NARUTO短編集1

□Birthday♪(Nver.) ☆
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十月十日、AM0:00。


ナルトは、火影の言うとおり、二階の部屋にいた。
ちょっくら借りてきた禁術書を寝ころびながら読んでいる。
すでに、横には五冊ほど積み上げられていた。


『あー、暇っ!!』


我慢の限界か、ナルトはとうとう巻物を投げ出した。
いつもなら、この時間には総隊長室で書類整理をしているか、任務に行ってる頃なのだ。
しかし、この日はどんなことがあろうとも、任務はない。また、書類もほとんどないのだ。
暇なら、寝たらいいのだが、寝れずにいた。普通の家庭では、全員が寝静まってる頃だというのに。
ナルトは、大きなため息をついた。
この日は、無意識のうちに警戒心が強まるのだ。そのせいもあり、簡単には寝付けない。

『はあ〜〜。』
《ため息ばかりじゃの》

ナルトの数十回目のため息に、九尾は苦笑しながら話しかけた。
さすがに、これ以上は放ってはおけないと思ったのだろう。
正解とも言える行動だ。
もし、今の状態が続けば、火影邸の半分ぐらいが吹っ飛んでいただろう。
ナルトのことを誰よりも知っている九尾は、それを想像してしまい、慌てて話しかけたのだった。

『暇だ。』
《任務もないからのう》
『今日一日は何もすることがないんだ。毎年のことながら、暇だ。』

ナルトの口からは、愚痴しかこぼれない。
九尾はそれを親身に聞いていた。
それから、禁術書を読んだり、九尾に話し相手になってもらったりして、長い夜を過ごした。

時間がこんなに遅いなんて感じたのは、久しぶりだ。

ナルトは、段々明るくなりつつある空を見上げ、そう思った。
いつもなら、時間が経つのが早すぎて、寝る時間がなくなり、睡眠をほとんど取ることができない。
まあ、今も別の意味で睡眠を取ることはできないが。
『ふー。早く一日が終わんねえかな〜〜。』
まだ一日は始まったばかりだというのに、早くもそんなことを思うナルト。





ふと気付けば、6時になっていた。

どうやら、眠ってしまったようだ。そして、周りに結界が張ってあることに気付いた。
『紅神?』
《目覚めたか。儂に感謝するんだな》
『結界張ってくれたの、やっぱり紅神だったんだ。ありがとうな。』
ナルトは、にっこりと自分の中にいる者に笑いかけた。
照れたのか、ふんという返事だけが返ってくる。
それに笑いながら、ナルトは外に眼を向けた。


『慰霊祭か………。』


ナルトの中に、自分の誕生日という行事はない。
今まで祝ってもらったことなどなかった。代わりに、自分を殺しに来る奴らはたくさん現れる。
ナルトは、ため息をつくと、部屋を出た。その足で、総隊長室に向かう。
あそこなら暇つぶしがてら、書類整理ができて、禁術書読み放題だ。

暗部の行き来する場所に近づくと、ナルトは音もなく、蒼煉に変化した。
慰霊祭のためか、人の影どころか、気配すらほとんどしない。

『(ここまで静かなのも、めずらしいよな)』
《普通ならありえんだろうからな》
『(それもそうだ)』
クスクスと笑いながら、総隊長室に入る。

すぐに強力な結界を張って、誰も入って来れないようにする。
その行動はもう、反射的と言ってもいい。総隊長室に張ったら、誰も来ないように結界を張る。その一連の行動をしたナルトは、机に向かった。
目の前には、2本ほど天井に届くぐらいの書類の柱が。

『思った以上に、量があるな。』

それを目の前にして、ナルトは苦笑した。
一枚を取り、眼を通していく。時間はたっぷりあるのだ。いつものように、急がなくても、問題はない。
数時間後、総隊長室はもぬけの空だった。
あれだけあった二本の書類の柱は何処に消えたのか。さっぱりとした空間だけが広がっていた。










『すごいな。』

AM8:30。


里には、慰霊祭のためにたくさんの人が集まっていた。
ナルトは、それを丘の上から見下ろしていた。誰も、ナルトの存在には気付いていない。
それは、木の葉最強部隊のメンバーも例外ではなかった。
里は、黒に染まっていた。空も悶々としていて、黒に包まれている。
里人も忍も、悲しみのためかほとんどの者が俯いている。

『こう、黒、黒、くろってのも案外気持ち悪いな。』

ナルトはそう呟き、顔をしかめた。
静かに、黙祷する。それは、自分の両親に対してだ。
下では、火影の話が始まり、誰もが耳を傾けていた。そんな中で、イライラしている人たちもいる。
慰霊祭は強制参加のため、シカマル達も参加していた。
しかし、抜けることができないために、心の中で悪態を付いていた。

