うぉーあいにー!
□04 ランキング戦開始!
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校内ランキング戦ーーーーー
それは毎月2・3年全員を4ブロックに分けてリーグ戦を行い各ブロックの上位2名、計8名がレギュラーとして各種大会への切符を手にする戦いである。
だが、今回はかつてない空気につつまれていた。
一人の1年の参戦によってーー
「おおーっ、いったぁー!!」
「ゲームセット、ウォンバイ越前6-0」
本日は校内ランキング戦。
本来参加するはずのない1年…越前がすでに2連勝を決め込んでいた。
「…惜しかったな。」
「フゥー、見ての通りさ。結局、あいつ汗一つかかずに勝っちまいやがった。」
この2年の言葉通り、越前は汗もかいていなければ呼吸も乱してなかった。
「やったじゃん、越前!!」
「昼食の後、残りの一試合いよいよレギュラーの海堂さんとだよ。」
越前の快勝は他の1年にとっても喜ばしいことらしく、彼がコートから出ると堀尾とカツオが寄ってきた。
「3年のレギュラーには無理かもしれないけど、2年のレギュラーなら勝てたりしてな!」
堀尾が本人以上に期待に満ちた表情でそう発言したが、空腹に侵されている越前に届かなかった。
「ハラへった…」
堀尾を華麗に無視した越前は先程の試合結果を記録係である大石に報告して昼食を食べに部室へ向かった。
越前達一行が去った後、昼食を摂り終えたエステルが鼻歌交じりに歩いて来た。
「ふふふんふふふーん、ふふふふふーん♪お、大石じゃん。交代に来たぜ。」
「やあ、ポリ。確か次は乾じゃなかったか?」
「え、マジで?紙まともに見てねーからなぁ…。ま、いんじゃね?休憩行ってこいよ!」
これがエステルのデフォである。
大石をはじめとしたテニス部3年は最早慣れてしまっているようで、「そっか、じゃあお願いするよ。」と言うと席を立ち上がり休憩に行った。
一方部室では越前、堀尾、カツオの3人が昼食を食べていた。
「ランキング戦に越前が入ってる時ビックリしたけど、2連勝ってのもビックリだよな‼︎」
「堀尾君!食べながらしゃべんないでよ。」
堀尾が飯粒を飛ばすもんだからカツオと越前は弁当をさっと避けた。
しかし、堀尾はそんな越前達を気にも留めず例にもよって調子に乗った発言をしていた。
「同じ1年のコイツがレギュラーの座を取れたりしたら俺にだってチャンスが…」
「あーないない。」
それに呆れた様子で返すカツオ。
そんなとき、目に痣を付けたカチローが血相を変えて部室に飛び込んできた。
「リョーマ君いる⁉︎」
「あっカチロー。どうしたその目⁉︎」
「ちょっとがんばりすぎて、ボールが…そんな事より!撮ってきたよ!次のリョーマ君の対戦相手…海堂先輩の試合結果‼︎」
身体を負傷してもなおビデオを撮って来たカチローにカツオと堀尾は思い思いに賛辞の言葉を述べた。
しかし、当のリョーマは月刊プロテニスに没頭しているためか、まともに聞いてやしない。
「ああ、強いね。俺もちょっと勝てないかも。」
「え⁉︎リョーマ君がそんな弱気な発言……誰もそんなプロの記事の話なんかしてないよ!違うでしょ、もー!!」
「あー・・・・・何だっけ?」
「リョーマ君のためになると思って撮ってきたのに。」
身を呈してまでビデオを撮ったカチローの努力は無駄に終わってしまった。
その後、越前はトイレと言って部室を後にした。
行き場を無くしたビデオは結局3人で見ることになった。
場所は戻って受付。
試合を終えた乾がスコアの記入と受付を交代するためにやってきた。
「交替するからメシ行っていいよ。…ってポリか。タイムテーブルを無くした確率97%。」
