novel
□sugar
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いつの間にか冷たくなった風が頬をかすめた。
前髪がゆらゆらと揺れるたびに体温が奪われていくみたいに、
目の前にある闇はこの世界を覆い尽くした。
もっとも、反対の世界では明るい光が現れたばかりだろうけど。
あと何時間したら、光はこちらに戻ってくるだろうか
嫌になるほど遠くの未来を考えて既に冷たくなったコーヒーに口付けた。
たっぷりのミルクにたっぷりの砂糖。
そうしないと飲めない、
特に好きでもなんでもない飲み物に映る月が余りにも綺麗だったのを覚えている。
「眠らないのか?」
後ろから聞こえてくる声に振り向きもせず曖昧に返事をした。
正直、「テキトーに」の方が正解だったかもしれない。
自分はなんて答えたのかもう既に覚えていない
隣に来た彼の手の中の真っ黒なそれを見て嫌気がさす。
よくもまぁ、そんな苦々しいものを。
「苦くないの?」
クックッて喉の奥で堪えきれてない笑い声が聞こえる。
その表情、俺はあんまり好きじゃないよ
「甘甘にして無理して飲む必要あるか?」
わざと見せつけるように流し込まれる。
馬鹿にしてる、アイツ。
コーヒー=ブラックなんて、誰もそんな方程式組み立てていないのに。
甘甘でもなんでも、飲みたいから飲むのに。
馬鹿馬鹿しくなって、カップに入った残りのコーヒーを飲み干した。
溶けきっていな砂糖が口の中でザラザラと泳いだ。
それはあまりにも甘すぎて冷たくて。
これじゃ、誰かの思う壺じゃんか
「ジャファン達は寝たぞ」
「そ。今週は忙しかったしね」
本当は「は」じゃなくて「も」。
でもこれが幸せだから、別になんとも思わない
思えない
「お前は眠れ、ないのか?」
本当に、嫌なところを突いてくるコイツ
鈍感なくせに変なとこ勘がいいし、ムカツク
「うん、って言ったら何かしてくれるの?」
我ながら、嫌味な返事。
本当は自分すごく性格悪いんじゃないかって思っちゃう。
だからいい加減、お前じゃなくて名前を呼んでくれない?