小説内容

□第一話
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 いつものように登校して学校につき、荷物の整理をし終えるとナツミはシズカのもとに行きいきなり手を合わせた。
 シズカは、首をかしげて不思議だと言わんばかりだ。

「しず、ごめん!!プレゼントまだ買えてないの…。誕生日なのに、ごめんなさい」
「別にいいよ。そんなに謝らなくても、うちは気にしないからさ」

 優しくいってくれるシズカにナツミは目を潤ませながら抱き着いた。
 シズカは、びっくりした声をあげる。

「くっつくなよ」
「しず、やさし〜…誕生日おめでと〜!!買ったら、すぐに渡すから〜」
「わかったから、くっつくなっ!」

 顔を赤らめながら周りを気にするシズカをよそにナツミはギュウっとだきしめている。
 困り果てたシズカは本を読んでいるはるに目を向けた。

「おい!はるっ!ナツミをどうにかしてっ」

 そんなシズカの言葉にはるは本に向けていた視線をあげてシズカをみると微笑んだ。

「2人とも仲いいね〜」
「そうじゃなくてナツミをなんとかして!これじゃあ、身動きとれない!」
「うーん…でも、その状態だとなつみん離れないからもう少しの辛抱だよ」

 いつものマイペースを崩すことなく、はるはそういってまた視線を本に向けた。
 シズカは、盛大なため息をついて仕方なくしばらくそのままでいた。


 それから、午前の授業を終え昼食をとる時間となったがシズカはあまり弁当を食べることなく途中でふたをしてしまった。
 それをみていたはるが声をかけた。

「シズカさん、もういらないの??」
「あんまり食欲なくて…。最近あんまり食べられないんだよね」

 肩をすくめて困った顔をするシズカにナツミも心配したのか食べるのをやめて口を開いた。

「しず、もしかして今も体調悪いの?」
「うぅん、大丈夫だから2人は食べて」

 シズカが元気なさそうなことを気にしつつも2人はご飯を食べた。
 その間、シズカはぼんやりと外のほうを見ていた。


 そして、昼食を食べ終えた3人は明後日に控えた文化祭の衣装について話をしていた。
 喫茶店をすることにした3人のクラスは普通の喫茶店ではつまらないと、ありがちなコスプレ喫茶をすることになっていた。
 衣装作りも終盤にさしかかり3人は、いよいよ大詰めということで飾り付けをどうするか考えていた。

「午後は、文化祭の準備だよね?」

 シズカがそういうとナツミとはるはうなずく。
 午後の時間を使えることが出来れば、全ての衣装につけるアクセサリーを考えることは可能だろう。
 いろいろな案をだしていると、女子生徒がシズカにゴミ捨てを頼みたいと言ってきた。
 量が多く、まだ女子生徒の担当の仕事も結構残っているようで頼んできたようだった。
 シズカはいやな顔1つせずにそれを請け負った。

「私がいこうか?シズカさん、体調悪いみたいだし」
「そうだよ。私たちで行くから、しずは休んでて」

 はるとナツミが言うのに対しシズカは首を横にふって2人からの申し出を断った。
 2人がそれでも心配そうにしているのをみて思わず笑みがこぼれる。

「これぐらい、なんともないから。少し動きたかったし丁度よかったよ」

 シズカは、そう言うとゴミ袋を両手に持ちゴミステーションへと持っていってしまった。

「シズカさん、行っちゃった…本当に大丈夫かな?なつみん…なつみん?」

 問いかけに答えないナツミの顔をのぞくようにして見ると何度か目のまばたきを繰り返してナツミは、はるをみた。
 ぼんやりとしていたようで、どこか間の抜けた顔をしている。

「なつみんも調子悪いの?」
「そうじゃないよ…ただ、少し疲れちゃってて」

 帰ってゆっくり休めば治るよと笑って言うナツミにはるは、ちゃんと休むように伝えた。
 そんなはるの言葉に頷きながら、どこか疲れたようにナツミは息をついた。

 ゴミ捨てを終えたシズカはゴミステーションから引き返していたところだった。
 体調のことを考えながら歩いていると突き刺さるような視線を感じた。
 そっちのほうに目を向けたが何もなくシズカは足早に歩き出した。

