暁のヨナ 〜優しき緑の光〜

□第一話:選択
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マンションの屋上から身を投げ出した蜜香は、暗い闇の中をゆっくりと落下していた。

既に訪れなければならない痛みと大きな衝撃は一向に訪れない。

疑問符を浮かべた蜜香が目を開こうとすると頭の中に男性の声が響いてきた。


《お前は何故、死の淵へと自ら身を投げる?》



蜜香は響いてきた声に一瞬驚くも、迷いも無く答えを口にする。


『…疲れたから。あの残酷な世界で生きていく事が。』


男は尚も問いかける。


《他にお前が進むべき道があったのでは無いか?》


その言葉に蜜香は一瞬迷う素振りを見せるも、すぐに答えた。


『…無い。例えあったのだとしても、希望を無くした私には、あの世界で生きる事は辛すぎる。』


蜜香の返答に、男は悲しげに眉を寄せると、諭すように言った。


《新たな世界で、生きる気は無いか?》


『…新たな…世界?』


蜜香が言葉を繰り返した事に、男はやや口角を上げると言葉を続ける。


《その場所はお前も知っている場所ではあるが、お前の生きていた現世(うつしよ)では作話の世界。だが、またそれも1つの世界だ。その異世(ことよ)へお前を送る。》


現実離れしている男の話しに蜜香は緩く眉間に皺を寄せた。

蜜香は、眉間に皺を寄せたまま、男に問う。


『…私がその異世に行って生きる意味が分からない。私には、関係のない世界だもの。私は終わりを望んでいるのに、貴方はどうして生きろと言うの?』


蜜香の言葉に少しの間を開けて、男が答えた。


《お前がその異世を愛している事を知っているからだ。》


蜜香は男の答えに、ますます眉間に皺を寄せた。

蜜香の表情に、男は笑みを浮かべると尚も続ける。


《その異世で、私の…緋龍王の転成である少女と私の愛した四龍の戦士たちの行く末を見届けて欲しい。》


『(緋龍王!?四龍の戦士!?)』


男の言葉に驚き蜜香は閉じていた目を開く。

その目線の先には、暁の空の色を靡かせた男性…緋龍王が立っていた。

緋龍王は蜜香と目が合うと、優しく微笑み言葉を放つ。


《お前は異世での出来事を知っているだろうがその記憶の大半は封印されるだろう。現世と異世の混乱を避ける為だ。覚えていられるのはほんの一握りだろう。それをどう変えるかはお前次第だ。》


蜜香は緋龍王の言葉に首を傾げた。
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