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□怪我の功名
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「ふはっ、お前なんだその髪。やべぇ、写メってアイツらに送るか。」



そう言って珍しく爆笑してるのは私の双子の兄、花宮真だ。


むっかつくなぁ。


けれど、私の前髪が御臨終してるのは事実だから何も言い返せない。



賄賂を贈ってなんとか画像の一斉送信だけはやめてもらった。



私はどうも口喧嘩では真には勝てない。


まあ、ヤツの頭のが回転速すぎるっていうのが1番の原因なんだけど。



私だって頭は悪くはないと思うよ?


それでも勝てない。



ああ、憎たらしい。




登校拒否してやる。





次の日、学校を休もうとしたら親に怒られた。



こんな髪で学校行けるか、って抗議をしても無駄で。



「髪ぐらいで学校休むな。どうしても行かないっていうならアンタの持ってる漫画全て燃やすから。」


と一蹴された。




まったく、年を取ると外見を気にしなくなるからやーねぇ。



なんて口が裂けても言えませんよ⁉︎



そんなこと言ったらお家を追い出されちゃう。




結局真に首根っこを掴まれて渋々学校に行くことになった。







「ダブル花宮おはよー・・・って、エチレンちゃんその髪どうしたの⁉︎やっべ、超傑作。」


学校につくと案の定馬鹿(原)に笑われた。


死ね。死んで輪廻を一周してこい。もしくは極楽浄土か地獄に行って2度と帰ってくんな。



しかも、そのデカすぎる原の笑い声のせいでバスケ部の奴らみんな集まってきたし。



「on the 眉毛じゃなくて over the 眉毛になってるな……って、何で俺だけ蹴んだよ⁉︎」



「アンサー:ザキだから。」



うっわ、叩かれた。



私を叩くとはいい度胸だな。



押しちゃうよ?


瀬戸のホクロ押して覚醒させちゃうよ?



そう脅しかけると今度は瀬戸に窘められた。



ごめんね、瀬戸。



その後わやわやしてると先生に「お前らチャイム鳴ってんぞ!」と、お叱りの言葉を戴いたので皆急いで教室に駆け込んだ。



真はちゃっかり先に行ってたみたいで。


1人だけ遅刻を免れていた。



そーゆーとこ抜け目ないよね。



ていうか今日怒られすぎてる、私。



これも全部この前髪が悪いんだ。




私が前髪を切った理由はまあ、月並みに鬱陶しいと思ったから。あと原とお揃いなんて言われるのがやだったから。



因みに前髪を伸ばしてた理由は眉毛がコンプレックスのためだ。



遺伝なのかなんなのか知らないけど、私の眉毛は見事なまでに真と同じ。



親は普通なのにね。解せぬ。



だから前髪は瞼くらいの長さを保っていたんだけど、最近忙しくて切るのをサボってしまった。



そしたら原みたく目が隠れるくらいまで伸びた。当たり前だ。


人間だもの。




そんなわけで、前髪を切ったんです。そしたら飼ってるネコが散髪中の私に飛びかかって来て……



もうわかるでしょ?私の髪は見るも無残な姿に変わってしまった。



大元を辿ればネコをちゃんと見てなかった真が悪いと思うんだけどね。



それ言ったらどうせ屁理屈述べて論破されるだろうから心に仕舞っておく。



偉いぞ、私。




中には眉毛を剃ればいいじゃんって思う人もいるかもしれない。



残念ながらそれは出来ないんだな。



何故ならうちの高校は眉毛を剃るのは校則違反だからだ。



もちろん中には剃ってる人もいるけど、私にはそんなリスクを犯す勇気がない。




「はあ、しばらくどうしよ…。ウィッグでも買うかな。」



教室で項垂れてると、同じクラスの古橋君が話しかけてきた。



思わず肩が跳ねる。



だって一年の時からずっと好意を寄せてたんだもん。



不意打ちには弱いんです。




「……どうした?花宮妹は薄毛や抜け毛に悩んでいるのか?」


ったく、こいつは…!



私まだピッチピチの17歳だよ⁉︎



禿げたりしてないからね⁉︎



「何言ってんの。ヅラじゃないから。朝見たでしょ?前髪だよ、前髪。」



私がそう言い返すと、古橋君は顎に手を当てて何かを考える仕草をした。



「ふむ…前髪か。俺は前よりも表情がよく見えるし可愛いと思うが。」




ぶっふぉぉお⁉︎



おい、誰だ。古橋君にそんなこと吹き込んだ奴。


か、か、か可愛いなんて言うようなキャラじゃないだろ!




「……頭でも打った?」



「いや、通常通りだが?」



「………。」



「………。」



嫌な沈黙が私達の間に流れる。



そんな時、真が割って入ってきた。



「おい、古橋。全部聞いたぜ。てめぇ、人の妹に手を出そうとはいい度胸だなぁ?」



「まだ手を出してない。」



「まだって何だよ?」



「そのままの意味だ。ああ、花宮が義兄になるのか。よろしく。」



「ふざけんなっ!誰がお前みてぇな死んだ魚のような目をしたやつに妹をくれてやるか。」



取り敢えず私を放置して話を進めるのをやめてほしい。



「あのさ、古橋君。ちょっと何言ってんのかわかんなかったんだけど…。」



2人の話をぶった切って古橋君に問いかける。



すると彼は珍しく照れたような表情を浮かべると、少し小声で答えた。



「花宮妹……いや、エチレン。お前が好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい。」



横では真がぎゃあぎゃあ吠えている。


けど、そんなのが気にならないほど私の意識は完全に古橋君に向いていた。



「えっ⁉︎本気…?」



「ああ、勿論だ。……嫌か?」



「嫌……なんて言うかよばか!嬉しいに決まってるじゃん。」



「そうか。よかった。ということで、花宮。末長くよろしく。」



「嫌だ。つーかエチレンも簡単にOKしてんじゃねぇよ。」



「真の言うことは聞きませーん。」





ずっとこの眉毛が大嫌いだった。



だから前髪切るのに失敗して絶望すら感じた。



でも、この失敗のお陰で好きだった古橋君と晴れて恋人同士になることができた。



相変わらず眉毛は好きになれないけど、この前髪には感謝……しなくもないかな。



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