 今日の文化祭の準備を終え3人は下駄箱で靴を履き替えていた。
 ふと、ナツミが思い出したように声をあげた。

「2人とも先に帰っていて!!私、忘れ物しちゃって…」
「なつみんが忘れるなんて珍しいね」
「どうせ、ぼんやりしてたんだろ。うちらは、ここにいるから早くとってきな」

 はるがシズカの言葉に頷いてはるも待っていると言った。
 ナツミは、急いでローファーを脱ぐと上靴を履くことなく走り出した。
 
 暗闇に沈んでいく校舎は、少し怖いものだったが2人が待っていることを考えるとそんなことも思っていられなかった。

 教室に入って誰もいない空間を見渡してから自分の机の前に行くと中に入っているノートを取り出した。
 文化祭前とはいえ勉強もしないといけない。そんなことを考えていると人の気配がして、そっちのほうを見た。
 そこには隣のクラスのミナミがいた。
 ミナミとは小学生のころからの付き合いで友だちだ。

「ミナミ?どうしたの?こんな時間まで…」

 ミナミは口元に笑みを浮かべる。そして、扉から中に入ってくると暗くなっていく空を見上げた。

「もうすぐだね、なっち」
「えっ…なにが?」

 いきなりの言葉にナツミは困惑した。なにがもうすぐなのだろう…。
 文化祭のことだろうか。
 そんな私を気にせずにミナミは話を続ける。

「運命は変わらない。なっちを待っている人がいるから、なっちも早くしてあげてね」

 待っている人と言われて、2人のことが浮かびミナミに帰ることを告げた。
 2人を待たせるわけにはいかないと言うと一瞬ポカンとしてから、すぐに微笑みを浮かべた。
 ナツミは、手を振ると下駄箱に向かって走り出した。 
 遠ざかっていく足音を聞きながらミナミは月をみた。そして、つぶやく。

「待っている人って違う人のことなんだけど…まあ、いいや」

 意味深な言葉は誰も聞くことはなくミナミは、ただ月をみて微笑むだけだった。


 そして、2日が経ち文化祭当日となった。2日前に感じた視線の時からシズカは自分の体に違和感を感じるようになっていた。
 食欲は変わらずだったが、今となっては食べてもお腹が満たされない。
 あまり、ご飯をとらないシズカをナツミもはるも心配していた。

 しかし、2人も自分の体がおかしいことを感じだしていた。
 だけど、クラスの喫茶店の仕事もあり、そんなことは言ってられなかった。
 2人は体調をクラスの仕事に集中して誤魔化していたがシズカの体調は悪く立っていられなくなってしまった。

「しず!?」
「シズカさん!?大丈夫?!」

 そんな2人の言葉に苦笑して頷くと力の入らない足になんとか力を入れて保健室に行くと伝えた。
 2人が同行すると言ったが仕事のシフトが2人に入っていて、人手を減らすことは良くないと思いそれを断った。
 壁に手をあてながら、自分の体を支えた。

「うち、どうしちゃったんだろ…」

 歩いているのも辛くなって、空いてる教室にはいった。
 空いてる教室に入ると床に座り込み目をふせた。
 太陽の光が体力を削っていくのを感じる。
 体を休ませて戻ろうと考えながら遠ざかりそうになる意識をなんとか繋いでいた。

 すると、誰かが走ってくる音がした。

「ナ、ツミ…はる…?」

 うつろなまなざしを向けると、そこに立っていたのは同じクラスの男子だった。
 おそらく、シフトが入っている自分を探しに来たのだろう…と思った。
 男子は息をきらせながら「なにやってんだよ!!」と大きめの声をあげた。
 シズカには、その声が実際よりも大きく聞こえていた。

「うるさい…」
「お前こんなところにいたのかよっ!今、ものすごく大変なんだよっ!!サボってねぇでさっさと…」

 男子生徒がそこまで言った時だった。
 シズカはフラリと立ち上がると「うるさいって言ってんだろ!!」といって人間の力とは思えないほどの力で男子生徒を突き飛ばした。
 そのまま男子生徒は壁に頭を強くうちつけ気を失ってしまった。
 頭からは血を流してしまっている。
 シズカは自分が何をしようとしているのか理解できず、ただ本能という欲望にのまれていった。

 血の匂いがシズカの奥深くに閉じこめてあった何かを呼び覚ましていく。
 シズカから理性が消えて意思というものがなくなっていた。
 ただ自分の中の隠されていた何かの本能に従い、欲をみたそうとするかのように男子生徒から流れ出る血を舐めた。

