小説内容
□第四話
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自分の首にまわされたイアルの手に力がこもって、もうダメだと思ったとき、手が離された。
せき込みながら、イアルを見ると冷たい視線を向けてきていた。
「スカル様の大切な者でなければ殺している…次にライ様を侮辱するようなら仕留める」
それだけ言い残すとイアルは身を翻し部屋から出ていった。
酷い咳を繰り返し呼吸を整えていると、スカルが走ってきた。
「シズカッ!」
シズカの血の匂いを嗅ぎつけたのかスカルは血相を変えて、そばによってきた。
シズカの様子を見て、スカルは何かを思案するとシズカに問いただした。
「こんなことをするのは…イアルか?」
「あぁ…そうだよ。全く…殺されるかと思ったんだからな…」
ゆっくりと呼吸を繰り返しスカルを見る。
スカルは本当に心配していたが、なぜかスカルはイアルの変わりのように謝ってきた。
「なんで、スカルが謝んの…?」
「イアルを許してやってほしい」
「はぁっ!?」
いきなりの言葉に、シズカは素っ頓狂な声をあげた。
「うちを殺そうとした奴を許せって?」
「イアルにはライしかいないんだ…。あいつはずっと従者として育てられた。
俺たち王族につかえるものとして…だから、あいつはライを自分の命に代えても失うわけにはいかないって、いつも思ってる」
イアルには、ほかにも辛い過去があるというが、スカルはそのことについては何も言わなかった。
ただ、ライと衝突するたびに殺されかけてはたまったもんじゃない。
「あのさ、べつに許すとかはいいんだけどさ…ライと言い合うたびに殺されかけるのは困るんだけど…」
シズカが恨めしそうにスカルに言うと、スカルは苦笑気味にイアルには注意しておくと言った。
シズカもイアルによほどこたえたのだろう…すごく嫌そうな顔をしている。
「…で、スカルは何しに来たの?」
そういわれて本題のライのことを忘れていたことをスカルは思い出した。
シズカには俺がライのことできたということがわかっているようだ。
シズカの顔がくもる。
「シズカ…」
「わかってるんだよ…うちだって」
「えっ…」
シズカの言葉にスカルは首をかしげる。
まだ自分は何も言ってない…シズカは何がわかっているのだろう?
シズカに聞くことなく、シズカが話すまでスカルは待っていた。
シズカは重々しい口を開く。
「イアルが言ってたんだ…お前にライ様のなにがわかるんだって。…逆にうちのなにがわかるんだって言ってやったけど、
イアルがうちの気持ちを知らないようにうちもライの気持ち知らないんだって」
「…ライは、狂いたくて狂ったわけではない」
「わかってる…ライにも、うちの親殺さないとならない理由があったってことは…」
シズカはうつむいて手に拳を作って強く握る。
そして、唇をかみしめた。
「うちは…親が嫌いだ」
「あぁ…知っている」
「けど…それでも、うちの親だった。
うちを利用するためでも、うちを大切に育ててくれたんだ」
シズカは泣きそうな顔をしていたが泣かない。
唇がかみ切れるほどかみしめていた。
シズカは、いつも泣かない。
きっと、シズカの中ですごい葛藤が繰り広げられているんだろう。
どんなに嫌いでも、シズカにとって親は親でしかなかった。
嫌いなことに変わりはないのだろうが利用するためとはいえ、育ててくれたのは事実だった。
そして、ライを許さなければという気持ちも心の中で渦巻いているのだろう。
「ライはナツミを守りたかった…それだけだ。
家族が大切だったんだ」
「…うん。スカル、少し1人にしてほしい」
シズカの言葉にうなずくと、一瞬ためらってシズカの唇についている血を手でふき取って舐めると部屋をでていった。
男が苦手になってしまったシズカはスカルに触られて、しばらくそのまま固まってしまっていた。
そのころ、はるは城の中を歩いていた。
ライの話からするに、ここは光の世界だ。
そのおかげか体は辛くない。
大地の世界は光の世界と共存しているような関係だ。
お互いの世界がお互いを必要としている。
すっかり暮れてしまった空を見上げて、はるは複雑な気持ちを抱えたままため息をついた。
前から人が歩いてきて、ぼんやりとその人を見た。
その人は私と目が合うと、驚いたように目を見開いて足早に近づいてきた。
外見は30代ぐらいの女性だった。
「はるちゃん?」
そう私の名前をよぶ女性を不思議そうに見ていると後ろからリークがはるに声をかけてきた。
「はる〜」
「あら?リークじゃないの」
その女性は、そういってキョトンとした顔をした。
リークが、ゲッと嫌そうな声をあげた。
