暁のヨナ 〜優しき緑の光〜
□第三話:超えてはならない距離
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次の日
目を覚ました蜜香は、海賊船の調理場と思わしき場所へと立っていた。
昨日、ギガンが船に乗せるかわりに挙げた条件の1つ…料理をする為である。
料理は、自身が居た世界でもやっていた為、何ら問題は無い。
あるとすれば、一体、どれほどの量を作れば良いのかが分からない事だけだ。
蜜香が考えあぐねいていると、ジェハが調理場へとやって来た。
「おはよ、ミツカちゃん。早起きして朝ごはん作ってくれてるの?」
蜜香はジェハの方へ体を向けると軽く会釈する。
『お早うございます、ジェハさん。朝食作ろうと思ってるんですが…作るべき量が分からなくて…』
ジェハは微笑を浮かべると、蜜香の頭に手を乗せた。
「食べ盛りの男たちがたくさんいるからね。1人で作るのは大変だから僕も手伝うよ。」
『…ですが、これはギガン船長が与えて下さった私の仕事…』
“私の仕事ですから” と紡ごうとした蜜香の唇を、ジェハは、人差し指をあてて遮る。
「ミツカちゃんも作るんだから仕事は全うしてるよ。それに僕は、好きでミツカちゃんを手伝うんだから良いんだよ。」
『…ありがとう…ございます、ジェハさん。』
「あー…、その呼び方なんだけどさ…」
ジェハの言葉に蜜香は首を傾げる。
ジェハは内心 “可愛いな” と思いつつ、言葉を続けた。
「ジェハ “さん” はちょっと…違和感があるから、“ジェハ”って呼んで欲しいんだけど…」
ジェハの言葉に蜜香の表情が固まる。
ジェハは蜜香の固まった表情に“自分は何かマズイ事でも言っただろうか?”
“また自分の発言で彼女の表情を曇らせてしまった” と嫌悪した。
ジェハは苦笑しながら言う。
「…嫌なら今のままで良いよ。」
ジェハの言葉に蜜香は顔を勢い良く上げると首を横に振った。
『…嫌じゃ無いんです。』
「…えっ?」
蜜香は、悲しげな表情をして顔を伏せた。
『(嫌では無い…寧ろ呼びたい。でも名前で呼べばそれだけ距離が縮まってしまう。それはダメだ。ジェハはこれからヨナ姫と出逢って、ヨナ姫に惹かれていくんだから…それを遮るような事はしちゃいけない…)』
蜜香が心の中で葛藤している中、ジェハは頬を緩ませると蜜香の髪に指を絡ませて言う。
「嫌じゃないなら…“ジェハ”って呼んでもらえるかな?」
髪に指を絡ませたジェハの行動に少し目を見開くも、それを悟られないように視線を逸らして蜜香は頷いた。