『届かない真実』 完結
□8.悲鳴
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合宿から戻った翌日、リョーマはいつものごとく部内暴力を受けていた。
すぐにリョーマは抵抗をあきらめ、されるがままになる。
泣くことも、助けを呼ぶことも出来ず、ただ終わるのをじっと待っていた。
―――ズキンッ
「っ!?」
心が軋んだ。
リョーマは駆け巡る記憶に、一筋の涙をこぼした。
心の傷は開き、再び血を流した。
それを止めるすべを、リョーマは知らない。
ただ、心が空っぽになっていくのを感じていた。
「(……景吾……精市……親父……母さん……)」
空っぽの心に唯一残る温かな心。
彼らが昔くれた、温かな記憶。
今のリョーマには、それだけを支えに自分を保っていた。
けれど、決して助けを求めようとは思わない。
彼らにまで暴力が及ばないように。傷つくことがないように。
そのためなら、自分の身体を差し出すこともいとわない。
もう、迷惑をかけるのは嫌だった。
自分の所為で傷つくのは、耐えられなかった。
「(……どうして……俺は弱いのかな……?どうしたらいいのか……分からないよ……)」
―――リョーガ………
* *
「ん?チビ助?」
男は、首を傾げ空を見上げた。
あれからずいぶん経つ。それでもまだアイツの傷は治っていないだろう。
「気のせいか……。一度日本に戻っかな。チビ助に会いに」
男はそう言って、ニッと笑うと、人込みに紛れた。
リョーマと同じ顔の男は、再び日本の地を踏む。
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