「いや100%だろ。てか代わったばっかなんだけど。」
自分で言ってたら世話ないだろうに。
乾は本来居るはずの大石ではなく、エステルが居ることに多少面食らったような顔をしたが、すぐに通常運転に戻った。
キュッキュッと乾がスコアを書き込んで居ると、先程まで受付をしていた大石が帰ってきた。
「やあ、乾。お疲れ。どうだい?試合の調子は。」
「ああ。ほぼイメージ通りに勝ててるよ。でも、あの一年も予想以上にやるな。まだ1ゲームも落としてない。それより休憩に行ったんじゃなかったのか?」
「いや、ポリ1人を此処において行くのは心配だったから。」
「てめぇ、どーゆー意味だ?コノヤロウ。シバくぞ。」
今更だが呆れた口の悪さだ。
だが、大石や乾はもう何も言うまい…という領域に入ってるらしく、咎めることはなかった。
「ごめんごめん。そういえば、噂の1年は乾と同じDブロックだったな。あの子もかわいそうに。…おっと、そのノートあんまり近づけないでくれ。苦手でね。」
何とか話を逸らそうとした大石がそう言うと、乾はフフ…と含んだ笑みを浮かべた。
「ーいや、俺より前に…厄介な相手がいるだろう。2年に。」
「ケンカ売ってんスか……先輩。」
その2年とは…そう、海堂薫である。
しかし、天然なのか…はたまた計算なのかは与り知らぬ所だが、エステルが空気の読めない発言をした。
「え、その2年って誰だれ?……ってなんだよ、海堂かよ。驚かせんなよなー。」
その言葉にピキっと青筋を浮かべる海堂。
何とも危うい空気である。
「乾先輩……ポリ先輩を潰す許可をください。」
「そんな怒んなよなー。か・お・るちゅわん。先輩を潰すとか言っちゃあかんよー。」
「フシュゥ……。コノっ…!」
「海堂落ち着け!ポリも茶化さない!」
「悪りぃ悪りぃ。つい面白くって。まあアレだ。お前には期待してるから頑張れよ?」
「チッ、急にマトモなこと言わないでください。まあいいっス。俺行くんで。」
海堂は彼女のよくわからない激励の言葉で落ち着きを取り戻すと、照れを隠すかのようにスタスタとコートへ向かった。
エステルに対して怒らなかった海堂の精神力も中々のモノだが、海堂に睨まれて全く動じないエステルも相当大物だな。
そんな感想を大石と乾は抱いていた。
ここに居る全員はこの時心にも思って居なかっただろう。
次の試合が更なる波乱の幕開けだということを。
おまけ
「やっべ、手にマッキー付いた。洗ってくるわー。」
そう言ってエステルが向かったのは外に設置されている水飲み場である。
彼女は知る由もないのだが、現在その水飲み場付近では越前が壁打ちをしていた。
「あれ?何の音だろ。」
その事に先に気づいたのは顔を洗っていた桜乃だった。
何気無く音のする方角を辿ると、とうとうリョーマ居るところに行き着いた。
(リョーマ君だ。)
何と彼は、壁の1ヶ所だけにボールを当てるいう凄技を難なくこなしていた。
桜乃がすごい…と感嘆していると、彼女に気がついた越前が声をかけた。
「何やってんだよ。ヘタッピ。」
「ご、ごめんなさい。邪魔しちゃって。あのね、さっき聞いたの。試合だって。私…応援してるから。」
桜乃が僅かに顔を赤らめて応援の言葉にを述べると、リョーマは息を吐きながら帽子を取り、
「じゃあそろそろいこうかな。」
と自身に満ち溢れた表情で言った。
そして……
この一部始終を見ていた者が1名。
言わずもがなポリエステルである。
「あー、あのスーパールーキーか。彼女持ちとはマセたガキだな。青春ってヤツかー?あたしには彼氏すらいねーのになぁ。おっと、手洗うんだったな。」
この何でも無いような一件は彼女にほんの少しの、誤解を植え付ける結果になったが、それを越前が知ることはない。
To be contined.