文豪とアルけミスと

□二人だけの秘密の時間
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菊池がのんびりと自身の入れたコーヒーを片手に本を読んでいる
その膝の上には一匹のネコが占拠していた
緩やかな春の日差しの中同じくらい緩んだ表情の菊池はそっと膝の上のネコを撫でた
ネコはスリっとその手にすり寄りうっすらと目を開けた

「おっとすまない。起こしたか?」

菊池がそう言うとネコこと気まぐれな性格の織田が目をこすって眠たそうに頷いた
「あまりにも気持ちよさそうにしてたからな。つい撫でたくなった」
菊池の言葉をきき織田は機嫌を直したのか再び瞼を閉じた

ネコ毛でふわふわしてそうな織田の髪を再び撫で始める
二人の間にはゆったりとした時間と空気が流れていた




今日は潜書も司書の手伝いもない、所謂休館日

各好き勝手に過ごす様館長と司書に言われている為皆好きに過ごすことにした。
中にはお小遣いを強請って買い物に繰り出している物も居るし、館の中でのんびり過ごす者も居る。かといえば日帰りで旅行しに行く者も至り、故郷に行ってみたり自由に一日の休みを満喫していた

そしてオダサクこと織田 作之助も同じくのんびりと凄そうとおなじみの無頼派仲間の安吾や太宰と集まってそこら辺の本屋をからかいがてら見て回ったり生前の様にバーにいったりしようとしたが、あいにくと安吾は早々に三好に部屋の掃除しろとどやされて渋々と掃除をしていて忙しい様だし(巻き込まれる前に退散した)、太宰はあこがれの芥川大先生に茶に誘われそれはもうこの世の者とは思えないくらいに喜んで颯爽と出かけていった。(ので邪魔したら悪いのでそっと姿を見せない様にした)

他の先生方の邪魔になるのもアレだしと織田は一人溜息をつきつつも自室で執筆する気にもなれなかったためしばし何をして過ごそうかと考えた

結果残っている暇潰しとして本を読もうと暖かな日差しのあたる屋根裏部屋に二人用のこじんまりとしているソファーに一寸した数の文庫本のしまってある本棚がおいてあるだけの狭い場所は織田ともう一人だけの秘密の場所だった

のんびりとソファーに横になり適当に選んだ本を(三冊ほど)横の小さい箱の上に積み上げ、開き始めた

しばらく読み始め、一冊目が半分ほどに行く頃に春の暖かい日差しと陽気が眠気を誘い出した頃、きい、と扉が微かなきしむ音を立てて開いた
もう一人目のこの場所を知って居る人物がやって来たのだ

織田は素知らぬふりをして文字を追っては目をこすって、眠気を追い出して居た

「コーヒー、持ってきてやったぞ?飲むか?」
訪問者である菊池 寛がそういいつつ持っているお盆の上のコーヒーカップを織田に見せると織田は栞を探しているのか本から目をそらさずに手だけであちこちを探った

菊池がしおりを手渡すとさっそく「おおきに。」といいつつ受け取り本に差し込んだ

織田が起き上がってコーヒーを飲むと菊池が「それで、織田は何を読んでいたんだ?」ときいてきた
織田は「三好君の書いた本ですわ。」と背表紙をみせると菊池は忽ち不機嫌になった表情で本を取り上げた

「あ、酷い!読んどった所やのに!!」「そりゃ悪かったな」「何読んどるんかって聞いたん先生のほうやんけ。なんですのん?嫉妬でっか?」「俺が嫉妬しちゃ悪いのか?」「悪くは無いですけど・・・折角読んどったんに、とは思いますぅ」「それはそれは、楽しんでる所邪魔して悪かったな」「ほんまですよぉ」

織田がむくれてしまったので怒っているのは此方なのに、と不服そうな表情で菊池が渋々本を返すと織田は先程までの不機嫌な雰囲気をかき消し、本は読み出さずに膝に置きコーヒーを飲んだ
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