夏空
□第8章
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玲奈のご両親だった。
珠理奈ちゃんは車を降りて、そのまま走ってきたから2人とは距離があいてたんだろう。
「宮澤くん…」
お父さんの声が聞こえた。
「玲奈は…どうしたの?」
お母さんの泣きそうな声が聞こえた。
俺は椅子から転げるように廊下に座った。
「すみませんでした!俺が、俺が…待ち合わせに遅れたから…!」
何度も何度も頭を擦りつけた。
皆、最初はあっけにとられていたようだった。
「お兄ちゃん?な、何言ってるの!?お兄ちゃんのせいじゃないんでしょ?お兄ちゃんはいなかったって聞いてるよ…」
「そうだよ、宮澤くん…頭を上げなさい」
「すみませんでした、すみませんでした…」
俺を殺してください。
そんな気持ちをこめて何度も頭を下げた。
「佐江…」
そっと俺の肩に手が置かれた。
「ほんまに…ごめん…」
「…山本のせいじゃないよ、俺が遅刻して玲奈を待たせたからだ」
そうだよ。俺が時間通りに来ていれば良かったんだ。
そしたら2人でデートして、暫くしたらすごい音がして。
なんだろうね?とか言いながらも舞台を見に行って玲奈を送って…。
後で「あれって事故だったんだって!危なかったよね」なんて言ってさ。
…それが。
「俺、玲奈がもし…玲奈に何かあったら…」
「宮澤くん」
お父さんが俺の肩を掴んで立たせた。
びくっとして、言葉を止める。
「玲奈は今手術中だ。懸命に戦ってるよ」
手術中、と光っているランプを見上げる。
「だから、何かあったらなんて言わないで欲しい。黙って終わるのを待とう」
「…すみませんでした」
俺は馬鹿だ。ご両親だって辛いんだ。
珠理奈ちゃんも普段の元気な様子が嘘みたいに泣いている。
皆も泣いている。
玲奈…。
俺、これから頑張るよ。
一緒の大学行くんだよな?
そしてずっと一緒で、いつか就職したら結婚とかさ。
気が早いよって笑うかな?
でも俺にとってはもう当たり前に考えてることなんだ。
それから、あの恥ずかしいおまじないというかポエム?
あれだって玲奈が求めるなら何度だってやるよ。
お願いだ。
だから命だけは。
俺、まだ玲奈とやりたいことたくさんあるよ。
行きたいところだってたくさんあるんだ。
手術の時間が終わるのを皆で待った。