小説内容

□第三話
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 大地の世界は自然豊かな世界だった。
 あたたかい月光が地に降り注いでいる。
 朝に来てもよかったが、相手は神聖樹…もし何かあったとき戦力となる闇が動きづらいと困るということで夜に訪れていた。
 久しぶりの大地の世界の空気を、はるは胸いっぱいに吸った。

「さて迎えに行くか」
「うん!」

 リークの言葉にはるが力強くうなずく。
 そんな2人に続くようにして、みんなも歩みを進めた。

 歩き続けていると、空気がだんだんと変わり始めた。
 みんなの中に警戒心が生まれる。
 しばらく進んでいくと目の前に大きく太い大木が立っていた。
 その木からは、明らかに他の木と違う力が感じられる。

「大きい」
「これが神聖樹…」

 まひろとミナミが、それぞれに声をあげる。
 目の前にそびえたつ神聖樹からは威圧感が感じられる。

「なぁ…あれじゃない?」

 シズカが指さす方向に木の枝に絡まれている人の姿があった。
 その人を見て、はるは息をのんで「緑木」と言葉をもらした。
 大きく見開かれた目からは涙がこぼれ落ちていく。
 緑木は大人の姿だった。
 緑木は眠りながらも成長していたようだった。
 はるが動けないでいるとナツミが指を鳴らし黒妖剣を出現させた。
 そして、鞘から剣を引き抜くと緑木に絡みついている枝に向かってとびかかった。
 スイルが焦って声をあげる。

「ナツミッ!!だめだ!その木はっ!!!」
「えっ…」

 スイルが言った刹那、神聖樹の枝がうねりはじめ空中に飛び上っているナツミを払い落した。
 弾丸のようにナツミは地上にたたきつけられる。

「ナツミッ!!」

 スイルが誰よりも早く動き、ナツミに駆け寄るとナツミは大量の血を吐き出した。

「っ…。ごめんね…神聖樹を刺激しちゃったみたい」
「ナツミのせいじゃない…神聖樹は、僕たちがここに来たときから僕たちを警戒していた。
 困ったことに、簡単には緑木を返してはくれないみたいだよ」

 スイルは、神聖樹を見上げていった。
 数十本の太い枝がうねり、いつでも攻撃に転じられるようになっている。
 神聖樹の攻撃は早く重い。
 しかも、木の枝1本1本が太いためによけたとしてもあたってしまう可能性が高い。
 困ったようにナツミは神聖樹を見上げた。
 口の周りについた血をふき取り黒妖剣をかまえなおす。

「こうなったら、全員でかかるしかないな…」

 スカルが珍しく舌打ちをした。
 ライは冷静に神聖樹を見上げて、みんなに指示を出す。

「だれか1人が緑木を助けに行けばいい。
 他の奴らは神聖樹の枝をひきつけろ!!」
「でもっ…」

 はるの言いたいことは、その場にいる誰もがわかっていた。
 神聖なる木を壊せば大地の世界の人たちが自分たちを敵だと認識するだろう。
 神聖樹は大地の世界の人たちにとって、守りの木だ。
 みんなが悩んでいると、不意に誰のものでもない気配が漂った。
 気配のもとをたどり向くと、神聖樹の枝の上に1人の男が乗っている。
 ライとミナミが憎らしげに、その男をにらみつける。

「俺の木を壊そうとするとは…罰当たりな奴だな」

 その人は馬鹿にしたように微笑んだ。
 その男をしらない人たちが戸惑いの表情を浮かべた。
 ライは、憎たらしくて仕方がないようで忌々しげに、その男の名前を言った。

「リバル…」
「あぁ…そうか。初めて会うものもいたな…。俺は、リバル…リバル・レーヴェン。
 大神だ。久しいな、ナツミ」
「リバル、いつの間にナツミに会って…」

 ライが信じられないような顔をする。
 リバルは、そんなライを気にすることなく地上へとおりてきた。
 ナツミはリバルが歩いてくる姿をみて、頭に手をあてた。
 どこかでみたことがある…ズキリと頭が痛む。
 その様子を見るなり、リバルは眉間にしわをよせた。

「ナツミ、まだ思い出すときではないよ」

 その言葉を聞いて、いつも何かを思い出そうとして阻んでくる声がリバルだと知った。
 今回も、いつもと同様リバルの声で頭痛がおさまっていく。

「リバル、それ以上近づくな…」
「なら、近づけないようにしてみろ」

 リバルの挑発に答えるようにライの瞳が金色に輝き、リバルの瞳が銀色に輝く。
 そうして、力と力がぶつかり始めた。

「ライが大神を相手にしているうちに緑木を助けに行く!!」
「わかった!」

 リークの言葉に、はるがうなずく。
 みんなは、それぞれ力を自分にまとわせると神聖樹にむかって走りだした。
 みんなの動きとともに神聖樹も攻撃を始める。

「いつも、穏やかなのに!」
「たぶん、闇の力を感じているからじゃないかな!?」

 はるの戸惑う言葉に、まひろが言うがスカルがそれだけではないと否定する。

「この木は、神の木…大神が俺たちの邪魔をしようと思えば、この木も動く!」

 神聖樹が3人にむかって、ものすごい早さで枝を振り下ろした。
 木の枝が振り下ろされる寸前に3人は、それをなんとか避ける。
 枝は土をえぐり、ゆらりとまた動き始める。

