novel

□自慢の友
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いつからか彼は、アイドルからアーティストへと変貌していた。
いや、アイドルらしいとこらはアイドルのままで、まさに良いとこ取りである


話してる時や笑ってる時普段の姿はまさにアイドルらしく愛嬌抜群で、
曲中は自分自身で全てを表現するアーティストなのだ。

表現するものは歌でも顔でもなく、彼はダンスを選んだ


シャツから伸びる細すぎる滑らかな腕は人の視線を独り占めにし、
背に比例しないくらい大きな1歩を踏み出す足はほど良い筋肉がつき

どんな時だって彼のアキレス腱はしなやかに伸びる。


抱き締めればわかる体の細さに、年々線が細くなってきてるのがよくわかる。


小さい小さいと馬鹿にされる彼の身長も、他のグループと比べて並べると大きいに違いがない。
しかしグループでいる時は彼は最年長であり最小であり、あまりの小ささに馬鹿にしつつ愛おしくも思う


だがしかしそれは彼がアーティストになる事で覆される。


小さい肩幅も腰も顔も細い腕も、
ダンスと言うベールをかぶった瞬間全てが大きく見える

普段からよく喋り、よく笑い、そしてよく泣く彼の存在感は言わずとしれず。
その存在感は曲中でも発揮される

アーティストになった瞬間、全ての人の視線を独り占めし、
かつ虜にさせる表現の仕方を知っている彼は、ステージの中心で小さいながらも大きく大きく体を動かす


尚且つ愛嬌抜群の彼は踊り出すと表情が一変する。
まるで本当に別人かのような。

その瞳で見つめられるともう逃れることは無理だろう


頭のてっぺんからつま先まで、声も表情までからもフェロモンをムンムンと出す彼は、
一緒に踊っているだけでも飲み込まれそうなのである


「おいこらチョンテグン聞いてるか?」


何よりも、それを無意識にやっているところが彼の1番怖いところなのである



そうやって睨みつけてくるその瞳すら目を合わすと離れられなくなりそうだ。
レオが黙って頷くとエンは一瞬ニコッと口元を緩ませてまた一生懸命に口を動かし始めた


心地いい声が耳を通って脳内に入ってきて頭が彼に埋め尽くされる。
ああ、いつの間にか自分は彼の虜になっていて、もう離れられ無いみたいだ。

なんて考えてるとミーティングは終わり、弟たちは個々に伸びをしたりため息を漏らしている。
当人の彼は分厚い資料をトントンと揃えると、またそれに視線を落とした。

蛍光ペンで引かれた文字の近くには彼の字がいくつも並んでいるのが見える


刹那、彼の瞳孔が少し開き口元が紡がれた。
なにか疑問に思ったのかもしれない。
少し考える素振りを見せると勢い良く立ち上がり、さっきまで一緒にいたスタッフの名前を呼びながら部屋を出ていった


そんな姿を横目に、弟たちは口々に言葉を繋ぎ始めた


「やっと終わった....」


「ほんと、今日はやけに長かったですね」


時間が時間なだけありマンネラインはやけに眠そうに目をこすってミーティングルームを出て行った。

コンサートの為に他国に来てとあるホテルに泊まっていて
今日の部屋割りはマンネライン、ケンラビ、そして俺たちだ。


「ヒョン、お先します。おやすみなさい」


ケンとラビはソファに座っていた俺に頭を下げると楽しそうに笑いながら部屋を出て行った。
かなり静かになった部屋に1人、レオは取り残された。


渡されたコンサートの資料を見て頬が緩む


歌がすごく好きだ。
聞くのも歌うのもどちらも好きだ。

このグループに入ってボーカルを任されたときは心が踊って
世界中の人々を幸せにできるような歌を歌いたいと思った
彼もきっと同じ考えだろう。

歌と踊りじゃ勝手が違うが、目指すステージは同じところにある。


性格も考え方も自分とは全く違う彼に、いつも刺激をもらってばかりだ。


同い年なのにこうも違うだろうか......


「レオ、ごめんお待たせ」


ドアから覗かせた顔はへへへ、と笑っている
レオはのっそりと立ち上がるとエンの頭を押し付けるように撫でた。
撫でた、というよりかは頭に円を描くように手を動かしてグイグイと下に押し付けたんだけど


「ちょ...っ」


驚いたように目を見開いたエンにレオは1人、ニヤついてしまいそうなのを我慢していた。

後ろから待って、なんて声も聞こえてきたけどレオはフッと小さく笑うと後ろも確認せずにスタスタと部屋に向かっていった
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