『壊れてしまう前に…』 完結

□3.お願い
1ページ/2ページ



〔跡部side〕


手塚がドイツに行く前に、俺は手塚に呼び出された。




「アーン?珍しいじゃねぇーか。お前が俺を呼び出すなんてよう……なぁ?手塚」

「すまない」

「……"アイツ"のことか?」

「ああ。俺はドイツに行く。その間、"アイツ"を見ていてほしい」

「"アイツ"は納得してるのか?」

「……行って来いと、背中を押された。もう守られるだけの存在ではないと……」



その言葉だけで分かる。



「よっぽど試合したいようだな、"アイツ"は」

「……頼めるか?」

「……いいのか?俺で」


俺とこいつは似ている。

もちろん、"アイツ"に対してのことのみだが。


そのあたりを含めて聞いてやれば、一瞬手塚の眉間のしわが2本増えた。


「……仕方ない。それに、お前は"アイツ"の嫌がることはしないだろう?」

「ハッ、まぁな」


できるハズがねぇー。嫌われるのは何が何でも避けたいからな。


「できるだけ、早く戻って来いよ?青学と氷帝じゃ、フォローも限られてる」


しかも、俺はテニス部の部長と生徒会長を任されている。

手塚も青学で部長と生徒会長を務めてるから、その忙しさは知ってるはずだ。


「そのつもりだ。……じゃあ、頼んだぞ」

「帰ってきたころには、後悔させてやんよ」

「フッ、"アイツ"にそういう意味で近づくのは、骨が折れるぞ?」




―――そんなこと、言われなくてもわかってる。



だからといって、譲るつもりは毛頭ないがな。


「幼なじみだからって、遠慮はしねぇ」

「……ああ、俺も譲るつもりはない」


……結局、"アイツ"次第なのだ。


「まっ、早く帰ることだけに集中しろ。手はださねぇーよ。抜け駆けしても、面白くねぇーしな」


完全に自分を選んでもらうには、抜け駆けするより、正面から勝負した方がいい。


……その方が、お互いに諦めがつく。


「……何かあれば、連絡してくれ」

「ああ。……何もないことを願うがな」

「そうだな」


それっきり、会話もなく別れた。

お互いに牽制しあう俺たちが、抜け駆けなし、アピールなしで協力体制をとったのは、いつ以来だろうか。








その時は、何が何でも守ってやる、と意気込んでいた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