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□無自覚guilty
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※ツッキーが少し危ないかもしれません……!あとタイトル下にも表記した通りR-15(大人なキスの表現)くらいです。閲覧は自己責任でお願いします。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
その人は一つ上の先輩だ。
テンションが無駄に高くて兎に角煩い。
けど、他人にはよく好かれる。
僕はその人が嫌いだ。
誰彼構わず笑顔を振りまいて何が楽しいの?と思う。
これじゃあ笑顔の大安売りじゃないか。
ほら、朝練が始まりだした今も先輩に犬のように尻尾を振っている。
「スガ先輩、おはようございます!今日も爽やかですね!」
「さ、爽やか?ポリは今日も元気だな!」
「えへへー、それだけが取り柄ですから!」
そう言ってニコニコと微笑んでいる彼女につられるようにして菅原さんも笑顔を浮かべた。
その人は先輩だけじゃなく同級生からも頼りにされている。
「ポリ!!数2の教科書貸してくれ!」
今日は木下さんが忘れ物をしたらしく、その人に貸してくれるよう頼みこんでいた。
「え?木下持ってくんの忘れたの?縁下とかは?」
「西谷に貸すから無理って断られた。」
「あらら。もー、しょうがないなぁ。私のクラス1限目が数学だから取りに来なさい。」
その人がえへん、と少々高飛車にそう進言すると、木下さんはわかりやすく顔を綻ばせた。
「さんきゅ!助かるわ。後でジュース奢るから!」
「わーい。ココアね!ココア!」
まるで子供のようにはしゃぐポリさん。背の小ささが災いしてか年相応には見えない。
「へいへい。」
木下さんは僅かにニヤけた顔を隠すように、気怠げに返事をした。
その人は後輩からの信望もアツイ。
「ポリ先輩!」
「あ、日向君!おはよー!」
「おふぁっ、じゃないおはようございます!」
「どうかしたの?すごい剣幕で。」
「英語のこの前教えてもらったトコの小テスト50点とれたんです!」
「お、すごいじゃん!後輩の成績が伸びるとは先輩冥利に尽きるよ!」
そう言ってその人は日向の頭をポンポンと撫でる。
日向は心底嬉しそうに目を細めていた。
「本当に教えてくれてありがとうございました!」
日向が体育館に響く程に大声で礼を言うと、今度は王様が騒々しく会話に加わった。
「おい!日向ァ!てめぇ一人だけ抜け駆けしてんじゃねぇよ!」
「影山は何点だったのかなー?」
揶揄うようにそんな言葉を吐き出す日向。
まったく、たかが50点程度で何を威張ってんだか。
しかし、王様には効果覿面だったらしい。
悔しそうにムググと口の端を歪めていた。
「……ポリさん、その、俺にも勉強教えて下さい。」
珍しく王様が素直だ。
それは僕だけではなく周りの人達全員が思っていたことらしい。
皆が揃いも揃って目を見開き、影山を見ていた。
「勿論!影山くんは何が苦手なの?」
その人が微笑みながらそう問いかける。
すると、王様は若干顔を赤らめて「え、英語っス」と答えた。
またその笑顔。
頬を染めている王様も、いい人気取りのその人も、苛々する。
僕は解消しようもない腹立たしさを抱えながらその場を後にした。
「あ、待ってよツッキー!」
気付いた山口がいそいそと後を追いかけてくる。
いつものことだ。
だけどいつもと違うことがあった。
「山口君、月島君おはよう!気分悪いの?」
なんとその人までもがコッチに来たのだ。
「あ、おはようございます。その、なんでもないです!」
「ほんと?夜更かしとかしてない?」
「し、してないです!」
その人はそれならいいんだけど、と小さく笑顔を零すと今度は僕の方に詰め寄ってきた。
「月島君は?ちゃんとご飯食べてる?」
この人は僕の母親にでもなったつもりだろうか?
僕は食べてます、と呟くように返した。
しかしその人はしつこく食い下がった。
「本当にー?何でこんなに細いのさ。」
「体質じゃないですか?先輩こそきちんと食べてるんですか。」
「モチのロンよ!」
「その割には随分と小さいですね。……全体的に。」
「全体的にって具体的にどこを言ってんのかな?ねぇ。」
僕はさあ?と惚けたフリをして会話を終わらせた。
ああ、こんなに話すつもりは無かったんだけど。
ポリさんに話し掛けられるとどうも逃れられない。
余計なことまで口走ってしまう。
きっと彼女には弄りたくなるような何かがあるんだろう、そう自己完結することにした。