そして嫌そうな声と共に、その女性をみていう。
「母さん…」
「あっ…リークのお母様!」
はるも思い出したように女の人を見つめる。
リークのお母さんは、はるの手をとって微笑む。
「大きくなったのね〜。きっと、あなたのお父様もお母様も喜んでいるわね。
もう、ライ様にはお会いになられたかしら?」
「母さん!?」
リークが声をあげるのとともに、はるは控え気味な笑みを浮かべてうなずく。
その顔をみて、リークの母・シュナは何かを察するとはるの手をひいた。
「えっ…」
「久しぶりだし少しお話ししましょうか」
「あっ…はい」
「リークは来たらだめよ」
シュナの言葉に意味が分からないというように眉間にしわをよせたが、母がこういったら聞かないということをわかっているのでリークは、それ以上何も言わなかった。
シュナにつれられ来たのは、テラスだった。
いつのまにか城の執事が紅茶を淹れてくれている。
「座って、はるちゃん」
「は、はい」
席につくはるをみてから、シュナも席についた。
「もう、はるちゃんって呼んだら失礼ね。
大地の世界のお姫様だもの」
「いえいえ…私、まだまだで未熟ですから」
はるは、ライの言葉を思い出してうつむいた。
シュナは目ざとく、はるの1つ1つの動作を目にとめる。
「ライ様に何か言われたの?」
「えっ…そうじゃないです…」
「そう…。親って大変よね」
にこりと笑って、はるの顔を見ながらシュナは言った。
シュナの言いたいことがわからなくて困ってしまう。
「親って、誰でも自分の家族を守らないとって思うのよね…。
まだ、はるちゃんにはわからないかもしれないけど…自分の子供ならなおさら」
「そう…なんですね」
「あなたの両親も、他の王や姫も…そしてライ様もカエデ様も」
その言葉に、はるは弾かれたようにシュナの顔を見た。
シュナの顔に笑みが消えた。
真剣な表情で話している。
「はるちゃん、姫君はライ様にとって大切な子ども。…あなたの両親があなたを大切に思っているのと同じように。
あなたの両親もあなたが殺されることになったらライ様と同じように戦うでしょう」
そういわれて、自分の両親を思い出す。
両親は、いつも危ないことがあれば身を呈して私を守ってくれた。
きっと、ライさんも同じだったのだろう。
だとしたら、ライさんと自分の両親はお互いの大切な者を守るために戦っていたのだろうか…。
「はるちゃんは理解が早いようでうれしいわ」
はるの様子を見て、シュナは笑う。
シュナの言いたいことは、自分が今考えていたことなのだろう。
「私の考えていることわかるんですか?」
「いいえ…けれど、あなたの顔を見ていればわかる。表情がコロコロ変わるんだもの。
今は、すっきりしていい顔してる」
そんなに私は悶々としていたんだろうか…シュナさんは人をよく見ている人だから、そういう顔をしていたんだろう…。
「あなたたちの両親を殺すとき、ライ様は覚悟をされたの…」
「覚悟?」
「あなたたちが自分や世界を守れるようになるまで、責任をもって育てるって。
一世界の姫として、ちゃんと育つまで命をかけて守るとも言ってた。
だけど、やっぱり反対してたのよ?
ライ様はなりたくて狂ったわけではない…そこまでする必要ないんじゃないかって、王族の誰もが反対した。
なのに、ライ様ッたら強情で…」
シュナは、困った王だといって笑った。
でもシュナの顔は穏やかで、それからライのもとにいれば気づくこともあると言って、はるに少しライのもとに行ってみるのは、どうかと提案してきた。
「それじゃあ、私はもう行くね。
はるちゃんが、元気そうで良かった…あなたのお母さんにそっくりになっちゃって」
クスクスと笑うとシュナは、はるの前から去っていった。
リークが姿を現し、はるのそばによる。
「母さん、変なこと言ってないだろうな…」
困った人だと言うリークを見ながら本当に親子仲がいいのだと、はるは思っていた。
愚痴をこぼすリークをみて思わず笑みがこぼれる。
「何笑ってるんだよ…」
ムスッとむくれながら言うリークになんでもないと、はるは笑った。
そして、笑いをけして言う。
「リーク、私ライさんのところに行ってくる!ライさんは、どこにいるの?」
「えっ…あぁ、ライなら今ごろ自分の部屋で公務を…」
「ありがとう!私行ってくるね!
リークは、ついてこないでね!」
はるは、素早く走り去っていく。
一瞬ポカンとしていたリークはハッとしてムカッとした。
「母さんもはるもなんなんだよ!」
そう言いつつも、はるの中で変化が起きたことを知って眉をよせて笑う。
「母さんもおせっかいだよな」
はるの走っていった方向をみて、どうかはるがライを理解できるようにと願っていた。