短編・リクエストの小説置き場
□2
1ページ/1ページ
体育館に着くと、休憩中らしくコート内は閑散としていた。
体育館の扉が開いたことに気づいた桃井が、黒子を見つけた。
「テツくん…?」
今まで見つからないように逃げていた黒子が現れたことに驚きの声をあげるが、いつもと様子の違うことに気づき声が小さくなる。
その言葉を合図に体育館内の部員が黒子を見る。
「…黒子っち!!今までどうして…って、黒子っち?」
部員の視線や黄瀬を気にする余裕もなく、黒子は青峰のもとに歩いた。
「青峰くん。」
誰も何も言えず、赤司すらも部外者の立ち退きを要求することなく、黒子を見ていた。
「テツ…」
ガッ
黒子は青峰をおもいっきり拳で殴った。
突然の行動に周りは何が起きたのかわからず息を呑んだ。
殴られた本人の青峰も尻餅をつき、呆然と黒子をみている。
もう一発殴ろうと黒子が拳を握ると、我に返った緑間が止めに入った。
「どういうつもりですか…君は!!一体何がしたいんですか!!」
「落ち着け!!黒子!何があった?」
緑間が黒子を後ろから羽交い締めにして、黒子を抑える。
「テツヤ…一回落ち着け。大輝が何をした?」
あまりの事態に、赤司が仲介に入るが、黒子は興奮していて要領を得ない。
「僕にスカウトが来て…それがもう…!!」
青峰が気まずげに黒子から視線を反らし、下を向いた。
「大輝、スカウトの件で何か言ったのか?」
「…テツの行く学校じゃなきゃ行かねーって言った。」
言いづらそうに、小さな声で口をもぐもぐさせながら言った。
各所でため息が聞こえる。
その言葉に緑間は黒子を抑えていた手を離した。
黒子は幾分か落ち着いたようだが、まだ興奮が抑まらず肩で息をしていた。
「ハァー…大輝、僕の記憶が正しければお前はテツヤに“パスはいらない。”と言っていたはずだが?」
「……あぁ…」
「それはただの我儘なのだよ。」
緑間は呆れたようにため息を吐いた。
「真太郎の言う通りだ。お前の行動は理解に苦しむ。テツヤが怒るのも無理はない。大輝、お前が悪い」
黒子は唇を噛み、苦々しい声で早口に言った。
「青峰くんは、各高校に今までの言葉を撤回しに行ってください。部活中にお騒がせしてしまいすみませんでした。失礼します。」
早足にその場を立ち去ろうとする黒子に褐色の手がすがりついた。
「待ってくれテツ!俺は今、バスケがつまんねぇ!そんで、テツがいなきゃもっとつまんなくなると思う。学校だって、テツがいねぇ学校なんて想像できねぇ!!俺はまたバスケを楽しくやれるようになりたい!!だけど、それは1人じゃない、他の奴等とでもない。テツとだ…テツとまた楽しいバスケがやりたいんだ…!」
叫ぶ青峰の目元から一粒の涙が零れ落ちた。
青峰はもう、形振りをかまっていられなかった。
「だからテツ…お願いだ。俺と一緒の学校に行ってくれ…一緒の学校に行かせてください…!」
「という訳で、青峰くんにほだされて桐皇に来たんです。」
WCで順調に勝ち抜き決勝戦を明日に控えた桐皇高校は、バランスの良い食事を摂るため、会場近くの独身である原澤監督の家を訪れていた。
食事の最中、若松の「黒子は何で桐皇に来たんだ?誠凛とかお前好きそうじゃん。」という言葉をきっかけに『黒子の過去話会』が始まったのだ。
反対する青峰を抑え込み、話を聞き終わった一軍の面々は微妙な表情を浮かべていた。
「あの後そんなことがあったんかいな…いゃ〜見てみたかったわぁその場面!おしいことしたわぁ!」
「俺等は青峰の涙のおかげで黒子をゲットできたのかよ…」
若松のしみじみとした言葉を受け、青峰の方を向くと机に突っ伏して耳を赤く染めていた。
原澤が場の雰囲気を変えるように手を叩いた。
「もうこんな時間ですし、解散します。明日に向けて気を引き締めて、安全に帰って体を休めてください。では、さようなら。」
青峰を憐れんだのか、原澤の突然の解散の号令に部員達は荷物をまとめて帰っていく。
「ほら、青峰くん帰りますよ。」
「…」
青峰は恥ずかしさからなのか、顔を上げれずに無言を貫く姿に黒子は一つため息を溢す。
「桃井さんと先に帰っちゃ いますよ。」
青峰はその言葉にのっそりと立ち上がり帰る意思を漸く示した。
――――――
「明日は因縁の相手洛山との決勝だね!」
夏のインターハイでは桐皇は決勝戦で洛山に負けているのだ。
桃井の声にも自然と力が入る。
「明日はぜってぇ赤司に勝つ!!テツ、俺にパスを全部よこせ!」
「はい…!」
インターハイで赤司に負けて、二人の連携を強化してきたのだ。
明日は絶対勝つ!!その思いを胸に、二人は拳をぶつけた。
――――――
あとがき
リクエストありがとうございました!青峰と黒子が同じ学校に通う話だったのですが…
同じ学校要素がほとんどありませんでしたね…すみません。
ここで私が一番書きたかったのは、実は緑間が黒子を羽交い締めにするシーンです!
本当は赤司に黒子を羽交い締めにして欲しかったのですが、赤司はそんなことをしない。ということで却下になりました。いや、残念です。
今後、時間があればおまけを書こうと思います!!
読んでくださりありがとうございましたm(__)m