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□僕だけのNo.1
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私は負けず嫌いである。
男も女も関係なく誰にも、負けたくない。
小学校低学年まではクラスで学力も50mのタイムも、握力もみんな一位だった。
身長は……まあ、生まれ持ったモノだから……。
本当は遺伝子を呪うほど悔しいが、それは仕方ないとして。
兎に角、全部1番だったのだ。
それが小学校四年生の時にある男ーーー幸村精市と同じクラスになった所為で、1番を拝むことは無くなってしまった。
屈辱だった。
自分が誰かより劣るなんて。
だから負けじと毎日勉強したし、中学に上がってからは陸上部に入部してリレー選抜に選ばれるくらいの実力はつけた。
しかし、やはり幸村には勝てない。
「あー憎たらしい。ねえ、真田。どうしたら幸村負かして1位になれると思う?」
「馬鹿者!知っていたら俺がとうに幸村を倒してるわ。」
真田に相談したら理不尽にもバカと言われてしまった。
「そんなこと言わないでさー。助けてサナえもーん。」
「俺は猫型ロボットではない。」
「そりゃそうだ。てか、真田がド⚫︎えもん知ってるって意外。」
「貴様は俺をなんだと思ってる…。」
「え…時代錯誤したおっさん…?」
「くたばれ。」
「ごめんなさい。」
酷いじゃないか。
なんて不満気に真田を見ても、彼は返事をする気が無いのか、はたまた相手にするのに飽きたのかで何も言葉を発しなかった。
仕方なく勉強道具を取り出す。
すると、真田はハッとしたような神妙な面持ちで「オイ。」と口を開いたので、私は「は、はい?」と若干緊張しながら返事をした。
「のび太は何故自力でジャイアンに立ち向かわないんだ?ド⚫︎えもんを頼りにするなどたるんどる!」
ふざけんな、私の緊張感返せ。
「……それはのび太ができすぎ君並みにデキる奴だったらドラえ⚫︎んはお役御免で22世紀に帰らなきゃいけないからじゃないかな……じゃなくて!何で⚫︎ラえもんの話になってんの!」
「お前が最初に振ってきたんだろ。」
「うぃーす。」
その後、結局打倒☆幸村の手立ては見つからず、時は刻々と過ぎて行った。
「んー、今日も勉強頑張った。」
そう伸びをして教室を見回すと、熟れたマンゴーのような橙色の夕日が教室中に立ち込めていた。
当然人はいない。
皆部活とかで忙しいのだ。
まあ、普段は私もその“皆”に含まれているんだけど。
今日は部活が休みだから特別だ。
綺麗な景色に私は好きなお菓子を一人占めした時にも似たちょっとした優越感を感じていた。
この空間を切り取って閉じ込めてしまいたいなぁ…。
校舎から出ると、辺りはすっかり薄暗くなっていた。
ふとテニスコートを見やるとミーティング中なのか人は居なく、代わりに部室は明かりが灯っている。
……幸村はいつ勉強をしているのだろうか。
陸上部は顧問の都合で休みになることはたまにあるが、テニス部はそうそうないはずだ。
しかもテスト期間であっても部活をしているときた。
………もう考えるのはよそう。
勉強量で勝ってるのに結果的に勝てない、なんてことになってたらストレスで胃に穴が開くわ。
次のテストは12月…まだたっぷり2ヶ月以上あるし、絶対1位をとってやる!!
何度目かもわからない決意をして、私は帰路についた。