「まとまって動くのはマズいな…お前たち散れ!!」
「りょーかい!!」

 ライに変わってスカルが指示をだしシズカは返事をすると、みんなと距離をおく。

「枝を傷つけないでよ!」

 ミナミがみんなに叫ぶ。
 戦いに夢中になっていた人たちは、それを思い出して避けることに専念した。
 スイルは冷たい表情でミナミをみる。

「そんなこと言われるまでもない」

 スイルは、そう言いながら軽々と枝をよけた。
 
 ライは、ここに来る前にみんなに注意していた。
 神聖樹は、神の力の4分の1を有する木…4分の1とはいえ、力は相当なものだ。
 自らの枝が斬られれば同時に相手の体を傷つける力を持っている。
 だから、枝を斬れば斬るほど自分も傷つくことになる。

「枝を斬れないのはキツいな。
 どうせ、傷なんかすぐに治るんだ」

 スイルは、白銀の粒子を刃にかえると向かってくる枝を粉々に切り裂いた。
 切り裂くのと同時に頬が切れ血が一筋流れる。
 しかし、傷はすぐに治った。
 スカルは、それをみて闇の刃を枝に向ける。

「確かにスイルの言うとおり、逃げるよりもその方がいいな」
「仕方ない」

 スカルが枝を攻撃し始めるとシズカもそう言ってから海原の力で枝を切り刻み始めた。
 他の人たちも力を最大にあげ自分に向かってくる枝を見据えた。

 ライとリバルは互角の力をお互いにむけて飛ばしていた。
 お互いの力がお互いの体を傷つける。
 それでも、2人は戦うことをやめなかった。
 自分が傷つくことも、お構いなしに戦い続ける。

「俺への恩を仇で返すとは…ライ」
「てめぇに恩なんかない!リバルこそ、なんでナツミを…」
「なんでだろうな…」

 リバルは、ライの問いにそうつぶやいてから辺りに血のにおいが充満しだしたことに気付く。
 リバルは、あざ笑うかのようにライの攻撃をよけた。
 そして、リバルの瞳が強く輝いた。
 すると、今までナツミに1本も枝が向かっていなかったのに、いきなり多数の枝が襲いかかり始めた。

「ナツミッ!!」

 ライは、すぐに向かおうとしたがリバルによって阻まれた。
 リバルの笑みは深くなるばかりだ。
 ライは苛立たしく舌打ちをするとリバルに闇の刃をとばした。
 だが、ライの放った闇の刃は簡単にはねのけられてしまう。

 ナツミにむかって枝が集中したことに気付いたはるが危険を知らせるがまにあいそうにない。

「っ…!!」
「なつみん、危ないっ!!プロテクション!!」

 ナツミの前にはるが、すかさずプロテクションをはり枝からナツミを守ったが枝はプロテクションに絡みつき圧力を加えてくる。

「このままだと…」

 はるは、プロテクションを維持することに意識がもっていかれ、後ろから枝が迫っていることに気付かなかった。
 はるが気づいたときには、枝が目前に迫り空へとはじきとばされた。
 はるがはじきとばされるのと同時にプロテクションが壊れ、ナツミも枝に捕らわれてしまった。
 リバルがみんなに聞こえない声でつぶやく。

「その中にいて…」

 傷つくのを見たくない。
 たとえ、自分がどう思われていようとも…。

 リバルがナツミを捕らえたことに気づいたライから闇の力が沸き起こり、金色の瞳の中に赤紫色が滲みだした。
 それに気づいたスカルが焦る。

「マズイ…ライが暴走する」

 スカルは神聖樹を切ったせいでできた傷の周りの血を手の甲でぬぐった。
 傷はすぐにふさがるものの服や顔のあちこちは血でまみれている。
 スカルが止めに行こうとしたとき、枝を切り裂く音が聞こえた。
 音がした方に目をやるとナツミを捕らえていた枝が、こっぱみじんに切られていた。
 中からは血だらけのナツミが姿を現した。

「ナツミ…」

 リバルの言葉に我を失いかけていたライも正気を取り戻していた。
 
 ナツミは自分の血で握りにくくなった黒妖剣をしっかりと持ちシリウスを呼び出した。

「また、面倒事か…」

 呼び出されたことが嫌だったのかシリウスは背にはえている翼をはためかせた。
 そんな中シズカが苛立たしげに声をあげる。

「あっー、もうっ!」

 シズカは特殊能力である風を手にたくわえると向かってきた枝に放った。
 シズカは自分から血が噴き出すのを、おかまいなしに枝を切っていく。
 枝を切り終わると、その場に片膝をついた。
 血がボトボトおち土を赤く染める。

