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□What do you mean?(1)
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「はあ、死にたい。」
家へ帰る途中でもアイツの気持ち悪い感覚と蕁麻疹は消えなかった。
何故私は女子高へ行かなかったのだろうか。
いや、答えは母が私立を認めなかったからなんだけどさぁ!
こんなことなら必死に説得すればよかったよ。
私が男嫌いになったのは小学2年生の時だった。
原因は元を正せば男子が当時はぽっちゃりしてた私にブタだピグレットだポーキーピッグだ言ってきたからだが、それから男という生き物が急に浅ましく思えてきて触れるのもダメになった。
「はあ。痒いなぁ。」
掻いた所が鬱血痕みたくなってる。
気持ちわる。
…本当は母さんがこの体質を治させるために共学に行かせたのはわかっている。
だけど蕁麻疹を発症する度に母さんを恨まずにはいられなかった。
はあ。
重くため息を吐いてからベッドに身体を滑り込ませた。
今日の事が全部夢だったらいいのに。
翌朝、目覚まし時計の音が5回鳴った頃に母親に叩き起されて目が覚めた。
一瞬だけ昨日の事は夢ったんじゃないかと思ったが、身体中の掻き毟った跡が現実だということを物語っていた。
「うげぇ、学校行きたくないなぁ。」
朝食のトーストを齧りながら思わずそう零すと母さんにお玉で殴られた。
母よ、それは人を叩く叩くための物じゃないぞ。
まったく、痛いなぁ。うっわ、たんこぶできてんじゃん。
私は痛いアピールをするためにジトッと母を一瞥してから家を出た。
学校へ向かう道中でマイエンジェルである緋真の後ろ姿を見つけた。
彼女はいつも艶やかな黒髪を高い位置で纏めている。
ついでに言うと女子にしては高めの身長で、弓道部の主将で、まさに大和撫子だ。
今日も今日とて凛々しいなぁ。
保身の為に言っておくと、私は男嫌いではあるが同性愛者ではない。
よく勘違いされるんだけどね。
でも緋真は別だ。
彼女相手には百合モード全開にすることすら厭わない。
「ひぃぃいいさなぁっ!!!」
後ろからガバッと抱き付いて挨拶をすると、彼女は「ああ、エチレン。おはよう。」とクールに返してくれた。
「緋真は今日朝練ないの?」
「うん。顧問が出張で朝からいないんだ。それよりそのおデコどうしたの?青いよ。」
「母さんに叩かれちゃった。へへへ!」
すると彼女は大丈夫?と青痣をさすってくれた。
ああ、緋真は優しいな!こんな怪我にすら気づいて心配してくれるなんて!
頬が緩むぜ!
ニヤニヤを抑えることなく談笑しながら通学路を歩いていると、緋真がいるのと反対側の肩をトントンと叩かれた。
「はーい……って、くくくく黒尾!!!???」
「よう。」
「うぉば!よ、寄るなぁ!!」
背後にはあのでっかい奴が立っていた。
全身に嫌な鳥肌が立つ。
そして肩は痒い。
拒否反応から思わず黒尾と15mばかし距離を取った。
ふぅ、これで安心だ。
そう思ったのも束の間、奴はこっちににじり寄って来た。
「く、来るなぁ!緋真!ごめん、先に行く!!」
私はそう叫んでから全速力で学校の方へ走り出した。
おのれ黒尾鉄朗。愛しの緋真と私を引き裂こうなんて。
許すまじ。
だが立場的にそんなことは言えない。
だって………。
絶賛追われ中ですから!
「ぎゃぁあああ!!!半径15m以内に入ってくんなぁ!」
そう牽制するも無意味で、いとも簡単にその境界は越えられてしまった。
脚には自信があったのに!
「つーかまえたっ。」
そしてとうとう追いつかれた………というより突き飛ばされた。
そりゃあ全速力で走ってる人間を全速力で追いかければ追いついた時の威力は素晴らしいことになるよね。
「何が追いついただよ!馬鹿じゃないの⁉︎私アスファルトにヘッドスラインディングしてんだけど⁉︎」
顎とか腹とか膝とか痛えよ馬鹿!
周りからは何やら可哀想だなんだてヒソヒソと聞こえてくるし。
内緒話は私の嫌いな物ベスト3に入ってんだかんな!
昨日からの恨みつらみを全て込めて黒尾を睨み付けると流石の奴も「あ、悪りぃ…。」謝ってきた。
「悪いと思ってんならそこ退けや。」
「ああ。」
ふう、やっと解放された。
身体中の擦り傷がヒリヒリと痛むけど男に触られることに比べたら断然マシだぜ!
そう喜びを覚えたのに奴は悉く私の嫌がることをしてきた。
「…怪我痛むよな?保健室まで連れて行く。」
黒尾はそう言うと、私の返事を待つことなくヒョイと身体を持ち上げた。
そう、所謂お姫様抱っことかいうやつだ。
「ちょ、触んな!降ろせよ馬鹿!」
身体中細胞という細胞が悲鳴を上げてる。
変な汗かいてきたし悪寒が酷いし吐き気がする。
グッバイマイライフ。
そう口に出す前に意識はどっかへ飛んで行った。