『届かない真実』 完結

□14.記憶
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リョーマが5歳の誕生日を迎えた。

人見知りなのは相変わらずだが、近所に住む人たちとは会話を交わせるぐらいにまで、心を開くようになっていた。

しかし、そんなときに事件は起きた・・・


少し落ち着いていた誘拐が、再び起こったのだ。


4歳になってから今まで、一度も起こらなくなった誘拐。

誰もが油断していたのかもしれない。

相手は、組織的なものなのか、警察も跡部や幸村、そして工藤家の捜索隊も探し出すことは出来なかった。








   * *


それから1ヶ月・・・


リョーマは発見された。

服はボロボロで、ほとんど裸の状態だったが。


誰が何を言っても、何の反応も示さなかった。

虚ろな瞳で、何かを見ている。

しかし、焦点があっていないため、何を見ているのか分からなかった。

リョーマは両親にさえ、反応を示さない。

まるで、生きた人形のようだ。


食べることも寝ることもしない。

ただ、誰かが身体に触れることを怯えたように身体を振るわせ、瞳が揺れている。





点滴で命をつないでるようなものだった。

そんな状態が1ヶ月も続いた。


リョーマの身体はやせ細り、これ以上は危険な状況に成り始めていた。

毎日のようにリョーガや跡部、幸村がリョーマに話しかけるが、全く成果は得られず、時間ばかりが過ぎた。


そしてある時・・・


「リョーマ君だね?少しだけ、体見せてね」

一人の男がリョーマを訪れた。

医者だと言う彼は、いつもの先生の代理で来たのだ。


男がリョーマの服を脱がそうと服に手をかけたとき・・・


「やぁ………あああ――――っ!!」

突然リョーマが叫んだ。

何の反応もしなかったリョーマが、手足をバタつかせ、イヤイヤするように泣きながら頭を振るのだ。



あまりのことに、その場にいた何人かが、リョーマを抑えようと手を伸ばすが、余計に泣いてしまった。


言葉ではない声を上げて、何かに怯えたように暴れるリョーマ。


南次郎さんですら、リョーマは嫌がった。


「リョーマ!!」

リョーマの母親がリョーマを抱きしめた。


「ああ―――っ!!」

「大丈夫、大丈夫よ。ここにはあなたを傷つける人は誰もいないからっ!!」

何度も言い聞かせると、ようやくリョーマは落ち着いた。

しかし、落ち着いたと同時に、またあの生きた人形のように、虚ろな瞳に戻る。


一体、何にそんなに怯えたのか。


「みなさんがリョーマ君に触れた時、どんな感じでしたか?」

「え?普通に頭撫でたりしたけど………」

「でも、何の反応もなかった………」

「リョーマ君の服を脱がせたことのある人は?」

「私だけです」

そういって名乗り出たのは、リョーマの母親。

リョーマの身の回りは、彼女がすべてやっていた。

………これだけは、誰にも譲らなかったのだ。



「……もしかしたら、男がダメなのかもしれませんね……」

「どういうことですか?」

「リョーマに何があったんだよ!」

「まさか……」

思い当たることがあったのか、南次郎は顔色を変えた。


「………正直、リョーマ君ならありえないことはないとは言い切れません。
 ただ、未遂であることは確かなので……それは安心してください。


 ただ、そのことがトラウマになってるのかもしれませんね………」




その時は詳しいことは理解出来なかったが、後日、リョーマの反応や、その話を何度もリプレイさせて、ようやく分かった。

それと同時に、犯人たちを殺してやりたいと思った。




どこかに感情をおいてきたように反応を示さないリョーマ。



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