novel

□Cinderella
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“先に寝てて”


エンは弟達にそう言ったらしい。

ここ最近はずっと忙しかったから、弟達が寝室に入っていくのは早い時間だった


普段は遅くまでわいわいと語り明かしてて
レオが怒らないと寝ないようなまだまだ幼い4人なのに


(本当はエンを待っているのかもしれないけど)


聞いてるだけでも頬が緩むような話を横に本を読むのが日課になっていた毎日だけど

今日は弟たちがいないのもあってやけに静かだった


まるで生きているのが自分だけのような
そんな奇妙な感覚に襲われた


嫌いじゃない。けど



その先は言葉にならなかった


そんな時、カチャ、と玄関の方からドアが開く音が聞こえてきた。


エン......なのだろうか...?

やけに早すぎる帰宅に胸がザワザワと騒ぎ立つ


本を閉じて玄関に向かうと、靴を脱いで上がろうとするエンと目が合った


「ただいま」


いつものような笑顔でいつものような声で普通に言うと、洗面所に向かっていった

ジャバジャバと水道で顔を洗う音が聞こえる


「おい、エン...今日はやけに早いな」


言葉の使い方が下手くそすぎて自分自信にもどかしくなる

ああ、もっと言葉のレパートリーがあればいいのに。


自分は言葉を知ら無さ過ぎる


「......今日はちょっと、ね」


言葉が不自由なだけに、心の変化には敏感なのである。

エンが少し落ち込んでしまったのがわかって、それ以上かける言葉を見失った


「......魔法は12時にはとけちゃうんだよ」


俯いてそう呟くエンを横目に部屋の時計に目を移す

時計の長針は2を、短針は12をちょっと過ぎたとこにいた


ああ、なるほど。



12時の方に針が指す前に、シンデレラは舞踏会から去らなければならない。

魔法で作ったドレスも靴も、馬車も、メイクでさえも全てシンデレラの元から去り
シンデレラはまたいつもと同じような日々を繰り返すのである



エンにかかった魔法は、今はもう全て消えてしまっている


ステージの上のカリスマもリーダーらしさも、エン自体の存在感でさえも

魔法がとけた今では何も感じられなくなってしまっているのである



レオはエンの頬に手を当てて微笑んだ
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