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□女王陛下に捧ぐ
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「涼太、頭を垂れなさい。」
俺の彼女は一風変わっている。
「急になんスか?普通に嫌っスよ!!」
「……使えない駄犬だこと。」
こんな会話が日常会話だなんて可笑しいだろう。
そう思っても中々口に出せない。
嫌われたくないッスから。
そもそも、最初の出会いからして可笑しかった。
「あら、貴方が黄瀬涼太?赤司の言う通り犬のようね。差し詰め吠えて粋がってるチワワ…といったところかしら?」
出会って第一声がこんな酷い女の子は後にも先にも彼女だけだと思う。
なんでも、赤司っちの親戚らしくよく電話で言い合いをしてるのを見かける。
てか赤司家の遺伝子どうなんってんだよ!!
何度その言葉が出かかったことか。
でも、そんなこと言ったらきっとエチレンは
「心外ね。私は赤司家直系の者では無いけど?あんな中二病患者と一緒にしないで欲しいわ。」
と言って踏んでくるだろうし、赤司っちには
「涼太……。お前は死にたいのか?あんな悪趣味の女と一括りにされては不快だ。」
と言われて社会的に殺される。
だから理性で何とか留めた。
よく周り(主に女子)から何故エチレンと付き合っているのか聞かれるが、そんなの好きだから以外にない。
最初こそは“失礼な奴っスね”とかなんて思ったりもしたが、あの堂々とした、誰にも靡かない態度に惹かれて俺から告った。
初めは断られたが、3回位アタックしたらOKをもらえてスッゲー嬉しかったのを今でも鮮明に覚えてる。
「おい、黄瀬。何ニヤニヤしてんだ?あ、彼女だな!」
練習中彼女の事を考えてたら顔に出てたらしい、森山先輩に茶化された。
「そうっス。いっやーマジ可愛いんスよ!」
「うるせー、惚気なんて聞くか。」
「話振ってきたのソッチじゃないスかー。」
ちょっとわざとらしく唇を尖らせると「男がやってもキモい。」とお褒めの言葉を頂いた。
あれ?褒められてない。
最近エチレンの所為で感覚がおかしくなってきたかもしれない…!
「……俺Mのつもり無いんスけど。」
誰に言うわけでもなく呟くと、それを拾った森山先輩が不思議そうに首を傾げていた。
「こっちの話っス。」
そう誤魔化して、先輩からボールを奪う。
すると先輩は呆気にとられた顔をしていたが、すぐに奪い返そうと俺を追いかけてきた。
「あ、この野郎!人が油断してる隙に!」
「へへっ、人の色恋沙汰なんて気にしてていいんスか?」
「てめぇら関係ない話してんじゃねぇよ!部活に集中しろ!」
ついでに言うと笠松先輩にシバかれた。
*****
部活が終わると、外ではエチレンが待っていた。
「エチレン!こんな遅くまで待ってたんスか?」
「用事があったから。それにしても寒いわ。」
普通の……今まで付き合った女の子ならここで「涼太あっためて?」なんてありがちな台詞を言うのだが、彼女はどこまでも普通と違った。
「上着を寄越しなさい。」
「えっ⁉︎俺が寒いじゃないっスか!」
「貴方なら何とかなるでしょ。」
そういってブレザーを引き剥がそうとするエチレン。
酷いっス。
「あ、でも貴方に風邪を引かれても困る……クシュン。」
どうやら本当に寒いらしい。
鼻を真っ赤にしてはぁ、と手を暖めてた。
フワァ
「ブレザーは駄目だけどマフラーなら貸すっスよ。」
そう言ってマフラーをエチレンに巻いてあげる。
すると、彼女は「涼太の香りを纏うというのも悪くは無いわね。」と言って、微笑んだ。
ああ、ホント可愛いッス!
「エチレン、一生大事にするから。」
俺がそう言って抱きしめると、彼女は「当たり前よ。」と顔を真っ赤にして俯きながら呟いた。
俺、知ってるんスよ。
エチレンの少し高慢で高飛車な態度は全部愛情の裏返しだって。
だから彼女と居るのはやめられない。