小説内容
□第三話
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緑の髪が風に揺れる。
大木は、その者を守るかのように太い木の枝を絡ませていた。
その様子をリバルは口もとに笑みを浮かべてみていた。
唯一、リバル自身が来れる場所だ。
普段は神天世界からでることはできないが、神聖樹の周囲だけなら実体で存在することができる。
「緑木…そろそろ目覚める時だ。
俺もお前に挨拶をせねばな」
緑木がリバルの言葉でうっすらと目を開く。
リバルが声をかけようとしたところで、神聖樹の力により再び眠らされてしまった。
その様子をみたリバルは、困ったように肩をすくめる。
「簡単には手放さない…か。俺に似たのか?」
そうつぶやいて、リバルは楽しそうに微笑んだ。
神聖樹は、緑木を気に入っているようだった。
離せといって簡単に離さないのを考えながら、リバルはぼんやりとナツミのことを考えた。
緑木を助けるためにナツミは傷つくだろうか…そう思ったとたん、リバルの瞳が銀色に輝きだした。
「神聖樹…ナツミを殺すようなマネは許さん」
リバルの周りに、ものすごい力が渦をまく。
リバルの目つきは氷のように冷ややかだ。
だが、すぐに力を抑えた。
「もし…ナツミが死ぬようなことがあれば、俺の力が4分の1宿っているとしても切り落としてくれる」
静かに息をついて、空に浮かぶ月に目をやる。
ライやスイルがそばにいるのは、わかっている…でも、守りたいと思ってしまうんだ…たとえ、憎まれることになっても…。
ナツミの顔が浮かんで、リバルは切なげな顔をすると目を閉じた。
「お前たちは、この神聖樹からどうやって緑木を奪っていくんだろうな…」
リバルのつぶやきに誰も答えることなく静かに溶け消えていった。
そのころ、ナツミたちはみんなの共有スペースであるリビングに集まっていた。
はるが緑木を助けに行きたいと言い出したからだ。
リークの頼みでもあり、ライは1度全員を集めたのだ。
「はるが緑木を連れ戻しに行きたいそうだ」
「緑木…」
ライの口から緑木の名前がでて、シズカはミナミから緑木のことを聞いたことを思い出した。
シズカがつぶやいたのを聞いてスカルが首をかしげる。
緑木のことを、なぜシズカがしっているのだろう。
「どんな子?」
まひろは緑木のことを知らないようでシズカに目を向けるが、シズカもまひろにわからないと肩をすくめて見せる。
「うちも詳しくは知らないんだよね」
シズカとまひろが、どんな人だろうと考えているとリークが近づいてきた。
「緑木は、活発な男だよ。
俺とはるの幼馴染で曲がったことが嫌いなんだ。
しかも、天然なところあるし」
リークが懐かしそうに話した。
本当に仲が良かったのだと聞いているシズカもまひろも思った。
しかし、ふとリークの顔から笑顔が消えた。
「でも、俺と緑木はもう昔のころのような関係には戻れない」
ボソリとつぶやいた言葉にシズカとまひろが互いに顔を見合わせ、シズカが口を開きかけたところでライが話し始めた。
「神聖樹は神の木。
神の力を4分の1もつ力の強い木だ。
もし、万が一ということがあれば危ないから行くにしても気を付けることだ」
ライの真剣な表情にみんなの気持ちも引き締まる。
ライが全員を見回すと、みんなも覚悟をきめたようで目に強い光が宿る。
「なにかあれば、俺が持てる力を全て使ってお前たちを守る」
ライは、そういってナツミとシズカとはるの3人を見る。
シズカとはるの両親を自分の手にかける時、決めたことだ。
「うちは、守ってもらわなくても平気だ。
もとより親のことなんか好きじゃない」
シズカはライをみて迷惑だといった。
けれど、事情を知っている人たちは何も言わない。
かわいそうだとか、シズカはそういう憐れみが欲しいわけでもないし今更どうこうということでもない。
「シズカさん、落ち着いて…」
はるがピリピリしているシズカをなだめるように言う。