それに気付いているのは彼の父親であるシカクや、そのほか、彼らを知る者、つまり各当主たち。

全員が全員、彼らの様子に苦笑している。

最初は、影分身を慰霊祭に行かせようとしていたのだが、当主達に無理矢理止められてしまった。










昼頃になり、やっと慰霊祭は終了した。ちらほらと家に帰る人たちが目立ち始める。

「((くっそ、おい、行くぞ!))」

声なき声が、特定の人たちの頭の中に響き渡った。
了承の声など誰1人返さず、全員が行動を起こした。
誰1人影分身をおかずに、誰にも気付かれないようにその場から離れる。

それでも、当主達にはバレていた。しかし、その当主達も、微笑むだけで特に止めることもせず、遠くから見送った。










そのころ、ナルトは死の森の自分だけのお気に入りの場所で寝ころんでいた。
彼らすら知らない場所。

バサバサ………

そこに来てから、どれくらいが経ったのだろう。遠くで鳥の羽ばたく音がした。
本当に久しぶりの休日に、時間の感覚がおかしいのか、今が何時頃か特定できないでいた。

『(何だ?)』

結界の外に、一羽の朱鳥が飛んできた。ナルトは結界を一時的に解き、中に招き入れた。

カサカサ……

『…………何だ?』
朱鳥から手紙を受け取り、中身を読んだナルトは、口に出して首を傾げた。
しかし、ここで悩んでいてもしょうがない。時間の無駄だと判断したナルトは、指定された場所に向かうため、立ち上がった。

一瞬にして気配も残さず消える。ナルトが消えた後、その場所は違和感もなく、周りは見えなくなった。










*火影邸:ナルトの地下部屋*


ナルトは、昨日から止められていた部屋に向かっていた。
指定された場所がそこだったのだ。
火影が許した者しか入れない結界を通り、階段を下りて地下に向かう。
足音だけが以上に響く。

『ここか。』
中から極僅かな慣れた気配がする。
ナルトは、小さくため息をつくと、そっとノブに手をかけた。手紙にあったとおり、気配を消さずにその場に立つナルト。


ガチャッ


ナルトは何の疑いもなく、自然に部屋に入った。………否、入ろうとした。


パンパンパーン!!


『っ!?』


開けた瞬間した音に、反射的にクナイを引っ張り出そうとする。
しかし、気配は見慣れた気配。クナイを外に出すことだけは止めた。


「「「「お誕生日、おめでとう!ナルト!」」」」


『何事だ?』


状況がつかめないナルトは、本気で問いかけた。

十月十日イコール自分の誕生日。

ナルトの中で、それは組み立てられることはなかった。
「とりあえず入れよ。」
シカマルは、予想通りだと、驚きもせず促した。
ナルトは、怪訝そうな顔をするが、素直に中に入った。
中は、自分が知っている光景とは、全く違っていた。
部屋のあちこちには飾り付けがされていて、知らない机がおいてあって、その上にはたくさんの料理が並べられている。
ナルトはそれを見た瞬間、こんなにも全員で食べられないだろ、と思った。


『んで?一体何事?』
中に入ったナルトは、早速尋ねた。
それにまず反応したのは、サスケだった。

「何事も何も、今日は何の日だ?」
「なら、それしかねーだろ。俺たちがお前の部屋に集まるなんて。」
シカマルも、サスケの言葉に次ぐ。

『今日?慰霊祭だろ。』

「「「「それもそうだが…………。」」」」

『それ以外何があるんだ?』


本気で分かっていないのか、ナルトは不思議な顔で首を傾げている。
4人は、そんなナルトを見て、顔を見合わせると、ナルトから少し離れてコソコソと話し始めた。


「おい、気付いてねーぞ!?」
「サスケうるさいぞ。サプライズも何も、あったもんじゃねーな。」
「どうするんだ?」
「まさか、こんな展開になるなんて。」
「イルカの言うとおりだな。ここまでとは……。さすがに予想外だ。」
「俺に対する暴言は無視かよ。」
「サスケ、うるさいぞ。」
「ネジまでか!?」
4人が頭を付き合わせながらコソコソ話してる様子を、ナルトは怪訝そうに眺めていた。
「と、とりあえず、ナルトに今日という日を自覚させて………。」
『今日がどうかしたのか?』
「「「「っ!!??」」」」


