小説内容

□第二話
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 シズカはミナミのところへ来ていた。
 はるは、なかなか起きてこずリークが心配して見に行き、スカルもスイルもお互い話してばかりで、まひろも自室にこもり熱心に術書を読んでいるようだった。
 暇になったシズカは一度ミナミの元へ行って見ることにしたのだった。

「シズカ」

 扉を開け少し驚いている様子でミナミは言った。
 シズカが少し気まずそうに視線を落とすとミナミは室内へと招いた。
 ミナミの部屋はとても綺麗で机の上には花が置かれていた。
 シズカが花を見ていることに気がつくとミナミは花を見て言った。

「これ、はるちゃんから貰ったんだよ。
 いい匂いするから部屋に飾ってて」
「そうだったんだ」

 はるらしいなぁと思い、ぼんやりと花を眺めた。
 そして、はるたちの関係をミナミはしっているかと思い聞いてみることにした。
 はるは何も言わないけれど、きっと悩んでるはずだ。
 言わないだけで…。

「ミナミ」
「何?シズカ」
「ミナミは小さい頃のはるたちを知ってる?」
「知ってるよ、幼馴染のリークと緑木でしょ?
 昔会ったことある」
「緑木…」

 名前をどこかで聞いたことがあると思った。
 確か、前に一度だけはるが緑木という人にの名前を出していた気がする。
 今はどこかで眠っているだとか…。

「緑木は生きてるの?」
「生きている、神聖樹というところで…」
「神聖樹…」
「神の力を4分の1与えられた大きな木」

 ミナミは神と言う言葉を忌々しそうに言った。
 その様子に不思議そうにしながらシズカは神聖樹というものを連想した。
 ミナミが大きな木というのなら、それなりに大きいのだろう。
 しかも神の力を4分の1引き継いでいるという。
 簡単には緑木を救えないとどこかでシズカはそう思った。

 神聖樹のことを考えていると、ふとベッドの上に置かれている写真に目が止まった。
 写真を手に取り、ミナミに聞いた。

「これ…?」

 シズカの手にしている写真を見て、ミナミは息をのんだ。
 シズカから引きはがすようにミナミは写真を取りかえすと大切そうに胸に押し付けた。

「ねぇミナミ、そこにうつってる人って…」
「この人は…私の大切な人」

 ミナミは静かにそう言った。
 そして、小さく息を吐く。
 写真にはミナミと男性がうつっていた。
 とても親しげで優しそうな人だった。
 メガネをかけて真面目そうにも見える。
 ミナミの表情はシズカが今までに見たこともない苦痛の表情だった。
 
「このこと…忘れて」
「えっ…」
「シズカっ!」

 ミナミは強くシズカの名を呼んだ。
 感情的になったせいか大地の力が発動し、部屋中に木の根が巻き付いていた。

「ご、ごめん。見なかったことにする…」
「うん…」

 気まずくなりシズカはミナミの部屋を後にした。
 シズカにはミナミの抱えている何かが少しずつ見え始めていた。
 あの写真にうつっていた人にきっと何かあったのだろう。
 そうでなければ、ミナミがあれほど苦痛そうな顔をするはずがない。

 考え込みながら歩いているとスカルがいつまにか隣にきてシズカの名を呼んでいた。

「シズカ、どうした?」
「えっ…う、うわぁ〜〜〜!!」

 まったくスカルの気配を感じていなかったシズカはスカルの顔がすぐ近くにあり、驚いて叫んだ。
 シズカの叫びにスカルも驚き、目を見開いて固まった。

「ス、スカル!?」
「びっくりした…そんなに俺に気づかないほど何を考えていたんだ?」

 スカルは不思議そうに首をかしげシズカに尋ねる。

「あっ…あぁ…いや、別に!!
 なんかさ、みんな色々あんなって…」

 ミナミの部屋であったことは言えない。
 ミナミも言って欲しくないようで、忘れてほしいと言ってきたから。
 だから分からない程度にしてスカルにそう言ってから、ミナミの写真の事を忘れていなく考えてしまっていたことに気づき、顔を思いっきり振った。
 考えてはいけない、忘れなければ…ミナミの為に。

「それはそうだな。それぞれ色々あるさ…」

 スカルは立ち止まって遠くを見つめるように言った。
 スカルの表情もどこか憂いを含んでいるようにも見える。

 「ヴァンパイアは孤独なものだからな…」

 聞き取るにやっとの声でスカルはボソリと呟いていた。
 スカルは孤独なのだろうか…周りにはウチもライたちもいるというのに…。
 それに兄弟であるスイルだっている。
 シズカの考えを読み取ったようにスカルは口を開いた。