シズカはフンと鼻をならして、ライから目を背けた。
「ライさん、私たちはもう両親を殺されたことを恨んだりしていません。
私は、もう自分のせいで誰かの足手まといになるのは嫌です」
はるの言葉は、やんわりとライの言ったことを断るものだった。
ライは眉根をよせて黙り込む。
「お父様…」
ナツミが心配そうな目を向けてくる。
それは、ナツミを人間界に送る前にみた表情だった。
もう、そんな顔をさせたくはない。
「大丈夫だ。死んだりしない。
俺は父親としてお前を守るだけだ」
優しく笑うライは、子どもを思う親の表情だった。
小さくうなずくナツミをライは安心させるように頭を撫でた。
「あぁ、それと…闇の奴らわかってるな」
ライの言葉にスカルたちの表情が変わる。
「大地の世界に行くんだ。
俺たちは、大地の世界に住む奴らに戦いをしかけに行くわけじゃない。
闇の力を極力おさえて植物を枯らさないようにしろ」
「了解」
リークは当たり前というように笑って見せる。
そんなリークをみて、はるは昔闇の人が触っても大丈夫なようにするという約束をしたことを思い出していた。
リークは今でも変わらず気にしている。
早くそんな心配を取り除いてあげたい。
「闇が触れれば植物は枯れ始める」
スカルがそういうとスイルが口元に笑みを浮かべていった。
「僕は大丈夫だよ、兄さん」
スイルのことは、あまり気にしていなかったようにスカルはうなずいたがナツミのほうをみて目をすがめた。
「兄さん、顔が怖いよ。
ナツミにそんな顔を向けないで」
スイルの目が怪しく光る。
そんなスイルを止めるようにナツミがスカルの前にいって、にっこりと笑う。
「スカル、私は大丈夫だよ」
「姫君…」
「もう1人の私が、ちゃんとしてくれるから」
その言葉を聞いて意味を知らない人たちが不思議そうな顔をする。
ライは、ピクリと反応しスカル、スイル、リークの3人の顔つきが厳しくなった。
(おいバカ…あやしまれてっぞ)
闇が心の中に話しかけてきてナツミはハッとした。
そうして、ごまかすように笑うと逃げるようにして扉を開けた。
「あ、あの言い間違えだから気にしないで〜…。えっと…そ、そうだ!!
トイレに行ってくるから」
扉を思い切り閉めて胸をなでおろす。
闇のみんなもスイルも顔つきが怖いよ〜…と思いつつ息を大きくはいた。
(もう少し考えろよな…)
闇に呆れられてしまいナツミはしょげた。
すると、もたれかかっていたリビングの扉があきライが出てきた。
ライに続いてイアルとキリクが控えるようにそばに来た。
ギクッとして、その場から走り去ろうとして背を向けたが遅かった。
ライに後ろから抱きしめられて動けなくなってしまった。
「ナツミ…捕まえた。…なにを隠している」
「や、やだなぁ…お父様。何言って…」
「我が愛しき娘…」
ライの言葉が低くなる。
こういう時は、たいてい本当のことを言わなければ離してくれない時だ。
「隠し事をするのは許さない」
「お父様…私、何も隠していません」
ライの目が細くなる。
娘が大切だ…。
カエデと約束したんだ…守るって。
だから、怖いんだ…俺の知らないところで、何かあってナツミまでもがいなくなってしまったら…。
「ナツミ…」
ナツミは自分の体にまかれているライの腕をそっとつかんだ。
お父様を心配させたくなかった。
自分の中に存在するもう1人の自分は危害を加えるような存在ではないから。
本当に困ったとき、私も闇の私も自分の命をかけて戦う。
みんなのために戦う。
「言う気はないんだな…」
「もし…隠し事があっても今は言えない」
ライは悲しげに目を伏せる。
しかし、静かに「そうか」とつげ腕をほどいた。
ナツミは、「ごめんね」といって廊下を走って行った。
「ライ様…」
「キリク、俺はナツミが心配だ…。
気づいたら俺の腕からいなくなってしまいそうで」
不安げに揺らぐライの目をキリクとイアルは何も言わずに見ていた。