テニス短編
□君の為に出来る事
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一瞬にして凍った空気は医者が病室に入ってきた時点で無理やり破られた。
そして診断結果は……記憶喪失。
しかも、自分のことも周りのことも何も覚えていないという。
「じゃあ、テニスのことも忘れちゃったの!?」
「テニス……」
菊丸の言葉に、一瞬瞳が輝いた気がした。
ということは・・・
「てわけで、病院に"なぜか"設置されているテニスコートに来て見ました♪」
そう言って楽しそうに菊丸が示したのはテニスコート。
近くにはバスケットコートまで見える。
「どう?おチビ。何か思い出した?」
全員の視線が一つに集まったが、そこには誰もいない……。
「え?おチビ!?」
「ねぇ……誰か相手してくれる?」
慌ててテニスコートを見れば、あの勝気な笑みを浮かべてラケットでボールをつく姿が……
「ねぇ、これ俺のラケット?病室にあったやつ持ってきたんだけど……Echizenって俺のこと?」
「あ、ああ……。越前リョーマ。それがお前の名前だ」
「へぇー、で、誰か相手してくれる?」
「「「「じゃあ、俺が……」」」」
そう言って名乗り出たのは青学の手塚、氷帝の跡部と忍足、そして立海の真田。
お互いに牽制しあいながらラケットを取り出す。
「おい、手塚。ここは俺様に譲りやがれ」
「断る。越前はうちの生徒だ」
「たわけが。俺が相手してやる」
「あかんあかん。真田みたいな力バカに姫さん相手させられへんわ」
「越前、僕としようか。サーブは越前からするかい?」
「えっと……誰?」
「僕は越前と同じ青学――青春学園の3年不二周助。越前は僕のことは不二先輩って呼んでたんだよ」
「へぇー、不二先輩……ね。いいよやろっか」
名前を聞いてもピンと来なかったようだが、楽しそうな表情を浮かべてコートに立つ様子に、河村たちはホッと笑った。
こういうところは変わっていないようだ。
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