『壊れてしまう前に…』 完結
□5.前兆
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「いってきまーす!じゃあね、カルピン」
「ほらあ」
テニスバッグを担いで走る。すこしギリギリかもしれない。
* *
「チース」
ジャージに着替えてコートに入ると、全員から刺すような視線を受けた。
「よく来れるよな。フラれたからって暴力振るうなんて」
「自分のしたことわかってんのかよ」
ボソボソと呟かれる言葉に、ため息が出る。
言いたいことがあるなら、ハッキリと言えばいいのに。
―――ガシャンッ
「あ……越前君………」
入ってきたマネージャーは、自分を見るなり震えた。
完全にテニス部を味方につけたようだ。
「りえっ!大丈夫??今日は休んでよう?」
「そうだぜ!悪いのは"アイツ"だしな!」
「そ……そんなこと……言っちゃだめだよ……」
「優しいね、りえちゃんは。でも俺たちはりえちゃんを傷つけた"アイツ"が許せないんだ」
「河村先輩……」
「…………」
何が目的なんだろう。
彼女の周りには、レギュラーだけでなく、テニス部全員がいる。
なのに、なぜ俺にこだわる?
フラれたから意地になってるわけ?
周りにいっぱい人がいるんだから、俺がそばにいなくてもいいじゃん。
少し感じた胸の痛みに、俺は気づかないフリをした。
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