 血を舐め終えると黒かった瞳を青く輝かせた。
 気絶している男子生徒に目を向けると首元の血管が浮き出て見える。
 血の飢えの衝動が激しくなる。

  そして、シズカは…。



 なかなか戻ってこないシズカを心配したナツミとはるは休憩に入ると保健室に向かった。
 保健室に行ったまではよかったのだがシズカは来てないといわれ2人は血相を変え急いで探し始めた。

「シズカさん、どこにいちゃったのかな…」
「体調良くないから、きっとどこかの教室にいるのかも…とにかく、はるも私も落ち着いて探そう」

 シズカは体調が悪いことを周りの人に心配させないように人目をさけているだろうと考え空いている教室を見て回った。

「あれ…」
「なつみん、どうしたの?」

 ふと立ち止まったナツミにはるも立ち止まり声をかけた。
 ナツミは、異様な匂いを感じていた。
 鉄の錆びたような匂い。
 今まで感じたことのない匂いは渇きを覚えさせる。
 頭がボンヤリとして動けないでいると、はるがナツミの名前を呼んだ。
 その声に我に返る。

「大丈夫?調子悪いなら、なつみんは休んでたほうが…」
「大丈夫だよ…。それよりも…なんとなく、しずがこっちにいるような気がする」

 首をかしげるはるを置いてナツミは匂いの漂う部屋に惹かれるようにして入っていった。
 はるも、そのあとに続く。
 薄暗い教室にシズカは2人に背を向けるようにして座っていた。

「シズカさん?」

 はるの言葉にシズカが振り返る。
 その瞬間ナツミもはるも息をのんだ。
 その瞳は青く輝き口の回りには血がついている。
 2人は驚きで言葉を失い、その場に縫い付けられたように動けなくなってしまった。
 ナツミがおそるおそる口を開く。

「血をのんだの…?しず…」
「血…」

 ナツミの問いにシズカは答えない。
 ただ、血とつぶやいて男子生徒をみやった。

「シ、シズカさん…しっかりして」

 涙を目に浮かべて、はるはふるえる片手をもう一方の片手で抑えながら言った。
 しかし、シズカの様子は変わらない…そんな様子をみたナツミはシズカを刺激しないようにはるにこっそりと話しかけた。

「はる、逃げよう…」
「でも…」

 動かそうと試みるが足がすくんで動けない。
 ナツミも、そんなはると同様に体が思うように動かせず舌打ちをした。

 すると、シズカはいきなり苦しみだした。
 目の輝きが増したとわかったときだった。
 シズカが、目にもとまらぬ早さでナツミの前に来るとナツミめがけて手刀を振り下ろした。

「なつみんっっ!!!」

 はるの叫び声が聞こえた。
 それは、まるで逃げろと言っているようだったが体が動かない。
 目をつぶり振り下ろされる手刀の痛みに耐えようとした…が、その痛みはいつまでたっても来ることはなく変わりに目の前に誰かの気配を感じた。
 目を開けると、そこには黒のロングコートを着た男の人がいてシズカの手刀を止めていた。

「キリク!!!」
「はい、わが主」

 キリクと呼ばれた男性がシズカの後ろに回ったと思うと首に軽い衝撃を与えシズカを気絶させた。
 キリクという人は、シズカを抱き上げナツミをかばった男性の前に立つとシズカに目をやってからはるをみて言った。

「ライ様、僕はあなたの命令に従いますがやはりこの者とその者のことについては理解しがたいです」

 どうやら、キリクの言う“この者とその者”とはシズカとはるのことのようだった。
 そして、話からするにナツミをかばった男性はライという名前のようで2人は主従関係にあるらしい。

「ライ様は、好き好みあのようになられたわけではないのです。他の世界の王たちが無理を言うから…」
「キリク、その話は今するべきことではないはずだ。あとからいくらでも聞いてやるから今やるべきことをしろ」

 ライにとがめられたキリクは口を閉ざした。 シズカを見ながら、なぜかライという男性は悲しげに目を細める。

「やはり一生人間で…というのは無理があったようだな」
「そうですね。ライ様」

 そんなやり取りをなかなか追いつかない思考を必死に巡らせながらナツミとはるは状況を呑み込もうとしていた。
 全くわけがわからない。
 ライという人もキリクという人も、この世のものとは思えないほど美しい姿をしていた。
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