ズサズサズサッ


今日に話に入ってきたナルトに、4人は本気で驚いた。
話しかけるまで、気配に気付かなかったのだ。仮にも、木の葉最強部隊、零番隊の彼らが。
まぁ、ナルトが本気で気配を消せば、誰1人、例外なく見つけられないだろう。


「あー、本当に今日……というか、十月十日が何の日か分からないのか?」
恐る恐る尋ねるシカマルに、ナルトはやっぱり分からないという顔で首を傾げている。

『十月十日は慰霊祭だろ?ああ、目の日か?』

「「「「そんなことはどうでもいだろ!」」」」


的はずれな答えを返してくるナルトに、4人は見事に声を揃えながら突っ込んだ。
ああもう!どうして訳の分からんことは知っていて、自分の大切なことは知らないのか。
そんな思いが4人の顔に、アリアリと浮かんでいた。


『(今日、ねえ………。確か、夜に俺がじいちゃんにお願いして(脅して)暗部に入った日だっけ?総隊長になった日か?どっちだっけ?)』

やっぱり、的はずれな答えを出すナルト。しかも、暗部入隊のことなど、こいつらが知るわけがない。だから、話に出してくることはないのだが…………。


「はあ、ナルト。」
『ん?』
自分の考えに入り込んでいたナルトを、シカマルは呼んだ。
もう、こうなったら正直に話して、自覚してもらおう。シカマルの後ろには、少し疲れた顔のサスケ達。


「今日は、お前の誕生日。お前が生まれた日だろうが。」

『………………………………………そういや…………。』

「い、いやに長い間だったな。」


答えを言われてもなお、ピンッとこなかったナルトは、長い間のあと、何となく記憶にあるかな〜?みたいな感じで呟いた。
ネジは、少し顔を引きつらせながら、その長い間を指摘した。
否、そうでもしないとやってらんなかったのだ。

「ま、まあ、気を取り直して。」
「「「「お誕生日おめでとう!ナルト。生まれてきてくれてありがとうな!」」」」
『………………………。』

改めて4人がお祝いの言葉を言った。
それに対し、ナルトは一言も返さなかった。

「ナルト?」
イルカが心配そうに、俯くナルトの顔をのぞき込んだ。

「!………。」

イルカはナルトの顔を見て、優しく微笑んだ。
ネジやシカマル、サスケもイルカに続いてナルトの顔を覗いた。

「!?」
「っ!!」
「フッ。」

どうやら、ぐちゃぐちゃになったはずのサプライズは、成功したようだ。
その証拠に、ナルトの顔が真っ赤に染まっていた。
そして、嬉しそうに口元がにっこりと笑みを浮かべていたのだ。
シカマル達は、そんなナルトに顔を見合わせ小さくガッツポーズした。

「ナ〜ルト!」
「ナルト!」
「………ナルト。」
「ナルトー!」

4人はそれぞれナルトの名前を呼びながら、ナルトを四方から抱きついた。


『っ……。ありがとう。』


周りから抱きしめられる形になったナルトは、聞こえるか聞こえないか分からないような声で、そっとお礼を言った。
勿論、4人はちゃんと聞き取っていた。


「「「「生まれてきてくれてありがとう!これからもよろしくなっ!!」」」」
『……おう。』
ナルトは、柔らかい笑顔を浮かべ、頷いた。



今までなら、この日はずっと無表情だったナルト。
しかし、ちょっとした気の迷いでできた零番隊、……いまでは大切な仲間達のおかげで、今日は笑顔が生まれた。
そんなナルトを、腹の中から見ていた九尾も、本当に嬉しそうに尾を振っていた。


《(よかったのう、ナルト。お主は決していらない子供ではない。お主には、幸せになる
 権利が、誰よりもあるんじゃ)》


九尾は心の中でそう呟くと、ナルトの中から、ナルトと一緒に今日という日を、残り時間の最後の最後まで楽しんだ。
途中、火影も参戦し、その場には、笑顔が堪えなかった。










後で、ナルトは夜空に向かって呟いた。


“大切な仲間がいてくれて、本当に良かった。生まれてきて、良かった。”と。


そして、火影石に向かって呟いた。


“俺を生んでくれてありがとう”と。


その言葉は、たまたま(?)いたサスケ達4人には、ばっちり聞かれていた。
そして、シカマルに指摘されていた。


“お前を生んだのは、四代目じゃなくて、四代目の奥さんだぞ!”って。


勿論、報復を受け、シカマルが死にかけるのは、いつものこと。
すっきりした顔のナルトが、零番隊室で目撃されることになった。その顔には、笑みが浮かんでいたとかなかったとか。








“シカマル、イルカ、ネジ、サスケ。俺の側にいてくれてありがとう。これからもよろしくなっ!!”





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