テニス短編
□君の為に出来る事
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「どうかしたの?越前」
「あ……不二先輩……」
「……ちょっと部屋に行こうか」
外も暗くなり始めたので、練習を切り上げた一同は合宿場に戻ることにした。
今回の合宿場は一般人も利用する施設で、青学・氷帝・立海以外に、4人の女子グループも使用しているみたいだった。
そしてその4人はそれぞれ手塚・跡部・忍足・幸村&真田に絡んでいた。
イケメンばかりが集まるテニス部。
学校内でもファンクラブがあるぐらいだから、そうなってもおかしくはないだろう。
しかし、ただ一人……リョーマだけは違った。
なぜか、その女子が絡むたびに、何か訳の分からないモヤモヤした感じがするのだ。
それを見ているのが嫌で、一人逃げるようにそれぞれ部屋のあるフロアまで来ていた。
そして、そこで不二に会い、リョーマは不二に促されるままに自分の部屋に戻るのだった。
「顔色悪いけど、大丈夫かい??」
「大丈夫っす」
「そう?なら、……嫉妬でもした?」
「へ?」
「気づいてなかったの?女の子が彼に絡むたび、痛みを耐えるような顔をしてたけど」
「っ!」
まさか見られてるとは思っていなかったから、驚いた。
けれど、見ていたのなら不二先輩は知っているのだろうか。
このもやもやが何なのか……そしてなぜ彼が女の人と一緒にいると胸が苦しくなるのか……。
「なぜかわかりますか?」
「そうだね……。僕は……僕たちはずっと越前を見てたから理由も知ってし、君たちの気持ちも知ってる」
「じゃあ……っ」
「けど、それは自分で気づかないと意味がない」
「え……」
「以前の越前ならたぶん出会いがあれだったから気づかなかったと思うけど……今の越前は気づいてるんでしょう?彼らの気持ちに」
「………」
不二の言う通り、流石にあれだけアピールされたら気づく。
何かにつけて彼らの周りの人間は自分と彼を一緒にさせようとしていたし、スキンシップは激しかったし……
「手塚も跡部も忍足も真田も。みんな真剣に越前のことを想ってる」
「………」
「あとは越前次第だよ。別に敵だからって恋愛禁止ってわけじゃないし、うちも部内恋愛禁止ってわけじゃないしね」
といっても、男子テニス部だから恋愛どうこうはなかったけどね。
不二の言葉に、リョーマは初めて記憶を取り戻したいと本気で思った。
正直、今までは別にそこまでこだわってはいなかった。
テニスが好きなことは覚えてるし、身体が覚えてる。
記憶があろうとなかろうと、別段変わったことはないって言われていたし。
……それに、恋愛とか考えたこともなかった。
けれど、以前の越前リョーマはそうじゃなかったのかもしれない。
誰か好きな人がいたのかもしれない。
もし、自分が今気になってる人が好きな人と違っていたら……?
もし、何かの拍子に記憶が戻ったら……?
自分の気持ちは正しかったのだという確証がほしい。
そのためには記憶が戻るのが一番だ。
けれど、リョーマにはどうすれば記憶が戻るのか……その方法が全く分からなかった。
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