵に笑う。
 スイルはもう白銀の刃を手にしている。

「いつでも息の根を止めてあげるよ…大地の分際で俺の大切な子を傷つけようなんて…」

 スイルは本気だった。
 嫌悪感を露わにしスイルは緑木を見据える。
 緑木も自分の周りに葉を漂わせた。
 葉の先端は刃物のようになっていて、簡単になにかを切ってしまえそうだった。

「スカル、スイル待ってくれ…緑木も力をおさめてくれ」
「リーク、俺に指図しないでくれる…この緑野郎は俺の手で殺す」
「スイル」

 敵意むき出しのスイルにリークは困ったように名前を呼ぶが聞き入れそうにない。
 スカルに目をやって、なんとかスイルの力を消すようにアイコンタクトするとスカルがスイルをなだめた。

 リークは、それをみてからナツミを気にしつつも緑木の前に歩み出る。
 ただ少し、リークからは闇の力が漏れ出ていた。

「緑木、頼む。俺たちにとって、こいつは次の主になる存在…たとえ、緑木でも刃を向けなければならなくなる。俺は、そうなるのを避けたい」

 リークが懇願するように言うと緑木の周囲の葉は消え警戒がとかれた。
 ほっとした表情をうかべリークは、あとでゆっくり話そうといった。
 緑木もそれにうなずく。
 スイルとスカルは、まだ気を許せていないようだった。

 みんなの体力が回復したところで光の世界に帰るためにイアルが道を作った。
 みんながその道に足を踏み入れる中、緑木はふと神聖樹の方を向いた。
 神聖樹が悲しげに枝を風で揺らしていた。

「ありがと」

 緑木がそういうと神聖樹は淡く輝いた。
 緑色の淡く光る球がとんできて緑木の中に吸い込まれていった。

「えっ…?」

 緑木が驚いて自分の体をみていると光の世界へ続く道の中から、はるが緑木を呼んだ。
 緑木は返事をして1度、神聖樹の方を向いてから道の方へと走っていった。

 神聖樹が風に揺れる。
 穏やかな空気がそこにあった。
 そんな神聖樹をリバルはみあげていた。

 光の世界につくころには、みんなの傷は癒えていた。
 しかし、疲れがたまりそれぞれ大きなため息をついて、のびをしたりして体をほぐした。

「はる、大丈夫?」
「大丈夫だよ。もう平気。まひろさんは?」
「私は全然大丈夫」

 まひろは、はるの言葉に安心したようだった。
 それから、リークの診察を受けたがはるに異常は見当たらず大丈夫とのことだった。
 はるとまひろが話している中、ミナミは1人考え込んでいた。

(リバルが動き出した。だとしたら、私はもう…)

 全員の方に目を向けた。
 楽しそうに話していたり笑っていたり自分がこの生活を崩してしまうと思うと胸が痛かった。
 まひろがミナミに気づいて、そっと微笑みかけてくる。
 ミナミは、そんなまひろに微笑み返した。

(もう、笑いかけてはくれない。私が、そうさせる…)

 自分ですることだから、後悔はしないはずだ。
 自分で決めて、みんなにショックを与えるようなことをする。
 もう、この中には戻ってはこられない。
 腹を決めなければならない、そう思った。
 なにか助けなければならないものがあるなら、それを助けるために何か大事なものを切り捨てなければならない。
 私には、それができる…できてみせる。
 どこまでも冷たく冷ややかに…冷酷になってみせる。
 どこの誰に対してでも…。
 それが、自分に対してであっても。
 …私は、もう決めたのだ。
 みんなの関係と引き換えに、私はなすべきことをなす。

 そう考えていると、この部屋にいづらくなった。
 いずれ、裏切るのだからなれ合う必要なんてどこにもない。
 ミナミは、そう思い共有スペースであるリビングから自室へと戻っていった。
 そんな様子をまひろは何も言わずみていた。

「そういえば2人は?」

 はるが、部屋を見回しながら言った。
 はるが言う2人とは、リークと緑木のことだろうと思いみんなも部屋を見渡すが2人の姿はない。
 スカルが静かに口を開く。

「2人なら外だろう…さっきリークが緑木に話があると言って外に連れ出していたからな」
「そうですか…」

 少し残念そうにうつむくはるを見てシズカがはるの背を叩いた。

「会えないわけじゃないだろ!いつだってもう、あの2人に会えるんだから…男同士、話したいこともあるよ!」

 シズカは、そういって何回もはるの背を叩いた。
 はるは、うなずきながらも「痛い…」と言っていた。

「ナツミもいない…」

 スカルの横でスイルがボソリといった。
 そして、スカルが声をかける前にスイルは部屋を出て行ってしまった。
 スカルは、そんなスイルを横目で見て小さく息をついて、また目をとじた。
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