鬼魂~おにだま~

□始まり
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第一話「始まり」

物語の始まりは、いつも突然だった…。


雲ひとつ見当たらない晴れ晴れとした青空。その空の下で今日も平和に過ごしているのかと言うと…
「六車隊長!また副隊長達が逃げましたっ!!」
「またかっ!!」
「1時間前まで精霊廷通信の締め切りに間に合わせるために寝ずに働いたのに、休憩も無しで虚(ホロウ)退治だと?!殺す気かっ!!…て言って逃げました。」
「まあ、それは逃げたくなるな…。」
…そうでもないらしい。

精霊廷通信とは九番隊の仕事の一部であり、護廷十三隊と同じように瀞霊廷守護をし、その傍らで瀞霊廷通信の編集・発行を担当している。そのため九番隊は人手不足もあり、皆休憩を取る暇もなく締め切りと戦っているのだ。
「…仕方がねえ、お前らの中で動けそうなやつだけすまんが行ってくれ。」
「了解しました。」
六車隊長と呼ばれた短髪白髪の男、六車拳西は大きく溜息をついた。
「あいつら、仕事は全部片付けてからボイコットって…真面目ちゃんか;;」
「この様子だと逃げられたみたいだな。」
「うっせ!……あーもうっ、毎度毎度なんでこんなに忙しんだこの隊はっ!!」
拳西がブツブツと愚痴りながら頭を抱えているのを、青紫色の髪に前髪で左目を隠している青年、朱蓮は呆れながら溜息をついた。

朱蓮は元咎人(とがびと)だ。
元っというより、一護達がとある事情で地獄に行った際、連れて帰って来た(っと言う名の誘拐した)だけなので一応今でも咎人といえば咎人だ。ちなみにここにはいないが、長髪白髪の中二病臭い青年コクトーも朱蓮と同じ咎人だ。
「そーいや、お前何しにここに来たんだ?」
「やっと本題にはいったな…。黒崎一護等に用があったんだが、逃げられたのならここに用はなくなった。」
「わるかったな、逃げられて。」
朱蓮のバカにした笑顔に拳西は額に血管を浮かべた。
「そんなイライラするな、健康に悪いぞ?」
「お前がその原因を作ってるんだがな。」
「まあ、それは置いといて。」
「おい話を聞けよ、少しぐらい。」
「奴らの居場所は何時もの所だな?」
「おい無視か。」
「………」
「…そうだ…留魂街の端にある団子屋だ。」
拳西はヅキヅキと痛む頭を左手で押さえながら言った。
「大人しく言えばいいものを…大丈夫か?」
「一番の原因はお前だからな、わすれるなよ?!」
「何故だ?私はちゃんと心から心配しているぞ?」

---拳西がこの後、何度目かわからない目眩を起こしたのは言うまでもない。

「(もう、諦めた方が勝ちの様な気がしてきた…)で、一護や修兵になんの用で来たんだ?」
「総隊長がお呼だ。」
「…まさか…また総隊長の大事にしていた盆栽を燃やしたか?」
「違う。」
「じゃあ、また喧嘩で荒れ地にしたのか?」
「違う。」
「…また誰か拾って来たのか?」
「違う。」
「これも違うのか…一体どんな悪さしたんだ?」
「総隊長に呼び出されるイコール悪さにしか結べないのか、貴様は。」
朱蓮はすかさずツッコミを入れた。
確かに一護達が総隊長に呼び出されるイコール問題を起こしたとしか考えられないが、可哀想に思える。
「今回は任務の方だ。」
「またあいつら異世界に飛ばされるのか?」
「ああ、そうだ。だが今回はスカウトもして来いとの命令だ。」
「スカウト…そこまで人手が足りねーのか」
拳西は舌打ちした。

人手が足りないのには理由があった。
死神の事を忌み嫌っている色々な種族が死神の邪魔をするだけではなく、一部の過激な種族によって何人もの死神が殺された。
その事で、ここ数年間で死神の数がどっと減ったのだ。

「まああっちこっち飛ばされてばっかじゃあ身が持たないと考えた訳だな、あのじーさんは。」
「仕方がない、他の種族になぜか嫌われてるからな。」
「"なぜか"嫌われてるから…か。」
「?」
拳西の言い方に朱蓮は首を傾げた。
「知っているか?」
「何がだ?」
「死神が嫌われる理由」
「さあ?」
「そうか、知らないか…。だがそのうちわかる。」
「は?教えてくれないのか??」
拳西の意味が不明な言語に朱蓮はただ、頭にハテナを生産するしかなかった。

「で、じーさんがスカウトしてこいって言ったってことは、あいつらも本格的に死神の活動ができるってことか。」
「もう限界がきているのだ。」
「結界がか?」
「ああ、異世界と異世界の狭間にある虚の住処、虚圏(ウェコムンド)に亀裂が入っているのは知っているな。」
「あん時の事件で一応現場行って調べたからな。」
「…それとは別にまた大きな穴があったらしい。しかも前よりもかなりでかい亀裂が。」
「なっ?!」
「六車拳西、至急檜佐木修兵、黒崎一護、コクトー、白崎零破を総隊長の元へ来るよう言ってくれないか?」
「お前は?」
「私は阿散井恋次を呼び戻し、黒崎一護達と合流せよと言わねばならない。」
「なるほどな、わかった。」
拳西は大きく頷いてその場を去った。それを見届けた後、朱蓮は恋次を呼び戻すべく流魂街(るこんがい)へと歩き出した。

「へっっくしゅっ!」
「うわっ、おどかすなよ一護!」
「恋次お前、お茶。」
「は?…っ!あちっ!」
「おれは教えたぞ。」
「修兵、お茶じゃわからねーよwって、零破テメー俺の団子まで食ってんじゃねーっ!!」
「トロいテメーが悪いw」
「ってめっ、殺す!」
「コクトー落ち着けって!あ、ボインなレディがあそこにっ!」
「「「おい、とめてたんじゃないのか?!」」」

そんな事が起きているとも知らず、一護達はのんびりと団子を頬張っていたのだった。






物語の始まりは、いつも突然だった。いや、誰も知ることは出来なかった。
物語の始まりは突然、前触れも無く、我々の元へ現れるのだから…。
「だけど、誰もそれが始まりだとは言っていないよ?」

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