小説内容

□第三話
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 そのころ、シズカも昔の記憶を見ていた。

 自分と同じ歳であるスカル、彼は小さい時からシズカを守っていた。
それが海原の世界の王と王妃の“命令”だったから。シズカは、それを知っていたからスカルのことが最初は気に食わなかった。
自分の両親は、うちを使って闇と交わり世界を強くしようとしていた。
うちは、あの両親にとって物以外のなんでもなかった。
そんな利用される自分が嫌だった。こんな自分など消えてしまえばいいとさえ思った。
だから、こんなうちを自分が怪我をする事もいとわずに守ろうとするスカルがわからなかった…。
スカルのほうが年上だ…きっと自分の両親の考えも分かっているんだろう。
なのに、なぜ…いつも、そう思っていた。

 そして、スカルはいつもどこか悲しげだった。
その度に私はスカルになぜそのような顔をするのかと聞いていた。
スカルは悲しげに笑って大切な者を失ったと静かにそれだけ伝えた。

 気に食わなくて分かりにくい奴…そう思っていた。あの出来事があるまでは…。

 物心がつき始めて、しばらくたった時だった。城の中にいるのが嫌で、こっそり抜け出したことがあった。
とにかく自由になりたい…その一心だった。
見つからないように海の森という海藻に覆われた暗い場所に入っていった。
そこが元人間の巣食う森だと知らずに…。

 シズカは、歩き疲れ少し休んでいたが嫌な気配を感じて立ち上がった。
回りを見ると気持ちの悪い人間がいた。
元人間の存在を知らなかったシズカは、なぜ人間が血を求めているのかがわからなかった。
怖くて足がすくんでしまって動けない。

 襲われる…そう思ったときだった。その気持ちの悪い人間の首を誰かが切り離した。
シズカがしりもちをついて、人間を殺したものをみる。それは、スカルだった。
返り血を浴び瞳を赤紫色に輝かせている。
手の血を舐めながら、シズカを見下ろす。
シズカは鋭い目つきでスカルをにらんだ。

『なんできたんだよ!』
『探せと言われたから…』
『ふざけんな!うちは自由になりたい…なんでスカルはうちの母様と父様のいうこときけるんだよっ…利用されるってわかってんだろ…』

 言葉の勢いがだんだんとなくなっていく。
視界がぼやけて涙が流れるが周りの海水ですぐに涙もなくなる。

『泣くんだな…お前も』

 少し驚いたようにスカルは目をみはった。
海原の世界のものは住んでいるところが海の中ということで涙を流しても周りには気づかれにくい。それだからか海原の世界のものは泣かない種族とさえ言われている。

『うちだって感情はある…いくら、まだ幼くて子供でも嫌なものは嫌だ…。うちは…ものなんかじゃない…』

 幼いシズカは、そういって泣き出した。
そんなシズカがスカルには自分の弟と重なって見えた。自分を見てほしい…ただ、親に愛されたいと願っている。
そんな姿…。

 気づけば泣くシズカを抱きしめていた。

『スカル?』
『俺はお前と同じような奴を救えなかった…。もうあんな思いしたくない。シズカは俺が守るから…。シズカはものなんかじゃない。
俺とシズカは政略結婚で婚約者になっているけれど…俺の意志でシズカを守りたい』

 スカルはシズカをほおっておくことが出来なかった。俺はシズカを守ろうと思った。
まだ6歳のシズカは恋とか好きという気持ちは分からないだろうけれど、それでもいい。
俺は、109歳だから自分の意志はしっかりもっているつもりだ。

 守れなかった弟と重ねてしまうのは、良くないことかもしれない。
でも、シズカをみる度に弟の姿が重なってしまう。

 自分をものだと、こんな小さな子に言わせたくなかった。
海原との交友のためにきた。王と王妃の目的も知っていた。適当にすませようと考えいた。シズカに会うまでは…

 スカルの中で守りたいという気持ちがだんだん恋へと変わっていった。
シズカもスカルに、ものじゃないと言われたときから少しずつ心を開いていた。

 シズカが7歳の誕生日を迎えて数日後、シズカはスカルにお礼を伝えようとしていた。
スカルのおかげで、両親を嫌いながらも海原の世界にとどまることが出来ていた。

 スカルを見つけて駆け寄った時だった。
シズカのいる世界である海原の世界で爆発が起こり始めた。
遠くで分からなかったが黒い固まりが宙を飛んでいた。
それを見たスカルはシズカを抱き寄せた。

『スカル…?』

 顔を赤くしながらもスカルに抱きしめられる事を嫌だとも思わなかった。
しかし、幾度となく爆発が続きシズカはだんだん不安になってきた。
そしてスカルはそっとシズカを離した。

『ごめん…シズカ』
『な、なにが?』
『とうとうきてしまった。あの人…我が王の力が暴走してしまった』

 シズカにはスカルの言っている事が分からなかった。
ただ、今起きている異変に関わっている事は確かだと分かった。
スカルは静かに話した。まるで自分を落ち着かせるかのように…。

『これから俺は、あの人の元へ行く』
『あの人って、あの黒い所?だめだよっ!』
『行かなくてはならないんだ』
『なら、うちもっ!』

 シズカがそうやっていった時だった、スカルが大声で『だめだっ!!』と叫んでいた。
いつもは冷静なスカルが大声をあげることに戸惑いを隠せなかった。

『あの人は今、憎しみだらけだ。
 あの人を止められるのは闇の世界の者でしかない。きっとシズカを見たら、あの人は殺そうとするはずだ』
『えっ・・・なんで』
『お前の両親は、あの人の大切な娘を殺そうとしたからだ。
 あの人から漏れ出る憎しみの気持ちが力を通して伝わってくる』

 力の波が地をはうようにしてシズカにも伝わってきた。
その力からシズカは何も感じられなかったがスカルには伝わるらしい。

『シズカ、お前の父と母はもう殺されている』

 スカルのその言葉にシズカは何も言えなくなっていた。
ただ、自分の両親が死んだという事が信じられなかった。

『ここにいたら危険だ。お前はこの世界に居ては行けない。ヴァンパイアとしてではなく人にし人間界へと飛ばす』
『イヤ…』
『ごめん、俺の勝手を許して』

 スカルはまたシズカを抱き寄せた。
スカルの肩が震えていてシズカも不安になってしまった。
するとスカルがシズカの耳元で『好きだ、シズカ。どうかお前だけでも』と、ささやいた。 
その言葉にシズカは驚きで目を見開いた。
 
 少しずつ意識が遠のいていく。
そのなかで、シズカは、もう絶対にスカルを悲しませるような事はしないように決めた。

 スカルを側に置かないようにする、スカルが自分をかばわなくて良いように。自分からスカルを遠ざけようと決めた。

 自分が強くなったとき、そのとき初めて自分の気持ちを伝えるように。

 そして、今のシズカは、記憶が無いながらも男を遠ざけるようになった。
スカルの事を忘れてしまっている以上、男と認識したのだろう。
 男によってきてほしくない。そばに寄らせるわけにはいかないと。

 シズカはだんだんと現実に戻ろうとしていた。
 その中で、スカルが記憶をなくした幼いうちに、涙を流しながら抱きしめる様子を、胸が痛む思いで見たのだった。
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