小説内容

□プロローグ
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 そこは、なにもない真っ暗な空間

 胸に広がるのは悲しみと苦しみと憎悪と、そして幸せを求める純粋な願望…。

 なにもかもを飲み込みそうな真っ暗な闇の中に1つの光がさした。それは、幸か不幸か…。

 真っ暗な空間は光を手にしたものによって1つの世界を創り上げた。
 
 その世界ができ時を経た今、新たな光と闇が人間の生きる人間界で目覚めようとしていた。





    −−夢を…みていた−−
 とても明るく暖かな光のさす場所。幸せだった…なぜかはわからない…けれど、それが過去のことだと思った。
暖かな場所は、次の瞬間炎に焼かれていく。私は泣いていた。

『ナツミ…』

 誰かが私の名前を呼んで今よりも遥かに小さくなった私の手を取る。まるで、幼いころに戻ったかのような体だ。とてつもない悲しさが私の心を満たしている。
顔がよく見えないその人は、傷をおいながら私をなにかから逃がそうと炎を縫うように走る。

『大丈夫…必ず…』

 よく聞き取れない声。男の人なのか女の人なのかわからない。その人の手は離れ、気づけばその人も周りの景色も炎にまかれ私のゆめは閉ざされた。

 暗い奈落の底に落ちていくような恐怖を感じて私は飛び起きた。

 朝5時、目覚まし時計は鐘を鳴らすことなく規則正しい秒針を刻んでいる。


「あの夢…」

 近頃、頻繁にみるようになった夢だ。友人のはるとシズカに高校で話すと2人も内容は異なっているものの焼かれていく穏やかな日常の風景をみるという。
3人は、不思議に思っていたが7歳以前の記憶だろうと考えていた。7歳以前の記憶が3人にはなく、おそらく辛い経験をしてなくなっているのだろうと医者は言った。

「17歳になってから、良い夢みないなぁ…」

 1人でにつぶやいた言葉は誰の耳にも届くことなく消えていく。しかし、17歳ともう一度つぶやいてからシズカの誕生日が今日だったことを思い出した。
はるの誕生日も過ぎたばかりだったのだがプレゼントをどうするか悩みに悩み、いまだに2人のプレゼントを用意できていなかった。

 そう私たちは今年で17歳。高校2年生の折り返しの時期にきていた。時間が過ぎるのは早い…そんな風に思いながら立ち上がった。
なるはずだった目覚まし時計の設定を止めて少し早いが高校に行く準備を始めた。


「いってきまーす!!」

 玄関を開けて、陽の光に一瞬目をくらませながら外に飛び出した。いつものように玄関前にいるシズカとはるに笑顔を向ける。

「おはよ〜、なつみん」

 そういってはるが私をみて微笑んだ。はるは、私をあだ名で‘‘なつみん’’と呼んでいる。その隣でシズカが苦笑気味に笑って言う。

「おはよ、ナツミ。相変わらず朝から元気だな」
「おはよう2人とも!元気が1番だよ、しず!!」

 シズカのことを中学の時に決めた“しず”というあだ名で呼びいつものような朝のやり取りをした。そして話終えると高校に向かって歩き出した。

 友達と笑いあうこの何の変哲もない日常がずっと続くと思っていた。人間としていつまでも生きていくことができると、私たちは思っていた。


 時計が秒針を刻む…。過去に戻ることを許すまいとでも言うように未来へ未来へと時間を進める。それは、どんなに嫌で辛くても変わることない歯車をおしすすめるかのよう…。
運命の歯車は時計の秒針とともに回り続ける。
  過去に戻ることなく未来へと…。

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