novel

□あめ。
1ページ/1ページ



ビニール傘が好き。
雨は嫌い。

だけどビニール傘があればまだまし。


安物だとかありきたりだとか言われるけど、空が見えるから好き。
もっと言えば、世界が曇って見えるし心が落ち着くし雨粒が流れるのを見るのが好き。


「今日も雨か」


季節は梅雨。
雨が降らない日の方が珍しいくらいの毎日の大雨に年間降水量は更新されるばかりだ。


雨は嫌い。
少しは俺のこと考えてくれてもいいんじゃないの?

雨は嫌い。
だけど蒼い傘を持つあいつはもっと嫌い。


「はは、お前はまたビニール傘か」


幼稚園から高校までずっと一緒の学校に通ってる気に食わない、こいつ。

正反対の性格してるくせに、なんだかんだ毎年同じクラスになるし席もいつも前後。
離れられないように縛り付けられてるみたいで、なんかやだ。


「うっさい!!」


うざい顔で笑われてスマートに傘を開いて雨の中に消えていく。
沢山の傘の中ですごく目立つ蒼い傘。むかつくぐらい、鮮やかな蒼。


嫌でも目につくから。嫌い。嫌い。嫌い。


 


「朝は晴れてたくせに......」


委員の仕事で居残りしてる間にあたりは真っ暗ザザぶりの雨。


今日は天気予報見てこなかったから、傘なんてささずに気分よく登校してきたっていうのに。

下駄箱を出た階段で一向に止む気のない雨を眺める。

雨は嫌い。
ビニール傘を挟まずに見る雨はもっと嫌い。


「冷た...」


手を伸ばすと触れる水滴が冷たくて悲しくなった。


雨は嫌い。
嫌い。嫌い嫌い


「帰るぞ」


こういう時に颯爽と現れるこいつはもっと嫌い。
青い傘を広げて俺の腕を引っ張って立たせるこいつはもっと嫌い。


「なんでいるんだよ」


「俺も委員の仕事で」


嘘つき。
何の委員会にも入ってないくせに。


今朝、今日は傘持ってないのか?って聞いてきたくせに。


「もっとこっちに来ないと濡れるぞ」


濡れない右肩。
びしょびしょの左肩。


「テグン......」


小さくつぶやけば、驚いたように目を見開かれて動きが停止する


「何...?」


「いや、俺、お前に名前呼ばれるの好きだわ」


目を細めて笑うから。

そうやって、不意打ち。
そういうとこやっぱり嫌い。


「うるさい...チョンテグン...」


ビニール傘が好き。
でも今日からは、青い傘も好き。


青い傘の持ち主は、ちょっとだけ嫌い。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