小説内容

□第四話
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 扉を開けると、そこには見なれぬ4人がいた。
 その内、2人はどこかはるとシズカに似ている。
 しかし、2人とも似ているが髪の色と目の色が違うし雰囲気も変わっている。
 すると、2人の男性が目の前にかしずき頭をさげた。
 ナツミは、突然のことに驚きを隠せない。

「えぇっ!?な、なに…」

 慌ててライを見るが肩をすくめて笑うだけで何もいってくれない。
 困り果てていると、2人の男性のうちの長髪でリボンで後ろに髪の毛を結っている人が口をひらいた。

「姫君、お久しぶりです」

 それに続くように、もう1人の短髪の男性が挨拶の口上をのべる。

「お元気そうで何よりにございます。
 姫君がこの世界に戻ってこられたことに心より、お喜び申し上げます」
「は、はぁ…」

 2人からのいきなりの挨拶に溜め息しかでない。
 だれか分からずに首をかしげているとキリクがナツミの隣に来ると、闇の王・姫に仕える補佐の者だと教えてくれた。
 リークとスカルは立ち上がって頭をさげた。

「俺は王の補佐、スカル・オスクリタと申します。
スカルと呼んでください」
「同じく王の補佐、リーク・ノクトと申します。
リークと呼んでください」

 リークという名前に聞き覚えがあった。
 ジッとリークをみると昔兄のように慕っていた人だと言うことを思い出して、目を輝かせる。

「リーク!」
「おっ!思い出したか!?」

 リークがニッと笑う。
 スカルが目をすがめてリークに姫君への言葉遣いが悪いと指摘した。
 しかし、そんなスカルをナツミは止めた。

「いいよ、スカル。スカルも普通にナツミって呼んじゃって」

 困ったように何かを言おうとして言い淀むスカルの肩にリークが腕を回す。

「ナツミが良いって言ってんだから、そう呼べよ!」
「リーク、無礼にもほどが…」
「いいからいいから!!」

 そんなやり取りが何回か続いたところで、スカルがおれた。
 スカルは言いにくそうに話し始めた。

「えっ…と、姫…じゃなくてナツミ、無礼を承知でたまに名前で呼ばせて貰う」

 名前で呼んでいるのにかしこまるスカルにナツミは、かわいた笑い声しかたてられない。

 ふと、スカルとリークの後ろにいる2人の女の人に目がいく。
 これまた分からないという顔をすると青い髪の短髪の人が笑う。

「ナツミ、うちだようち」

 その声で、青い髪の毛の人がシズカだということに気付いた。
シズカの髪の毛と目は青くなり、まるで別人のようだった。
 シズカの目線が薄めの金髪の髪を持つ子にうつる。
 私の知っている限り、こんな子はいないがおそらくシズカと共にいるということは…と考えて1人思いつく人がいて、おそるおそる聞いてみる。

「あの…もしかして、はる?」

 そう聞くと、その子はにっこりと笑ってうなずく。

「なつみん、びっくりしてるね」

 クスクス笑うはるも、ずいぶんと変わっていた。
 はるの髪は薄めの金髪で目は黄色だ。
 あまりの変わりように、ため息しかでない。

「ナツミもずいぶん変わったなぁ…」
「ほんとだねぇ…なつみんが1番人間界で言うヴァンパイアに近いかも」

 シズカとはるが私を上から下まで見ながら言った。
 確かに目は赤くなって、髪の毛は金髪になった。
 でも、中身は変わってないから実感がわかない。
 みんな、それぞれ生まれた世界にそった見た目に戻ったというほうがいいだろう。
 もともとは、髪も目もこの色だったんだから。
 
 ふと、シズカとはるの顔がこわばった。
 2人の視線の先にはライがいる。

「ライ…」

 シズカは警戒心をあらわにし、ライを睨み据える。
 はるもおびえたような顔をして、顔を背けてしまった…それも仕方のないことだった。
 シズカもはるも両親を殺されている。
 はるは、目の前で両親の亡骸を見て、しかも幼馴染の緑木を殺す寸前にまでした人だ。
 スカルとリークが、それぞれ2人を落ち着かせるように声をかけるがライは何も言わない。
 
「お父様…」

 ナツミもライがはるたちの親と戦っているのを見ていた。
 お互いが大切な家族のため…あるいは、自分の世界を守るために戦っていた。
 ナツミが不安そうな顔をしているのを目にとめると、ライは安心させるように微笑むだけだった。
 
「俺のことを理解しろとは言わない」

 ライは、シズカとはるにそういった。
 2人の親を手にかける時に既にシズカとはるから疎まれることは承知の上だった。
 自分のことを理解してもらおうとも思わない。

「ただ、これだけは言っておく…。俺はシズカとはるが自分の世界をまとめられるよになるまで、この光の世界で面倒をみる」
「はっ…?」

 シズカは、信じられないというように声をあげる。
 はるも、驚きで言葉が出ないようだった。

「シズカ、お前たちではまだ姫君としては未熟だし、この世界のことも分からないだろう」
「だからって…!!」

 スカルの言うことは最もだった。
 だけど、なぜそれを自分の両親を殺した奴に教えてもらわなければならない…。
 自分たちに対する償いだとした余計なお世話だ。
 シズカは苛立ちを隠せずに部屋をでていく。

