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□今日から女子力上げます。
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「………何だ?コレは。」



丸井はそう言って私の作ったモノを凝視した。




「スコーンとジャムだが?不思議なことに誰も食べてくれないんだ。」



「何でどっちも同んなじ色してんだよぃ⁉︎ダークマターかと思ったじゃねーか。」




なんだ、色が悪いのか。



「香ばしさを出そうとしたんだがな……。裏目に出てしまったようだ。」



「香ばしいどころの騒ぎじゃねぇな。」




丸井はそう言って心底哀れそうな眼差しを向けてくるもんだから、私のHPはどんどん削られていく。




頑張ったんだがな…。






私が丸井に菓子を作った理由は端的に言うと丸井が好きだからだ。



去年同じクラスになった時から彼の誰にでも平等に接する点にはとても好感を持っていた。



そこから“好き”に発展したのはある日の体育の時間だった。



私はこんな性格だし、ショートヘアも手伝ってか、「可愛いね」よりも「イケメンだね」と言われる方が圧倒的に多かった。



だからか、体育でボールが当たったり接触事故が起きたとしても大抵「あ、悪りぃ、まあポリなら平気か。」程度で済まされるのだ。



別に不満に思ってる訳じゃ無い。



ただ、心配してもらえる女の子が羨ましく思ったりはする。




だから、私のために当てた奴を怒ってくれた……私を女子だと認めてくれた丸井に惚れるのは不可抗力だと言っても過言ではない筈だ。





そんな丸井が甘いものが好きだと知ったのはついこの間。



他クラスの女子が家庭科で作ったんだかなんだかで丸井に渡しに来てい てそれで知った。




無論、菓子など作ったことが無かったが、何とかなるさと楽観的な思考で家庭科部に入部した。




そして今に至る。



やっぱ呼ばなきゃよかった。



まあ、折角私の気持ちを知ってる数少ない友人が(いらん)気を回してくれたのに、無下にするのも如何なものだけど。





「済まない。お前なら処理してくれるかと思ったのだが……これは棄てよう。」




自分で言ってて悲しくなる。



それと同時に素直に丸井の為に作ったと言えない私に腹が立った。





「おう、次頑張れよ。」




そんな優しい言葉をかけないでくれ。


私は……私は…





「………料理出来ない女は嫌いか?」



不意に口をついて出た言葉は無意識な物で。



丸井が「え?」と聞き返して初めて自分が何を口走ったかを悟った。




「何でもない。上手く出来たらまた頼む。」




そう言い捨てると荷物を持って逃げるように調理室を出た。




まともに顔を見れる訳が無い。





次の日学校行くのは果てし無く残酷な苦行のように思えた。



今なら修行僧になれるぞ。





「丸井が鈍感なら良いんだが……。」





はぁ………。と、思わず溜息が零れる。



結局重い足取りでは登校にいつもの1.5倍くらいの時間が掛かってしまった。




教室に着くと、既に朝練を終えた丸井が10数人の女子に囲まれていた。



嫌でも会話が聞こえてくる。




……決して盗み聞きしてる訳じゃない。決してだ。





「ねー、ブン太の好きなタイプってどんな人ぉ?」




クラスでも派手な女の子が丸井にそう問いかける。



どうせ彼女らのような可愛い人が好きなんだろう、そうわかっているのに耳を塞げない。



しかし、丸井の答えは私が予想していたものとは全く違った。




「……料理出来ねぇヤツ。」





私ではない、そんなのわかってる。




けど、そんな言い方したら勘違いしてしまうだろう。





「変なのー。ブン太お菓子好きなのに。」



「そうか?代わりに俺が作ってやればいいだろぃ?」





女はあははー、それじゃあよろしくぅ!なんて笑い飛ばしている。




これ以上彼らの会話を聞いていたくない。



自惚れてしまいそうじゃないか。



私はHRがあと数分で始まるというのも忘れて教室を出た………が、結局途中で先生に捕まり戻る羽目に。




*****




「なあ、ポリ。お前、何で朝逃げたんだ?」



昼休み、1人で飯を食べているといつもはテニス部の輩と昼食をとっている丸井が私の元へ来た。



「逃げる?何のことだ?誰から逃げると言うんだ?」



そう白を切るが、彼は全て見透かしてるとでも言いたげな表情でただただ黙って此方を見つめていた。




「惚けんなよ。俺とクラスの女子の話聞いてたんだろぃ?」



「あんな大きな声で話してたら嫌でも聞こえるな。だが、私には関係ない。」



私がそう言ってそっぽ向くと、丸井は手で私の頬を掴んで無理矢理目を合わさせた。




「素直になれよ。」




彼はそう言うなり、私の口に何か突っ込んできた。クッキーだ。



「むぐ、べふひふはほはひほひだひ。」



「ん?美味いって?俺が作ったんだから当たり前だろぃ。」



「んぐ、じゃなくて。いや、確かに美味いが。私は素直だ。」



咀嚼してから丸井の言葉を正す。



しかし私の嘘は通じないらしい。




「じゃあその泣きそうな顔は何なんだ?」




バレバレだ。



あーもう、こうなったら当たって砕けろ!




「……私はお前が好きみたいだ。お前が私のこと眼中にないなんてこと知ってる。だが、お前の優しさに勘違いしてしまいそうなんだよ。もう優しくしないでくれ!」



「え?やだよ。俺だってお前のこと好きだし。」




あれ?頭やられたか?



今幻聴が………。




「おい、何か反応しろよ!傷つくだろ。」



中々返事をしない私には痺れを切らした丸井は返事を催促してた。




……ってことはこれは現実ってことでいいですかね。



「私は料理作れないぞ。それでもいいのか?」



私がそう聞くと、奴は「モチ。」と言って最高の笑顔で笑って私を励まそうとしてくれた。



「料理の腕なんて後天的なものだろ?これから…丸井の姓を名乗るまでに覚えればいいじゃねぇか。」



丸井の姓をって……え!?




今サラッとすごい恥ずかしい事を言われた気がする。




それでも嬉しい方が勝ってるあたり、私は丸井のことが相当好きなようだが。









私は決意した。



今日から女子力なるものを磨いて行こう、と。

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