「いってぇ…」
「しずっ!!」

 心配そうに声をかけるナツミにシズカは笑って見せる。
 ナツミが安心したのも束の間、落ちてくるはるを視界にとらえた。

「はるが落ちてくる!しずっ…」
「任せて」

 枝に宙にとばされていたはるが落下してくる。
 シズカは風の渦を作り出すと、落ちてくるはるを風で包み込み受け止めた。

「あ…りが、と」
「はる!!大丈夫!?」

 シズカが急いで駆け寄る。
 外傷はないものの強く枝にはじきとばされたせいで、かなりの血を吐いたようだった。
 その様子をみてナツミはシリウスに向き直る。

「力を貸して、シリウス。私はみんなを守りたい」
「…力か」

 シリウスの向こう側でまひろが術を使い、いくつもの枝を防いでいる。

「量が多すぎる」
「切っても切っても減らない。これだと、私たちの体力の方が早くなくなる」

 まひろが防いでいた枝をミナミは切り落としていった。
 まひろは大きくため息をついて術を消した。
 まひろの体力も限界に近づいていた。
 
 キリクとイアルも枝の攻撃をかわしつつ枝を切っていく。

「キリク、後ろは俺がやる」
「ありがとう、イアル」

 2人は息があった動きで枝をきる。
 普段、動いている分体力があるようでまだ限界はきていないようだった。

 シリウスは周りを見渡してから仕方がなさそうに力を貸すと言ってくれた。
 そして人間体に変化する。

「力を貸してやる。お前が緑木を奪いに行け」
「わかった」
「じゃあ、ナツミはうちが空へとばす。いいよね?」

 シズカの言葉にシリウスがうなずく。
 2人が話しているとミナミが滅命剣を手にもち、そばにきた。

「なら、私が向かってくる枝を切り捨ててあげる」
「助かるよ」

 ミナミの言葉にシズカが微笑むと、ミナミは滅命剣をかまえた。
 シズカはナツミの足元に風をため込み始めた。
 体力を消耗しているせいか、風が少しずつしか集まってこない。
 ナツミは、その間ライの方を不安げにみていた。
 ライは、どうやらアリウスの力を少しずつ借りながらリバルと戦っているようだった。
 リーク、スカル、スイルがライの援護にまわっている。
 ふと、リバルと目があったがリバルはすぐにライたちへと目を向ける。
 はるには、まひろがついているので大丈夫そうだった。

「よしっ!!」

 シズカの声が準備できたことを告げる。
 ナツミは黒妖剣を強く握りしめた。
 頭上に迫りくる枝をミナミが切り落とす。
 視界が開けたのと同時にシズカがナツミの足音にためていた風を舞い上げた。
 ナツミが風に乗って飛ぶのと一緒にシリウスは背に翼を出すと空にむかってとんだ。

「緑木のもとについたら、下に落ちないように緑木に絡みついている枝をとれ!いいな!!」
「うん!!」

 シズカの風は、ちょうど緑木のところまで自分を舞い上げてくれた。
 すぐに緑木に絡みついている枝に手をのばしてつかむ。
 そばにあった枝が動き始めナツミを引きはがそうとする。
 そんな枝をすぐにシリウスが切りきざむ。

「シリウスの額が…」

 下から見ていたまひろがシリウスの額から血が噴き出すのを見て言う。
 シリウスは、そんな傷も気にすることなく主に向かう枝をひたすら切り落とす。

「それなりのリスクはあって当たり前だ。何かを助けるのならばな…」

 シリウスは、そういって鼻をならす。

(リスクなど、俺には関係ない!)

 闇の言葉に押されるようにして、緑木にまきついている枝を切り落としていく。
 片目が血で視界が悪くなる中、もう一方の目で緑木を縛る最後の枝をとらえる。
 最後の枝にナツミは黒妖剣を力いっぱいに振りおろした。
 緑木が落下していく。
 ナツミも落ちていく中、黒妖剣をしまうと落ちる緑木を自分に引き寄せ抱きしめた。
 自分は緑木のことを知らない…けれど、はるとリークの幼馴染というなら他に命を懸けて助ける理由はいらなかった。

(緑木は必ず…)
「ナツミ!!」
「シリウス…」

 シリウスは焦ったように声をだすと、自分の周りに漂う枝を一瞬にして消し去り急いで獣の姿に戻り落ちていくナツミを追う。

「緑木、起きて…はるとリークがまってる」

 ナツミの血が降ってくる。
 大丈夫といえる傷ではないことは確かだった。
 治癒力がおちたのか傷が、なかなかふさがらない。
 ライとリバルが落下する2人に気が付いた。

「なっ!?くそっ!!スイル、スカル!!」
「わかった」

 2人が助けに向かおうとして走り始めたが2人より先にリバルがライたちの前から姿をけしていた。
 そして、気が付くとリバルはナツミを抱えて地上に足をついていた。
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