「シズカさん!!」

 でていってしまったシズカの名前をはるが呼ぶがシズカは戻ってこようとしなかった。
 すぐにスカルがシズカのあとを追っていく。
 はるは、悩んだ顔をして立ち上がるとライに目を向けた。
 怖くて足がすくんでしまう…。

「ライさん…ごめんなさい。私は…」

 はるは、それ以上何も言わずに足早に部屋を出ていってしまった。
 リークは、はぁとため息をもらしライに目をやった。

「簡単にはいかないよな…ライ」

 それだけ言って、どこかやるせない顔をして急いで部屋を出ていった。
 ライはソファに座ると、目を閉じて黙り込んでしまった。

「お父様、私はお父様の気持ち知ってるから」

 事実を知っている自分だけは、せめて理解をしてあげたいと思った。
 自分はライの悲しげな顔も悲痛な叫びも知っている。
 理解してもらおうとは思わないとライは言ったけれど、本当は知ってほしいと思っているはずだ…だって、ライはそんなに強くはないから。
 お父様は必死だった…お母様と私を守るために。
 
「カエデ…」

 ライがおもむろに亡き母の名前をつぶやいた。
 今のライの気持ちは、きっとたとえきれないほど辛いものだろう。
 ライは、おそらく誰よりも自分のしてしまったことを悔いているとナツミは思った。

 シズカは、自分の部屋に戻ってきていた。
 ライを許すことができないのは、なにも両親を殺されたからではない。
 両親のことは、昔から受け入れることができなかった。
 自分を海原の世界の発展のためだけに必要としたから。
 必要とされる分だけいいと思う人もいるかもしれないが、ものとしての扱いで必要とされても心は荒んでいくだけだ。
 けれど、こんなうちでもスカルは守ると言ってくれた。
 そんなスカルがうちを守るために傷ついた。
 あの時のライは尋常ではないと、小さいながらにわかっていた。
 あのライをとめるには、多くの痛みと傷をスカルはおっただろう…。
 ズキリと胸がいたむ…ライがあぁならなければ、スカルは傷つかなかった。
 自分が人間界にいって、育ての親となってくれた人に迷惑をかけることはなかった…。
 本当の子供でもないのに、思い込まされ利用してしまったことになる…。
 考えれば考えるほど、ライが…と考えてしまう。
 
 ライにも、きっと理由があるとライの顔を見ればわかるのに…。

 コンコン…と扉をノックする音が聞こえた。
 今は、誰とも話したくはなかった。
 自分の心はドロドロとした嫌な感情にのまれてしまっている。
 こんな気持ちのままで話してしまったら、その人に嫌な思いをさせてしまうだけだ。
 返事をしないでいると、扉がゆっくりと開いた。
 そこにいる人を見てシズカは目を見開く。
 扉の所には、目を赤紫色に輝かせたイアルが立っていた。
 抗議の声をあげようとしたところで、首にイアルの手がまわされた。

「お前…」
「ライ様のことを何も知りえないお前がライ様に、あのような口を…許さん」

 イアルの主はライだ…ライを1番に思うがゆえにイアルのとった行動だろうとシズカは直感的に思う。
 イアルの手で縛られて苦しく声をだすのも、やっとだったがシズカは声を荒げる。

「お前こそ、うちの何を知っているんだ…何も知らないのは、お前もだ」
「お前はライ様の血で飢えないようにしてもらったのに、恩を仇で返すか…」

 ギリッとイアルの手に力がこもる。
 シズカにはイアルの言っていることがわからなかった。
 ライから血をもらったことなんてあっただろうか…。
 
 イアルが言っているのは、まだシズカが人間で人間界にいたころのことだった。
 3人の中で誰より早くヴァンパイアの本能に目覚めかけ苦しむシズカに、ライは人間界でやり残したことができるように血を与えていた。
 飢えの衝動を少しの間でもおさえられるということでライは血をくれたのだが、シズカは気絶していた上に、ナツミたちはライがシズカに血を与えたことも話していなかったので、シズカには分かりえないことだった。

「ほざくな…小娘が…」

 イアルの爪がのび、シズカの首に刺さる。
 まだ傷は浅いが血が出てきていた。
 このままでは喉をさかれてしまうと恐怖を感じた。
 
「お前の減らず口を叩けないようにしてやる」

 もうダメだと思った瞬間、頭の中にスカルのことが浮かんだ。

「スカル…」

 目を閉じて、シズカはスカルの名前を呼んだ。
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