夏空

□第1章
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「あーー!佐江、ここにおったんやー!!」



やたらと大きな関西弁が聞こえてきた。

そっちを見るまでもなく誰が来たかはすぐに気付いていた。




「佐江はいません」

「いやいやいや!おるやん!居留守使わんといて!」



ニヤニヤしながら俺の寝転んでいる場所まで近づいてくるこいつは山本彩。

3年のクラス替えで同じクラスになった女子で、初対面からやたらと馴れ馴れしかったのは覚えている。

俺は彼女を知っていたが、まさか向こうから声をかけてくるなんて思わなかったのでやたらと驚いたもんだ。





何故知っていたかと言うと山本はこの学校の有名人。

軽音部に所属していて、学校のイベントでは人気者でもある。

普段もよくライブハウスなどでバンド活動をしていて、既に芸能界からのスカウトの声もかかっていると聞いている。

体は小さいがきりっとした目とスタイルがいい!って男どもも騒いでいたっけな。




「むー、無視せんといてや?」

「え?」

「この山本さんがわざわざ探しに来てあげたんやで。なのに、あんたはボーっとしてからに」

「あー、すまん。お前のパンツを見ていた」

「ええっ!?ほんま!?な、何みとるん!?変態!!」



慌ててスカートを押さえて俺から距離をとる山本。

ちょうど寝転がっている俺の頭のほうから近づいて来てたしね。




「嘘嘘。見えてないよ。第一お前のパンツなんて…いえ、何でもありません」

ホッとした顔の山本の形相が変わりつつあることに気付いて言いかけた言葉をぐっと飲み込む。

うん。段々と奴の扱い方に慣れてきたね、俺。




「ねぇ、佐江?授業出ぇへんの?」

「お前だって出てないじゃん」

「んー、山本さんは別にもう出らんでも、な?」




そうだった。

山本は既にいくつかのオーディションを受けたりしていて、いい返事をもらっている事務所もあるらしい。

つまりは高校を出たら本格的に芸能事務所に所属してアーティストデビューをするんだとか。



「へえへえ、進路が決まっている方はいいっすねぇ」

「佐江だって今から頑張ればわからへんやん?実際、この学校に受かっとるんやから」

「俺は大学に受かってもその後の目標もないし。かといってなりたい仕事があるわけじゃないし」



山本は溜め息をつきつつ、俺をジト目で見つめる。



「なんだ、その目は」

「何やねん、生活にくたびれたおっさんみたいな言葉やなあ」



おい。今のはちょっと傷ついたぞ?

しかし言い返せる訳でもない。

実際俺の考えって終わってるよな…。

うっ、なんか泣けてきたぞ。
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