「シズカ、違うんだ。
 周りに誰かがいるか、いないかじゃないんだ…心だよ。
 ヴァンパイアはあまり他人に自分の内情を知らせない。
 胸に秘めた続けるものだ…そういうところが孤独なんだ。
 誰にも言えず、言わず自分の内にとどめ続ける…俺も」

 スカルはシズカの頬に触れる。
 辛そうに眉をよせ、それでも微笑んでゆっくりとスカルの腕が背にまわされ抱きしめられた。
 男は苦手だ。
 触られることも好きじゃない。
 でも、今のスカルを振りほどけなかった。
 スカルにも…自分に言えない何かがある。
 そう思いつつシズカはただただ、スカルの胸に顔をうずめ強くスカルを抱きしめることしかできなかった。

 リークは、はるの部屋の前に来ていた。
 はるは、おそらく起きている。
 はるの気持ちを感じられないほど、無能ではない。
 俺たちは…3人で幼馴染なんだ。
 はるの中で俺たちの関係は変わらない。
 それぞれに対する俺たちへの気持ちも。
 でも俺と緑木の気持ちをは変わりつつある。
 もう、幼い子供ではないのだ。
 小さく息をついてノックをした。
 考えていても仕方がない。
 俺は、はるの気持ちに従うと決めたのだから。
 
 返事がないため勝手に部屋に入るとはるが布団から顔を出した。

「何だ、調子悪い?」

 はるに歩み寄って額に手を当てるが、体調を崩しているようでもなかった。
 しかし、はるが少しふるえていることに気が付いた。
 
「リーク…」
「んっ?」
「緑木、生きてるよね…?」

 はるの言葉に緑木の名前が出てきて、少し胸が痛むのを覚えた。
 でも、はるが心配している。
 今は少しでもはるを安心させるべきだ。

「生きてるよ」
 
 その言葉にはるは、心から安心したように微笑んだ。
 だんだんとはるのふるえもおさまっていく。

 あぁ、やはり…はるは、ずっと幼馴染のままでいたいと思っているようだった。
 変わらなければならないことと、変わってはいけないこと…。
 俺たちの関係は、どちらに含まれるのだろう。
 
「リーク、私緑木を迎えに行きたい」
「っ…」

 はるの言葉につい息をのんでしまった。
 いつか言われるだろうとは思っていた。
 はるが緑木の身を案じていることも知っていた。
 緑木は、この場所にいなくてもはるの心の中であり続けている。
 もし、俺が居なかったら…?
 緑木と俺、逆の立場だったらどうなるのだろう…。
 同じように俺を迎えに行きたいと緑木に言ってくれるだろうか、それとも…。

「な、なぁはる。1つ聞いてもいいか?」
「何?」
「もし、俺と緑木が逆の立場で俺がここにいなかったら…はるは、緑木と同じように迎えに来てくれるのか?」

 リークが真剣に尋ねるのをはるはじっと聞いていた。
 そして笑顔になり「当たり前でしょっ!」と言った。
 その言葉にリークはホッと胸をなでおろし、安心した様子で大きく息を吐いた。
 
「2人は私にとって、大切な人なんだから」
「ありがとう、はる」

 はるにとって大切な人と言う意味と俺と緑木にとっての大切な人という意味は違うけれど…。
 今はそれでいい。
 いつか、はるの大切な人という言葉の意味も俺達と同じ意味になればいいと思った。
 今は、まだ変わる時ではないのかもしれない。
 
「はる、緑木の元に行けるかライに聞こう。
 何があっても、2人で行くよりは皆がいてくれた方が助かる」
「うん!!」

 はるが嬉しそうに笑う。 
 今この笑顔を曇らせたくない、少し胸が痛む気もするが、はるが幸せになれるのならそれでいいという思いの方がはるかに上をいく。
 たとえ幸せにするのが俺じゃないとしても、はるが選んだ相手なら信用できる気がする。
 
「はる」
「なぁに?」

 いつまで俺にこの笑顔をむけてくれるだろうか…。
 優しげなあたたかい目をして…俺の言葉に答えてくれる。
 それは、いつまでだろう。

「緑木のヤロー、寝坊だな」
「ほんとだよ」

 はるがむくれて言う。
 愛しいこの子が幸せなら…俺も緑木もきっと同じように願うだろう、はるを思いながら…。
 これが俺たちの幼馴染と言う関係だから。
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